第12話・ナオトVS蛍・2
轟音が鳴り止む。蛍は空中からその様子を監視しており、ニタッと笑ったような顔つきに見える。
生き埋めとなった2人がいる地点へ片翼を大きく振る。
「これで終わりだ。土・千手千羽」
たくさんの羽に土がまとわりついて、巨大な羽を形成し、矢のようにして飛ばす。重り付きの羽は勢いよく落下した。
地面へ直撃する寸前、土の中からこもった声が聞こえてくる。
「炎・衝撃砲」
土が山のように盛り上がると、衝撃砲が千手千羽に衝突した。砕け散った土の塊は蛍に猛威を振るう。くちばしの側面と片翼に切り傷ができる。
「勝手に終わらせてんじゃねえぞ」
スリップタイプの肌襦袢一枚になっているツキヒメ。咄嗟に着物を脱いで頭部を守っていたようだ。
透ける下着にナオトの顔が赤面する。ツキヒメの細い肩に自身の上着をかけて、そうして土砂崩れから脱出する。
すぐさま、蛍は無駄のない動きで強烈な風を巻き起こした。咄嗟の判断でツキヒメを突き飛ばし、その一撃をしっかりと業火防壁で防ぐ。
けれど、
「重いっ……」
完璧に防御したにもかかわらず、何人もがナオトを押しているような突進感が幾度となく襲いかかってくる。
直後、強烈な横蹴りがナオトの腹にヒットした。態勢を立て直し、
「うおおおおっ!!」
包火を点火させ蛍との間合いを詰める。その後、ナオトは攻め続け、蛍は避け続ける。そんな苦しい展開が続いた。蛍は一歩もその場から動いていない。
大きな翼をものともしない俊敏な動きは、青島とよく似ていた。ふと、ナオトは強化合宿前に行った演習を思い起こした。
仮眠をとろうとすると、顔面スレスレに攻撃をされたあの日。青島は身振り手振りで、「仮眠中の2人を狙うイツキの攻撃を阻止すべく、先手を打っていたのだが」と説明していた。
あの一連の動作は、おそらく青島が攻撃したときの動きに違いない。
体格の良い青島に出来るなら、小回りの利く自分にも出来るはずだ。
ナオトは両目をしっかりと見開き、全神経を両手に集中させた。
紫炎を1円玉くらいの大きさに球状に形成し、熱空気に閉じ込める。普段なら、片手で行う衝撃砲だが、ナオトは両手を横腹に構えた。
熱空気同士が重なると、細かな紫色の閃光が走る空気砲が出来上がる。それを圧縮させ、そして、
「炎・衝撃砲・改!!」
言霊で命を与えられた技。圧縮により内部で爆発した空気が、凄まじい勢いで小さな球を発射させる。球は蛍の胸目がけて一直線に飛んだ。
「ぐああっ」
蛍の身体が勢いで吹き飛ぶ。地面に叩きつけられ、木に衝突して止まった。
(やった!!)
手応えを感じて握り拳を作る。すると、蛍が消えた。
「今のは良かった。だが、まだまだだな」
「がはっ」
瞬時に間合いをなくされ、かぎ爪で首を持ち上げられる。月姫乱脚を肩に落として爪から逃れると、ナオトはすぐに蛍の胸を確認した。
傷がない――。先程から変だと困惑する。いくつかの技は確実に蛍を捕らえたはずなのに、なぜこうも平然としているのか。
なにかあるはずだ。しかし、見当もつかない。
「こんな所で時間を潰している暇はない。頼むから、そろそろ死んでくれ」
どうしたら捕獲できるのか、懸命に考える。空中に逃げられれば隙はないし、地上でも蛍は能力を発揮する。しかも、これといった弱点も見当たらない。完璧に詰んだと、ナオトは歯を食いしばった。
(それでも、やるしかないっ!!)
持久戦に持ち込み、蛍の体力を削る。ナオトにはこれしか手段がなかった。
激しい体術と同時に言霊がぶつかり合う。外れた技は民家を直撃し、月夜の国は徐々に崩壊していった。そんな中で、ツキヒメはしっかりと戦いを観察していた。
必死に目で追い、蛍を食い入るように見つめる。そして、背中に桜姫を構えた。横目にナオトが確認する。
「手を出すな!!」
「……余所見とは、余裕だな」
「――っ!?」
耳元で囁かれた声。突き刺すような殺気が鼓膜を貫く。
再び首を締め上げられる。
「これで終わりだ」
(マズい……っ)
ごりごりと、気管支が潰されていくような感覚。次第に頭が痺れ、ため込んでいた酸素も尽きようとしていた。
長く続く戦いでナオトの体力も限界に近い。意識を奪われる前にもう一度月姫乱脚を蛍の肩に落とす。
蛍が眉を寄せる。それでも離さなかった。ナオトも諦めない。チカチカとする視界で蛍を捉え続け、何度でも攻撃した。
ついに、蛍の口端から血が流れ出た。半獣化が解け、人の力に戻った手からナオトが逃れる。
(ここだ!!)
震える足に鞭を打ってナオトは言霊を唱えた。
「炎・連弾包火球!!」
紫色の球が隙だらけの蛍の腹に直撃する。しかし、
「なんでっ……」
やはり紫炎は引火しなかった。と、その時だ。
ナオトの身体が蛍側に突き飛ばされる。押したのはツキヒメだった。何がなんだかわからず、ナオトは絶句したまま、再び半獣化した蛍の手に捕まった。
「もう逃げられないぞ!!」
「ぐっ……」
かぎ爪がナオトの喉に穴を開ける。勝った――と、蛍が高らかに笑った。その声が、次は絶叫に変わる。
「あああああああっ!! このクソアマが!! 何をした!?」
ツキヒメの肌襦袢が真っ赤に染まる。震える両手には桜姫が、桜姫の刃は蛍の両翼を見事に貫通していた。
もう片方のかぎ爪でツキヒメを狙うと、
「余所見とは、余裕だな」
今度は、ナオトの声が蛍の耳元で囁かれた。
「――っ、しまったっ!!」
ツキヒメの肩に掛けていた上着を取り、急いで蛍の翼を縛り上げる。そして、
「炎・衝撃砲っ!!」
ユズキにお披露目した最初の技を、綺麗な動作で蛍の腹に放った。
白目を剥き、膝が折れた蛍が地面に倒れこむ。
「勝った……。やった……。――っ、よっしゃああああ!!」
大の字になり、両拳を天に掲げる。ナオトとツキヒメの〝作戦〟は見事に成功したのだった。




