王家VS最弱・1
父さんの葬式は国全体で執り行われた。
献花台にはたくさんの花と、列を成す国民が死を悼んでいる。その中には、ようやく自宅から出てきたイツキの姿もあった。
「あんたら、負けんじゃないよっ」
(なんだよ……)
近所のおばさんが去り、
「セメルさんには本当に頭が上がらない。こんな形で失うなんて……。気をしっかりと持つんだぞ」
(なんなんだよ……)
みんな、俺たちの存在を虫けらのように扱っていたくせに。どうしてこんな時だけ優しい言葉をくれるんだ。
なんて、憎しみの裏には確かな喜びもあった。
父さんが国民に愛されていたこと、助けられたと多くの人がお礼を伝える姿、悲しみを堪えきれずに涙を流す人もいる。胸を張って、父さんは立派な人だったと言える。
丸一日かけて執り行われた葬儀には、イッセイも来ていた。
葬儀後、彼は俺たちの家を訪れた。改めて間近で見る同じ色の瞳。走流野家ではない彼は、カンムとジンム、どちらの末裔なんだろう。
彼自身、同じ疑問を抱いていた。
「ないんですか?」
「そうなんだ。白草家にはそういった文献が一つも残っていない。そもそも、そんな物はなかったんじゃないかとも考えたが、こうも考えられる」
お茶を一口飲む。
「ヘタロウさんはテンリの出現で焦っていた。もしかすると、俺の父上と手を組み、我々の歴史を隠したのかもしれない。きっと、初代皇帝とその兄弟には重要な何かがあるんだ」
「ってか、爺ちゃんはそっちにいるんだろ? なんも聞いてねえの?」
湯飲みを握ったまま、イッセイはしばらく悩んでいる様子だった。そして、
「威支でも話し合ったんだけど、キトが伝えるべきだと言っていた。だから、正直に話す」
一気に空気が重くなる。
「実は、ヘタロウさんは、王家から奪い返した時点で死にかけていたんだ。幽閉されている間は飲まず食わずだったみたいで、治癒能力と根性だけで乗り切ったと言っても過言ではない。その頃、セメルさんの逮捕の件もあって、ユズキは君たちに話せなかった。威支のメンバーが治癒の手助けをしているけど、まだ回復には時間がかかる。つまり……」
爺ちゃんには何も聞けない。
とんでもない脱力感と絶望感。唯一の希望が……。もう、頭の中が滅茶苦茶だ。しっかりとテンリの手の平の上で遊ばれているじゃないか。
と、その時。音もなくイッセイの隣に来客者が訪れた。キトだ。
突然の訪問に茶を吹き出したヒロトと、湯飲みを放り投げた俺。イッセイはもう慣れているようで静かに座っている。
「タモン様との話しは終わったのか?」
「ああ。今頃は必死になって頭の中を整理しているだろう」
そう言って、喉の奥で笑う。次いで俺たちの方を向いた。
「葬儀やら何やらやっている間に王家が動き出した。威支は隠れ家を離れ神霊湖に身を潜めている。おそらく、明日中には北闇の混血者も鍛錬場に移動することになるだろう」
「何が起きているんですか?」
「混血者の力がどこからきているか。これは人間と混血者、双方にとって最大の謎だった」
そういえば、タモン様もそんなことを話していた。重度の肉は死を招くほどの拒絶反応を起こす。混血者が肉を食って力を得たとは考えにくい、と。
キトが言葉を紡ぐ。
「王家は治療法を模索していたが、一向に進展はなかった。そもそも、見つける気すらなかったようだ。あいつらは知っていた」
ソウジと大親友であるヒロト。テーブルを叩いて立ち上がる。
「詳しく話してくれ!!」
「大昔、人間とある生き物たちは長きにわたり戦をしていた。負けたのは生き物だ。そいつらの肉を食った、とここまで話せば後はもうわかるだろう? 豆乃イオリ、あいつと同じだ」
「拒絶反応に勝った人間、その子孫が混血者……」
「治療法を見つけるも何も、人間が作り出したっつーわけか。じゃあ、重度は?」
「奴らは生き物の力を最も受け継ぎやすい体質をした者たちだ。もとから人間とは違ったんだろう。まあ、これはどうでもいい。問題なのは、王家がこの件について公表したことだ」
重度の肉を食った、裏切り者――。言い方があまりにも酷すぎる。
ハルイチが言っていた。人間にとっての安定剤は王家だ、と。しかも、威支は人間を襲っているし、テンリはグリードを率いている。ということは、……彼らに奪われた命、その分の恨みが一気に爆発する。
「――っ、ハルイチやモモカちゃんはどうなるんですか!? クロムとデスも南光にはいられなくなる!!」
「西猛は迷宮岩廊へ、南光は幽霊島や他の孤島へ、東昇はイザナの住処だった所へ移動する。交代で威支が見張りにつくことになっている」
「よかった……」
「……甘いな」
キトの声が低くなる。赤い目はしっかりと俺たちに向いていて、本題はここからだと無言で訴えている。
「この先、お前たちが混血者とつるむような事があれば、人間と混血者の間にさらなる闇を生むことになる」
「なんでそーなるんだよ」
「まだわからんのか? 王家は権力を活用して走流野家を世間から弾くこともできた。しかし、そうしなかったのは、走流野家の存在を人間の心へ定着させる必要があったからだ」
俺とヒロトの頭に〝?〟が浮かぶ。イッセイは「もっと簡単に伝えないと」とキトに言って、彼の要約を砕いてくれた。
「葬儀の時、みんなが君たちを気遣ってくれただろう? 王家の狙いはそれだったんだ。人々が君たちを受け入れた時に公表すると決めていた。どうしてその時を待ったのか……。その間に君たちは似た力をもつ混血者と親しくなると踏んでいたからだ。こうやって板挟みすれば、公表したとき、君たちはどちら側につくかの選択肢を迫られることになる。実際に、混血者は各所への移動が決定された。そう聞いて君たちは真っ先に混血者の心配をしただろう?」
「「はい……」」
「人間が、しかも走流野家がだ。混血者の力は重度から得た物だと公表された後なのに、混血者側につくというのは、少なからず人々に疑心を抱かせる。なぜなら、君たちを受け入れたからだ。ましてや〝走流野家〟というブランド名。混血者側についたという噂は瞬く間に広がる」
「もし広がったとして、どうなるんですか?」
「君たちと親しい混血者はもう表を出歩けない。守ってくれる仲間はいないんだ……」
想像を絶する未来図に、俺とヒロトは言葉を失った。
爺ちゃんや婆ちゃん、父さんに母さん。家族だけじゃない。仲間までも奪われてしまうなんて――。
ブクマと評価、ありがとうございます!
いよいよSEASON.2が開始しました。
SEASON.1の少年期編・1の編集を終えています。若干変わったナオトの物語も楽しんでいただけたらと思います!




