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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
SEASON・1――/第一章・少年期編・1
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【逸話】猪狩り・1

 北闇より東にある国、東昇(とうしょう)


 足跡を発見した西猛の国が各国に増援以来を出したとき、東昇はその依頼を断っていた。断らざるを得ない事情があったからだ。そのため、未だに山吹神社事件が騒がれる世間と違い、この国ではすでに薄れかけていた。


 道ばたに木箱を置いてその上に立つ男性は、片手に持つ用紙を掲げながら群がる民衆に声を大にして叫んだ。用紙には生き物の姿が描かれている。




「もう野放しにはできんぞ! 一致団結して困難に立ち向かおうではないか!」




 描かれているのは猪だ。北山の主で性格は温厚である。


 その場所には食料となる動物達が数多く生息しているのだが、ここ最近になって、調達に出向くと鼻の両側にある鋭い牙で襲われるようになったのだ。


 山の主とだけあって、退治しようにも知識で負ける。地形をよく知る猪の方が賢く、なかなか思うように事は進まずにいた。そこで、闇影隊が討伐にあたった。しかし、彼らの力も及ばず、ついに国民が立ち上がったのだ。




「わしと同じ軍事食料の調達を職とする者は是非とも加勢してほしい! 次の出発日には混血者も力を貸してくれるそうだ! 山に詳しい者達の力を闇影隊が必要としている! 仲間を惨殺された無念を胸に彼らに同行し主を討ち取るのだ! いいか、みんな!」




 熱心な説教にも似た演説に群衆が雄叫びをあげた。


 一方、東昇の国に住む混血者の一族は――。




「それで、蒼帝(そうてい)殿。本当に我が一族に一任なさるおつもりですかい?」




 慣れた手つきで着物の上から羽織を肩にかけ、両手は通さずに数珠のような羽織紐で前止めする、少年を卒業したばかりの青年。年齢は15歳くらいだろうか。


 彼は東昇の国・蒼帝・ジコクに問いながら、扇子で自身を扇いだ。


 彼の名は五桐(ごとう)ハルイチ。半妖人であり、この年齢にして一族を束ねる長だ。まだ幼さの残る面立ちに、長髪を頭のてっぺんで一つ結びにまとめている。生まれた時から一度も切った事がない。


 ジコクは、庭に立ちながらハルイチが縁側に座るのを待った。そうして言葉を返す。




「民は山吹神社事件の恐ろしさをまるでわかっちゃいない。勢いだけで山の主に(むか)え撃てば二の舞になるのは目に見えている」

「山吹神社事件ねえ……。重度という生き物の存在は、ただの王家の推測でしょう?」

「推測は数十年前に確信へと変わっている。お前が生まれるずっと前にな」

「これは失礼。して、山の主が重度である可能性を数値で表すとどれくらいになるのですかい?」




 ジコクが目を据わらせる。




「120%だ」




 パチン! と音が鳴る。扇子を閉じたハルイチは、扇子で肩を叩きながら満足そうに頷いた。




「いいでしょう。討伐隊の指揮、俺が執らせて頂きます。たーだーしっ」




 言葉を強調しながら扇子でジコクを指す。




「民の命までは保証できません。我が国は軍事国家で成り立っている。守るより戦いにて成果をあげてきたといっても過言ではない。故に、俺の一族達はそういった訓練しか受けていない」

「承知の上だ。念のために、お前の一族には精鋭部隊を同班させよう」

「その必要はありません。いるだけ邪魔というものです。それに、蒼帝殿は南光に出向き王家へ報告しなければならない。精鋭部隊の同班が必要なのは蒼帝殿、あなたの方ではないですかい?」

