表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
第二章・上級試験編(青年期編・3)
254/316

第5話・ネネVSイツキ

「な、なにが起きたんだ?」

「あの子って確か……北闇の……。悪寒が止まらないわ。黒い物体はなに?」

「一瞬のことでサッパリだ」

「東昇の女は運が悪かったな。化けもんが相手じゃ勝てっこねえよ……」

「でもさ、ネネさん……だっけか? あの人、格好いいよな。混血者だってのにファンになっちまった」




 イツキが指を鳴らす。それは、試合が終了した合図でもある――。







 遡ること、〝数十分前〟。




「これより、第2試合を行います」




 控え室から現れたのはネネとイツキだ。半獣人と半獣人の戦いではあるが、会場はやけに静かであった。その理由は、イツキだ。南光では器は追い出されていたが、北闇はそういった対策をとらない。知ったのは、トーナメント表が公開されてからであった。


 特等席では、北闇の当主、青空アキラが目を細めてイツキを注視している。隣に座っているのは妻のハルカだ。彼女だけは、観戦者とは違い、イツキを恐れた目で見てはいなかった。別の感情が揺れ動いている。


 爪をかじる。肉までそぎ落としそうな勢いだ。




「出たわね……。疫病神め……。私にもお姉様と同じ力があれば、あんな子ども一捻りで葬ってやるのに……」

「ハルカ、やめなさい」

「あなたは黙ってて。私の獲物よ」

「まったく、珍しく外に出たいと言うから、こうして会場まで連れてきたというのに……。何度も言うが、レイが死んだのはあの子のせいじゃない。封印された獣のせいだ」

「そんな生き物、どこにもいないじゃないっ。あの子よ、あの子がやったのよっ。許さないわっ」




 精神を病んでいる妻から目を逸らして、再びイツキへ向き直る。




(ヤマトよ、どこへ消えたのだ。お前の息子は今、上級試験を受けている。立派に成長したぞ……)




 両者が立ち位置につくと、青島が合図を出した。




「始めっ!!」




 ネネはすぐさま距離を取る。というのは、イツキの能力を身をもって体験しているからだ。イツキの闇はあまりにも濃すぎる。捕らえられれば最後、彼が解放するまで抜け出すことは出来ない。




「蛇華・失踪劇」




 牢鎖境を回避すべく、ネネが姿を消す。イツキは動かなかった。




「ネネさん、本当にすみません。大切な試験なのに俺は本気を出せない」

(なにを言ってるの?)

「それに、ユマのお見舞いにも行きたいから、一瞬で終わらせます」




 飛躍したネネは、最上階の屋根に逃げた。ここなら能力は届かない。様子を伺って隙を狙おう。そういう作戦だったのだが、




「闇・夢想縛り」




 ネネが飛躍したときに立ちこめた、ほんの少しの土埃。イツキはそれを見逃さなかった。土埃は、向かって右上へ舞った。着地音はなく、地上での変化はどこにも見当たらない。ならば、




「唯一、飛び乗れる場所は……」




 黒い触手がネネの足首を捕らえる。




「嘘っ……」




 そのまま引きずり下ろされ、水切り石のように地上を跳ねた。そして、




「ごめんなさい」




 唱えたのは、ネネが最も避けたかった牢鎖境だ。四角い箱にネネが閉じ込められる。イツキも中へ入っていった。


 ネネは必死に明るいことを考えた。前回見たのは大地震。多くの仲間を喪ったあの日の出来事は、ネネがずっと心の奥底に封印してきたものだった。ハルイチの前で絶対に弱気にはならない。そんな思いから、彼女が地震に関係する内容を口にする事はなかった。


