王家VS最弱・4
地面から突如として出現する巨樹。出現する前兆のようなものがないため、全部ギリギリのところで交わしていく。
「そらそらそらぁあ!!」
がさがさの声で笑いながら、まるで子犬とじゃれているみたいに、オウガ様は無邪気な子どもそのものだった。
このままじゃ埒が明かない。そろそろ次の段階に移行しないと……。
俺で遊ぶオウガ様へ、ある真実を突きつける。
「オウガ様の一族は誰一人として薄紫色の瞳をもっていなかった。ってことは、王家はカンムとジンムの血筋じゃないってことだ!!」
人体実験をしてまで王家を存続させてきたのは、力を保持し国民の信頼を得るためだ。そして、走流野家を消そうと目論んだのは、走流野家が王家の血筋だと公に知れることを恐れたため。だけど、この人が王家や国民よりも愛しているのはタモン様だ。
「テンリが言っていた!! トアの墓を暴けば、そこにあるのはタモン様に関する真実だって!!」
「なんの話しだ……」
森王爆の攻撃が止む。
「これだけじゃない。テンリは自分がタモン様の弟だって言って、オウガ様の今後の予定をぜーんぶ話しやがった。蛍って人が阻止しようとしたけど俺が倒した」
黄色い霧が消えていく。〝作戦成功〟だ。
「オウガ様、タモン様は全てを知りました。あなたが行おうとした混血者と人間の分離が失敗したのも、全国帝に文書が送られたからですよ。話し合いで済めば、タモン様も考えると言っていたのに。残念です」
落ちた穴から青島隊長とイオリが出てくる。
「貴様らっ……」
青島隊長が俺より前に立った。
「申し訳ありません、オウガ様。トラップの場所はタモン様から事前に聞かされています」
言いながら、写真をポーチにしまう。
「国帝も民も、これまで王家を信頼し、愛し、尊いものとして崇めてきた。だが、もう終わりだ」
「終わり……?」
「誰もあなたを信じない。あなたはやりすぎた。それに、兄弟のうちどの血筋かなんてものは関係がない。その玉座はヘタロウさんの物です。薄紫色の瞳であることが、何よりの証拠だ」
「…………」
沈黙して、鬼化を解く。それから玉座に深く座って「クククッ」と小さく笑った。
なにがおかしいんだ? 王家は、国民の信頼がなければ成り立たないってのに。
「勘違いをしているようだ」
「というと?」
「王家は人間の存続のために、長い間をそれに費やしてきた。わしもそうだ。そして、これは〝どの王国〟に置いてもそうだろう。王には、民の命を守る義務があるのだからな」
青島隊長の目が据わる。
「わしはこの王国を救おうとした。しかし、無駄に終わった。新時代への幕は閉ざされた」
「お話の意図が掴めません」
「その必要はない。この王国が欲しいのだろう? くれてやろう。こんなちっぽけな世界でよければ、好きに暮らすが良い。ただし……」
年寄りらしくない、生気に満ち溢れた瞳が青島班に向けられる。
「待ち受ける未来は決してお主らを出迎えてくれはしない。わしが王でなければ、王国に暮らす全人類と生き物は必ず死を迎える」
そうして、オウガ様は視線だけを俺に寄こした。
「テンリが全てを話したなら、神の存在も聞かされたな」
「勿論です」
「一つ、質問しよう。お主にとって神とは、どういった存在だ。答えてみよ」
だいたいがひげ面で、上半身裸で、ちょっと筋肉が付いていて、頭に変な輪っかをつけているオジサン。そしてそいつは、
「世界を造る人」
そういうのが、俗に言う神様だ。
つまり、神様とは、創造神だ。前に住んでいた世界でも、「地球も人間も神様が創ったのよ」って母さんが言ってた。
「走流野ナオト、それが全ての答えだ。あとは自分で導き出せ。お主の先祖が何をしたのか、どうして土地神がこの王国に暮らしているのか……。そこに答えは潜んでいる」
精鋭部隊に肩を掴まれる。帰れ、という意味だろう。
❖
北闇に帰還してタモン様に報告を行う。
やはり、気になるところは同じみたいだ。
「王国?」
「はい、そのように仰っておりました。初めは南光のことだと思いましたが、全人類と例えたあたり、全国を称して王国と発言したかと……」
「つまり、俺の作戦は成功したが、また別の謎が生まれたわけか。面倒なジジイだ」
出発する前に行われた作戦会議で、タモン様は3つのことを青島班に託した。
1つ、走流野家に関する情報を得ること。
2つ、オウガ様の能力を確かめること。
3つ、テンリの名前でどのような反応を見せるか。
3つとも情報を持ち帰ることに成功したけど、俺には気掛かりなことがある。
「ユズキの名前が出てきませんでした」
黒い狼・ラヅキ。そいつが神様だと父さんは話していた。オウガ様の口からも「神」との言葉がでてきた。現状、神様に最も近いのはユズキだ。
「もしかして、王家はユズキがなんなのか把握していないんじゃ……」
「まあ、当然だろう。俺ですらあいつのことはよく分かっていない。神の器で、混血者と同じ能力を持ち、記憶喪失であるってこと以外だがな」
あれ? おかしいぞ。言われてみれば、俺もそれくらいしか知っていない。そもそも、ユズキってどこから来たんだろう。
上級試験があって他国に知り合いが増えた。格闘技場には四大国から大勢の国民が観戦しに訪れた。だけど、誰一人として彼女を気に掛けた人はいない。
(……――っ、馬鹿か俺はっ。答えは数年前に出ていたじゃないか!!)
ユズキが北闇を出たあの日。彼女は自ら答えを口にしていたのに。
「そういやあ、テンリにも似たような事を言われたな。ヘタロウが黙秘した理由と、王家が幽閉した理由をよく考えろってな。回復を待つ他ないが、お前の先祖はいったいなにを」「タモン様!!」
言葉を遮ってしまった。
喉をせり上がってきた答えが衝動で吐き出される。
「ユズキも俺と同じです」
「なんだ、突然」
「だから、同じなんですっ!!」
「主語のへったくれもない内容を俺に理解しろと言いたいのか? 降格させるぞ」
「す、すみません。えっと、……ユズキは冬を知っていました」
あの日、ユズキは俺にこう言った。「お前は〝冬〟を知っている。これこそが答えなのに、僕にはそれ以前の過程を聞き出すことができなかった」、と。彼女も冬を知っていることになる。
つまり、
「ユズキには記憶がないんじゃない。話せなかったんです。……自分が、異世界から来たことを」
だから、誰もユズキを見たことがないんだ。あんなに綺麗な白髪なのに、誰も印象に残っていないのは変な話しだ。
「おいおいおい、まさかそん」「タモン様、失礼します!!」
またもやタモン様の言葉が遮られる。入ってきたのは伝令隊だ。
「今度はなんだ」
「東昇のネネ様から伝令!! 変異体、最後の1体で苦戦を強いられている模様!! 至急、増援に来られたし!!」
「わかった。ご苦労、下がっていい」
タモン様が深い息を吐き出す。
「ユズキの件は後回しだ。いいな?」
「はい」
「青島、合図を頼む」
「了解しました」
青島隊長はお焚き上げの中に緑色の粉を入れた。白い煙が緑色に変わる。
数時間後、青島班は五桐班の増援に向かった。威支と合流すると、そこにはユズキの姿もあった。




