第7話・ヒロトVSライマル・1
走流野ヒロト――。赤坂班に配属されて3年、数々の任務を、どの班よりも最短で遂行させてきた優秀な兵士の1人。目立つ金髪が印象に残る人も多く、彼を覚えている人は会場に大勢いた。黄色い歓声と熱い声援が混交する。
片や、ライマル――。幽霊に取り憑かれた幼児として全国で噂になり、後を追うように〝事実〟が拡散していった。生き返ったとの話しは賊の心をくすぐり、彼は命を狙われる身となる。対して彼は、片っ端から始末していった。
だが、コモクと蘭の手際の良い情報操作により、ライマルの素行が世間に知れることはあまりなかった。よって、ヒロトの手元にある情報は――。
(ナオトが雷の性質だって言ってたな。相性は問題ねぇけど……)
自分の身体へ電気を流すことに慣れているライマル。いくら感電しようとも平気だろう。ところが、ヒロトには感電の経験もなければ、雷の性質をもつ混血者と戦ったことすらない。
「始めっ!!」
少しずつ距離を取り、出方を待った。すると、早速始まる。
雷あるの白と黒の髪の毛がふわりと浮くと、ヒロトの髪の毛がライマルへ引き寄せられていく。
「雷・摩電怪裏」
一帯に電気がバチバチと蔓延る。肌に触れると痛みを感じる。自身の近くで光った電気を避けていると、急にヒロトの身体が勝手に動き始めた。
「な、なんだ!?」
己の意思とは関係なく、強制的にライマルへ背中を向けさせられる。ライマルは一回転を高速で回った。すると、まるで引っ張られたみたいにヒロトの身体がライマルの方へ移動していく。
ライマルが左足を高く上げる。そして、円を描くような軌道で、ヒロトの頭上へ足を振り落とした。
(摩擦か!?)
ライマルの踵を一点に見つめながら冷静に分析する。
(さっきの一回転、高速で回ることによって起こる静電気……。しかも、自在に操ってやがる)
額に踵が下ろされると、ヒロトの足が打たれた杭のように地中に埋まった。上半身が前のめりに倒れる。
一瞬、勝利に喜びかけたライマル。しかし、控え室にいるナオトを見て、その喜びをすぐさま捨てた。ナオトが笑っていたのだ。
(ヒロトは自分側へ来させてから反撃にでる。今回はライマルの方が先に動いてくれたおかげで手の内を隠せた。それに……)
倒れているヒロトに喉の奥で笑う。イオリは繭を寄せた。
「気持ち悪りぃぞ。なにが面白いんだよ」
「ゲンコツされたヒロトを見たのは久しぶりだから。父さんに怒られたとき以来じゃないかな」
「ゲンコツ? あれが?」
「うん、あんなのは痛くも痒くもない。この勝負はヒロトが勝つよ」
「どっこから湧いてくんだよ、その自信は。相手は世界にただ1人の雷の性質だっての」
「ライマルも、自分の能力に自信をもって挑んだはずだ。だけど、相手が悪い。ヒロトじゃなければ勝てた」
「どういう意味だ?」
「ヒロトの性質は氷。自己暗示と兼用すると、熱くなった皮膚のせいで言霊の能力を弱めてしまうんだ。だから、戦いでは自己暗示をほとんど使わない。そういう時に使うヒロトの自己暗示は、あくまでも目眩まし程度のもの」
イオリが会場へ視線を戻すと、そこには額を掻いているヒロトがいた。今度はライマルの方が距離を取る。
「俺ってば、結構ガチめにやったつもりなんだけどさ。やっぱ、走流野家の自己暗示能力を舐めちゃいけねぇな」
ダメージを受けたのはライマルの踵の方だった。彼は、鉄に足を振り下ろしたのと同じ痛みを味わっている。それでいて、ナオトが言っていた目眩ましが効果を発揮している。勝手に勘違いした彼は、これで接近戦を封じ込められた。
地上へ這い出て身体をしならせる。胸に手を置いて一呼吸置くと、ライマルを上目遣いに睨みつけながら口に弧を描いた。
「行くぜ……」
言い終えるのと同時にヒロトの姿が消える。イツキで目が慣れている青島班には追えても、他の者は残像しか捉える事ができない。自己暗示で身体を熱しているようで、赤い閃光が動き回っている。
ライマルは摩電怪裏で静電気を起こさせ、ヒロトの動きを注視した。電気に当たると、そこだけ弾けたみたいに光る。左腕を伸ばして、ヒロトの行く先を読む。
「雷・光八拡散!!」
手の平から電気を帯びた8本もの光線が放たれる。的を外した光線は地面を抉り、小さな爆発を起こして消滅した。それを左右に跳躍しながら交わしていくヒロト。ライマルと距離を詰めると彼の両肩に手を伸ばした。
「――っ、雷・電磁防壁っ」
水色の光が彼の身体を包み込む。すると、ヒロトの手が後方へ弾き飛ばされた。
「チッ、惜しい」
「お前が接近してきたところで、俺には触れることすらできない。にしても……」
互いに距離を置く。
「おっかねぇー! 速すぎるだろ!!」
「お前の電気だってうぜぇよ。おかげで腕が痺れちまった」
言いながら、ヒロトは両腕を氷で強固にし、ライマルは全身に電気を流した。




