王家VS最弱・2
次の日の朝。
答えがでなくて、俺とヒロトは威支の2人に見守られながら鎮座していた。
(人間か、混血者か……。俺に選べるのか?)
――いや、絶対に奪われてなるもんか。これ以上、もう失うわけにはいかない。
自由のない暮らしがどれだけ人を追い込むか、俺はよくわかっているつもりだ。
鍛錬場で暮らす事を余儀なくされたイツキ。俺なんかのために、国を裏切る形で敵の組織に身を置いたユズキ。常に信用と実績を背負っていたツキヒメ。人間よりも自由に見えて、実は胸の中で葛藤と戦い続けてきた混血者のみんな。誰もが本当の自由を知らない。
この世界では俺も自由ではないけど、前の世界じゃそれはもう自由だった。
「……よし、行こう」
「どこにだよ」
「着いてきて」
キトが消え、ヒロトとイッセイは着いてくる。
外に出ていた国民の表情は険しかった。ビラを手に持っている。内容は説明しなくてもわかるだろう。今頃、ソウジたちは荷造りを始めているはずだ。
走って、走って、走って。本部までの階段を駆け上り、本部にある一室の前で立ち止まる。
台の上に置かれているマイクを握って呼吸を整えた。
(自由……)
小さい頃、たくさんの愛情とオモチャを、そして言葉と食事を与えられた。少し大きくなって、保育園では先生に絵本やブロックでの遊び方、友達との接し方を教えてもらった。そうしながら小学生になった頃には、当たり前のように友達ができて、当たり前のように笑って話せていた。
本やテレビ、オモチャやゲーム、洋服やスポーツ用品。どれも、自分で買ったものではない。
自由を与えてくれたのは、俺を大切に育ててくれた両親だった。そう、自分で得た物じゃないんだ。
自由とは、他人が人に与えられる物でもあるんだ――。
マイクの電源を入れると、外から音割れが聞こえてきた。強く握りしめ、そして、
「皆さん、おはようございます。走流野ナオトです。少しだけ話しを聞いて下さい」
思い出せ、両親の笑顔を。思い出せ、青島班の仲間を。思い出せ、同期に救われたことを。思い出せ、ユズキとツキヒメの勇気を。思い出せ、自由を――。
「昨夜、王家から重大な発表がありました。混血者の力は重度の肉を食ったことによるものだ、と。この不確かな情報を知って、怖くて仕方がないと思います。同時に、北闇や西猛を襲撃した重度と結びつけて考えていると思います」
だけど、そうじゃない。
「その恐怖は、かつて皆さんが爺ちゃんや父さんに抱いた気持ちではないでしょうか。俺やヒロトに囁き続けてきたものではないでしょうか。イツキを追い込んだものじゃないでしょうか。そんな皆さんが早とちりする前に、ある情報を公開します」
もう、繰り返させない。マイクを握る手が熱くなる。
「……西猛と月夜の襲撃、そして神霊湖で俺たち闇影隊を襲う作戦を企てた首謀者はテンリという男です。格闘技場でグリードを率いてやって来たあいつです。奴は、王家が生み出した生き物だ。実際にタモン様が捕らえようとした時、南光の精鋭部隊が駆けつけましたが、テンリではなく目撃者である俺を殺そうとしました。その後、情報をタモン様に伝えようとした父さんが殺された。このように、王家は何かを隠している。そして、今回公表された混血者の件。皆さんは馬鹿じゃない。皆さんには人を見る目がある。俺たちを見続けてきたように、どうか真実に目を向けてください」
気づいてくれ。このタイミングで公表された意味を、本当の敵を。
「真実にはたくさんのことが映し出されているはずです。皆さんの命を守ってきたのは、我が国の闇影隊です。その中には混血者もいます。彼らは先陣をきって戦ってきた。国にいるときは、誰も傷つけることなく、集落で静かに暮らしている。……牢獄と言う名の集落だ。そして今、今度はもっと暗い場所に移り住もうとしている。……いいんですか、これで。本当に正しい事をしていると言えるでしょうか。言えませんよね」
ヒロトが俺の肩に手を置いた。手の平が暖かい。安心しろと伝えてくる。
「んで、ソウジ!! 荷物なんかまとめるなよ!! 王家は混血者の力を認めたんだ!! 治療法はないんだってさ!! じゃあ、もう隠さなくていいじゃん!! ユマも、カナデも、レンも、リョウタも、フウカも、イオリも、他のみんなも!! これで、人の目なんか気にせずに生きていけるぞ!!」
王家が認めたのならば、これを利用しない手はない。やられっぱなし? まさか。俺は絶対に仕返しをする。もう、王家には負けない。
「しかもさ、戦争が起きるらしいぜ!! 王家は神様と戦いたいんだと!! テンリは神様の力が欲しいとか言ってた!! 俺たちがいなきゃ、国民は守れない!! ってか、お前たちがいなきゃ確実に殺されてしまう! 国民と闇影隊、みんなで手を取り合わなきゃ絶対にテンリには勝てない!!」
負けない――。
「勝って、自由を手に入れよう!! いいか、自由だ!!!!」
マイクの電源を切り、床に座り込んだ。はは、緊張してたんだな。汗が尋常じゃない。
とまあ、これが俺が出した答えだ。
ふと、ヒロトが窓を開けた。聞こえてきた声に、ずっと奥の方から心臓の鼓動を感じた。
続いて、放送室の扉が開かれた。立っているのはタモン様だ。
「ったく、俺の仕事を増やしやがって。……よくやった」
羽織を翻して本部の外へと向かう。
いつの間に集まったのか、本部の外には大勢の国民が押し寄せていた。
「いいぞ、ナオト!! 今の演説は響いた!!」
「変だと思ったぜ。人体実験の時点で答えは出てただろうに、なんだよ今さら」
「誰か、混血者を商店街に呼びな!! 今日は混血者だけに破格のセールをするよ!」
「こうなったら、祭りだ、祭り!! タモン様はいねえのか!? 許可をくれ!」
「こんなチラシ、破いてしまえ!! いいか、みんな!!」
「おー!!」
外に出ると、俺たちの頭上で紙吹雪が舞った。
オジサンが前に出る。
「さあ、これでもう自由だ。今まですまなかったな。いや……、これまで本当にありがとう。君の言う通り、俺たちが自由に暮らせるのは闇影隊のおかげだ。今まで頼りすぎてたんだなぁ……」
「それが職務です」
「かもしれないが、みんなの国だ。もうのんびりと暮らすのはやめた。ヘタロウさんが農民から闇影隊になったように、俺も自分に出来る事を探してみる」
「そういうつもりで頼んだわけじゃ……」
「おっと、一般人だからって舐めてもらっちゃあ困るぞ。桜姫くらい扱える。今からでも遅くはないだろう」
「俺もやるぞ!!」
「俺もだ!!」
オジサンが国民に向き直る。
「その前に、みんなで集落へ行こう。俺たちは彼らにもきちんと謝罪しなければいけない。その後は、みんなで記念祭だ。……いいですか、タモン様」
国民の切望の眼差しに、タモン様が頷いて返す。
その後、俺とヒロトは騒ぎの原因として、紙吹雪の片付けを命じられたのだった。
ブクマと評価、ありがとうございます!
いよいよ、ナオトが王家に突撃訪問します。
オウガとの対面。結果はいかに――。




