第11話・ナオトVS蛍・1
ナオトが王家へ疑心を抱いたのは、天野カケハシの言葉があってからだった。「情報隠蔽に人体実験など、目指しているものがわからない」と、青島と話していたのを鮮明に覚えている。
それでも微かに残る希望を胸に王家を信じていた。しかし――。
(ハルイチの言葉通りだ)
王家や人間の敵は重度ではなく、もっと記憶に鮮明に残る者たち。実際に肌で感じ、己の目で脅威を体験し、尚且つ近しい存在。
(なんの躊躇もなく、俺に死刑宣告するなんて……)
刹那の睨み合いのなかで、寂しさと居場所のなさを感じているナオト。
蛍の背中から、黒と茶色を基調とした白い模様が均等に描かれる大きな翼が広げられる。赤い面が地面に落ちた。ぎょろりと開かれた大きな目に黄色い瞳が埋まっている。蛍は獣化の進行が始まっていた。
「爺ちゃんを浚い、父さんを利用して、どうしてそこまで走流野家に関わるんですか?」
「貴様ら一家は歴史の汚点だからだ。王家の歴史に泥を塗る者は1人残らず排除する」
「――っ、だからって天野家や西猛は関係ないじゃないですか!!」
「西猛は奴の気まぐれで起きた事件だ。我々は関与していない。……まあ、月夜に関しては、貴様のせいだろうな」
「お、俺……?」
「奴は貴様の大切な物を根こそぎ奪う気でいる。貴様が他者と関われば関わるほど、死者は増えるということだ。天野ウイヒメ、彼女は貴様の安定剤だっただろう?」
「理由は……たったそれだけですか……?」
「言ったはずだ。排除する、と。走流野家の力の源となり得る人間も同様だ」
初めて出会った森のなか、共に過ごした小さな洞窟、母親に泣きつく姿、慣れない着物に身を包まれた少女。コンの手紙に一生懸命に悩んでいたことも、任務から戻るのを待っていてくれたことも、いつだって笑顔で、心配してくれて――。
突然、ナオトは腕を広げて見せた。
「私ね、ナオトのこと大好きだよ。これくらーい大好き」
口を両手で押さるツキヒメ。目に涙が浮かぶ。
「ウイヒメの言葉です。安定剤……? それ以前の話しだ。俺たちは、家族も同然の関係だった。王家は俺の家族を奪うのに手を貸した。お前たちの……ものさしでっ……、勝手に決めつけやがって!!」
両手に点火していた紫炎がナオトの全身を蛇のように這う。恨み一色とはまさにこのこと。紫炎はナオトの意思に従い、蛍へ牙を剥き出しにした。
蛍の間合いに踏み込み、
「炎・衝撃砲!!」
加速と同時に、最速の一撃を放つ。蛍は腰を僅かに捻り、最小の動きで避けてみせた。虚しくも空に放たれた衝撃砲は、蛍の背後にある木々をへし折っていく。
(この距離で外すなんて……。さすがオウガ様の側近。一筋縄じゃいかない、か)
重そうな翼を従えながらの俊敏な動き。ナオトは驚きを隠せないでいた。
片翼が垂直に振り上げられ、刀を振り下ろすような動作でナオトの身体に打ち込まれる。ナオトは重心を落として両腕を頭上に構え、全身で受け止めた。
「っああああ!!」
凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。体格に差はあるものの、自己暗示がナオトの身体を守っている。不思議なのは、蛍の翼に紫炎が引火していないことだ。
「これだから貴様ら一家は早めに始末しておきたいのだ」
言いながら、空へ飛び立つ。そして、
「風・千斬千舞」
翼を振ると、ナオトの足もとで風が吹いた。渦を巻き、ナオトを中心に竜巻が発生する。竜巻から出ようとすると、風に触れた箇所が切り刻まれていく。
「いつっ……。クソッ!!」
「まだ終わりじゃないぞ」
ナオトの周りにいくつもの羽が浮かび現れた。軽い羽は竜巻の内部で吹き荒れる風に乗って回転速度を上げていく。紫炎が揺れ、消えたり点火したりを繰り返す。
まるでミキサーの中にいるかのようだ。一層目の防御、紫炎から露わになった肌を羽が切りつける。二層目の防御、自己暗示で硬化された身体などものともせず、回転の力を借りた羽は容赦なく攻撃した。
「あああああああっ!!」
竜巻が消えると、切り裂かれたナオトが俯せに地面へ倒れた。同時に、腹の下で紫炎をボール状に形成していく。
(衝撃砲は交わされるっ。ソウジと試した新しい技でやるしかないっ)
顔を上げると、地面に影がかかっていた。翼をたたんだ蛍がくちばしを向けて急降下している。
ツキヒメを守らなきゃ。ウイヒメの二の舞にはさせない、そんな気持ちがナオトを動かす。
至近距離に来たところで、ナオトが体を仰向けにひっくり返す。両手で燃える紫炎の球に、蛍は翼を広げて急ブレーキをかけた。
「炎・連弾包火球!!」
一直線に放たれた紫色の球が蛍の腹を狙い撃つ。
「うぐっ……」
「入った!!」
背中を丸めて見せたものの、蛍の瞳に宿る凶悪な眼差しはこれっぽっちも薄れてなどいなかった。それどころか、またしても紫炎は引火していないではないか。
「貴様が走流野家の息子でなければ、王家に欲しい人材だ。なかなか良い腕をしている。だが、甘いっ!!」
また高く飛び上がり、空中で止まると、今度は稲妻のように落下し始めた。回避する時間を与えない速さに、ナオトが身構える。
「土・崩弄返し!!」
頭から地面へ突っ込むと、地面が波のようにうねった。規則正しい揺れは何度も起こり、その上でナオトとツキヒメの身体がオモチャみたいに跳ね上がる。
(獣化や風の能力だけじゃない!?)
「……崩れろ」
一言、蛍がそう呟くと、波打っていた地面に亀裂が走った。あっという間に溝ができ、中へ落ちると、頭上で土砂崩れが発生する。
「きゃああああ!!」
「――っ、ツキヒメ!!」
体勢を立て直しながら言霊を発動。久しぶり使う、あの技だ。
「炎・業火防壁!!」
いくつもある技の中でも最も難しいとされるこの技。ナオトのものは、あの時となんら代わっていない。
小さな筒状の防壁の中で、2人は身を寄せ合って衝撃に構えた。
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次回、ナオトVS蛍の後半戦。
精鋭部隊総司令官、蛍を相手にどこまで戦えるのか――。