「お前がそこまで言うのなら、好きにやってみるがいい。必ず成果を残せ。いいな?」

「仰せのままに」




 帰って行く蒼帝の小柄な背中を見送って、ハルイチは深く息を吐き出した。




「名ばかりの(みかど)め。王家ももっとマシな影武者を寄こせばいいものを……。そう思うだろう? お前達」




 いったい何処に潜んでいたのか、足音もなくハルイチの元に集結する一族の者達。その中の1人、20代半ばの色っぽい女性がハルイチの足もとに跪いた。


 上着は胸以外に生地がない。鎖帷子の奥に見える生身の肌はなまめかしく、太もものラインを強調させるスパッツを履いている。それでいて、ハルイチに向ける瞳は眩しさを帯びるほどに輝いている。




「突くところが素晴らしいっ。ハルイチ様の仰る通りですわ。私としましては、北闇のタモン様のような方を期待していたのですが……」

「アレは滅多に生まれないと言ってなかったかい?」

「重度の遭遇と同じ確率くらい稀な存在ですわ。なにせ、王家が製造した兵器ですから。その方法は極秘で王家内でも限られた者しか知り得ません」

「確か、数十年前に発見された重度をきっかけに産み出したんだったな。期待外れもいいところ、それを最後に発見には至らず、北闇の前玄帝が他界した事を理由に北闇へ追いやった……。そんな話しだったかい?」

「なんとも目覚ましい記憶力っ。私、感激で言葉も出ませんわ!」

「そう逐一褒めるな。……12年前の地震さえなければ、この国に蒼帝殿が送られる事もなかっただろうに。無力が故に俺達に頼るしかない哀れな男よ。まあ、精一杯威勢を張るがいいさ。俺達があげた戦果で威張る蒼帝を眺め見るのもまた一興……」

「なんて心の広い……。ハルイチ様の配下である事以上に幸せがあるでしょうか。いいえ、ございませんっ」

「だから、褒めるなと言ってるだろ! 馬鹿ネネ!」




 青年といえども卒業したて。頬を赤く染めながら、女――ネネの顔を扇子でペチペチと叩く。ネネはそれでも独り言のように褒め称えていた。




 ❖




 出発前日の夜中――。


 五桐家の応接間にて食事会が行われた。討伐任務に加勢する混血者が勢揃いし、30畳ほどある一室は深夜にも限らず大賑わいである。


 近所に住む者が3人、電柱の下に集まり怯えた顔つきで声に耳を傾けていた。かといって、混血者が物騒な発言をしているわけではない。会話の内容はいたって日常的なものだ。


 恐れるのは、声はするのに人の気配を感じないからだ。


 そもそも、妖にはニオイや気配といったものがまるでない。そのため、嗅覚の鋭い生き物であろうともその存在に気づかない。


 だが、彼らは半妖人だ。半分は人間の血である。よって、嗅覚に優れる生き物には気づかれるが、人にとっては幽霊のような存在に感じてしまう。だから、ただの宴会が恐ろしいのだ。




「ハルイチが仕切り始めてから勢いを増すばかりだわ」




 女の声は微かに震えていた。




「両親が死んだというのに、あの子はどうしてあんな平然としていられるのかしら」

「ハルイチというよりは、あの子を取り囲む大人に問題があるんじゃねえか?」

「あんた、知らないのかい? ハルイチ君は元からああいう子だよっ」




 3人の中でも年輩にあたる女性が、ここぞとばかりに早口で噂話を持ち出した。




「いいかい? 12年前に起きた大地震で東昇はそりゃもう甚大な被害をだした。その中でも痛手なのは混血者を束ねる五桐家の長が死んだ事さ。人間である私達にも親切な人で、東昇のために尽力してくれた。それも無条件でね。けどね、あの子は楽しんでる。戦が大好きで、人間の闇影隊の命を弄ぶのさ……」

「なんだって!? どうしてジコク様は咎めないんだ?」




 男の最もな問いに、年輩女性は目を細めて答えた。




「父親は周囲の状況次第で任務を中断する事もあったけれど、あの子は死者を出すが失敗しないのさ。どんな任務にも必ず応える。そのおかげで、東昇は王家からの軍事資金が保証されている。混血者を養うお金さね。精神的に参った私の息子は闇影隊を辞めちまったよ」

「そんな事情があっただなんて初耳だわ。そもそもの問題は、当主ね」

「あんたの言う通りさ。他国と違ってこの国は混血者が当主を勤めている。私達はハルイチ君に逆らえない。任務となれば、あの子が進む方向に闇影隊は足並み揃えるしかないってわけさ」

「んだよ、それ。そんなんで討伐任務は大丈夫なのか?」

「言ったじゃないか、あの子は失敗しない。心配するなら、演説に乗っかって任務に加勢する者達の命さね……」




 この不安は見事に的中する事となる。




 朝霧で視界の悪い山の中腹。そこにハルイチ率いる討伐隊の姿はあった。位置は国から北方向である。ハルイチが立ち止まったため隊の動きは止まっている。


 ハルイチは一本の木を眺めていた。




「……変だと思わないかい?」




 声に前へ出たのは木箱に立っていた男だ。


 男もハルイチ同様に木を眺めている。その視線は自分の頭部よりも上に向けられていた。




「こりゃなんだ……」

「あなたは確か軍事食料調達班のリーダーですよね?」

「へい。食糧確保でこの獣道を通るんですが、主が残した痕跡はせいぜいこの高さです」




 言いながら、自身の胸辺りを印に木と比較する。




「それでも猪にしては巨大なほう……。けれど、この痕跡は主のよりも遙かに大きい。わしもこんなのは初めて見ました」

「主は何体かいるんですかい?」

「いや、アイツだけです。それにしても、これは……。いくらなんでも急成長しすぎだ……」




 男は再び視線を木に戻す。


 高さにしておよそ2メートル付近に猪が体を擦った跡が確認できる。ハルイチは口角を吊り上げた。




「なるほど。では、俺達が捜すのは体長2メートルの巨大猪ってわけですね」

「そのようです。ですが、急に成長した原因を調査しなくていいんですか?」

「山吹神社事件と似た類いでしょう。主が一体なら対象も一体。……はて、山吹神社の任務増援には何人いたっけな」




 素早くハルイチの足もとに跪いたのは、言うまでもなくネネだ。




「50名ほどだと聞いております。それに比べて、増援なくハルイチ様の元に集った仲間の数は72名。あなた様の存在価値はこれほどまでに高価であると、私、再認識させられましたわっ」

「依頼内容は?」

「40センチほどの獣の足跡を発見。以下略、増援依頼でございます」




 それを聞くなり、ハルイチが扇子で目元までを隠す。その裏では目尻の辺りをヒクヒクとさせていた。




「流されるお姿も華麗でございますっ」




 いつものように返して、ネネはハルイチに「とにかく進みましょう」と言葉を紡ぎ、並んで先頭を歩き始めた。そうして、小声で話しかける。




「重度ではなさそうですね」

「そのようだね。あれくらいの大きさなら50体に1体の確立で出くわす。どうりで民が騒ぐわけだ。弱肉強食とはこの事……、主もさぞかし驚いただろうに。いったい何処に雲隠れしたのかな」




 ハルイチの関心のなさげな物言いに、女は口に手を添えて笑った。




「主と同じくして、民も見た事すらないでしょうからね。なにせ、安全対策として森の奥深くへの立入りは基本的にどの国も禁止していますから」

「にしても、蒼帝殿は早とちりしすぎだと思わないかい? 民の言葉に踊らされた挙げ句、とんだ無駄足だ」

「保身でお忙しい方ですわ。こうしては如何でしょうか? 狩るだけ狩って、軍や民に食料を提供するのです。きっと大いに喜ばれますよ」

「王家に報告するまでもないが、そうだね。そろそろ我が一族も貢献しておくか」




 珍しくネネはハルイチを褒めなかった。彼の怒りがこれで静まるはずもないとわかっているからだ。発散させる方法として、一つ提案したまでにすぎない。


 彼らはまだ状況を理解していなかった。山吹神社事件の概要を知らずして挑む愚かさが、彼らの運命を大きく左右する――。

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