 東昇の裏切り者をあぶり出したあの時、ネネが全てを打ち明ける前に牢鎖境は解かれた。助かったと、そう思った。それなのに――。


 戦場ではまったく役に立たない、ネネの妄想力。脳裏にタモンを浮かべてハルイチを考えないようにと足掻く。だが、〝ハルイチを〟と考えた時点で、闇が彼女の心へ進入した。


 景色が歪み、倒壊しかけた平屋が姿を現す。四つん這いで柱を支えているカネツグがそこにはいる。




「大人じゃ無理だ。ネネ、頼めるか?」




 まだ子どもの面影が残っていたネネは、涙と鼻水と垂らしながら、今にも崩れ落ちそうな平屋に恐怖した。


 中に入って、もし崩れたら――。ネネは首を横に振った。




「無理だよ、怖いよっ」

「大丈夫だ。俺が支えている」




 どうしたらいいのか分からず、ネネはミハルに助けを求めた。しかし、ミハルもまた、柱を支えているため両手を離せないでいる。




「カネツグ様の身体の下を通れるのはネネ、あなたしかいないの」

「ミハルさんっ……」

「耳を澄ませてごらんなさい」




 言われたとおりにすると、カネツグの奥から子どもの泣き声が聞こえてきた。ハルイチだ。まだ家の中に取り残されている。




「きっと、怖い思いをしているわ。お願い、ネネ。助けてあげて」




 そこへ、避難する人々が走り寄せてきた。瓦礫が多いため、平屋の上を走っていることに気がついていない。重みにミハルの指先が切れ、血が流れ出た。


 激痛が身体を駆け巡ったはずだ。それなのに、ミハルはネネに笑って見せた。




「ほら、私は絶対に離さないし、カネツグ様だって大丈夫でしょう?」

「そうだぞ、ネネ。これくらいへっちゃらだ」




 汗の滲む苦痛に満ちた笑み。ネネは勇気を振り絞って中に入った。腹ばいになって前進していくと、奥に座り込むハルイチを見つける。




「ハルイチ様!! こっちです!!」



 

 振り返ったハルイチは膝を抱えながら震えている。ネネの胸がはち切れそうになる。待たせてしまったことを後悔する。溢れ出そうになる涙をネネはぐっと堪えた。この時、ハルイチはまだ3歳だった。


 ハルイチの頭を守るようにしながらカネツグの元へ戻る。先にハルイチを出して、最後にネネが脱出しようとした、その時――。




「王家が救出に来てくれたそうだ!! みんな、急げ!!」




 平屋に大量の人々が押し寄せた。カネツグの背に柱が食い込むと、ネネの耳に「ボキッ」と音が聞こえてきた。




「ぐあああああああ!!」




 折れた背骨にカネツグが絶叫する。ミハルの指も血で滑り始めた。




「ネネ、出てきなさい!! もうもたないわ!!」

「でも、カネツグ様が……――っ!?」




 カネツグが姿勢を変えてネネの上に重なる。平屋は完璧に崩壊した。




「ネネ、生きているな?」

「はい……」

「すまない、生き埋めになってしまった」




 抱きしめられているのに、カネツグの声は遠くから聞こえているみたいにこもっている。




「外にはミハルさんや仲間もいます!! だから、大丈夫です」

「ああ、〝見えてる〟よ」




 耳を澄ますと、ミハルの怒鳴り声がした。なにやら人間に叫んでいる。それと、ハルイチの声。「チチを踏まないで」との幼い声がする。それに対して、カネツグは「痛くないぞ」と声を返していた。


 まさか――。ネネが身をよじってカネツグの腕から顔を出す。




「ひっ……」



 

 思わず細い悲鳴が出た。カネツグの首から上が平屋の外に出ていたのだ。首に柱が乗っかっている。


 その間も、平屋は上下に揺れている。誰かが上を走っているとのことに気づくと、ネネは大声で叫んだ。




「やめて下さい!! お願いです、まだカネツグ様がいるんです!!」



 

 混沌と化した地上に声は届かない。ネネの目から涙が溢れる。そして、彼女の目の前で――。


 イツキが指を鳴らすと、牢鎖境が空間へ消えていった。


 ぺたりと座りこむネネは、青空を仰ぎながら無表情で涙を流している。




「……ハルイチから伝言。ネネ、俺は全部覚えているよ。これでお互いに過去と向き合ったのだから、これからは2人で乗り越えていこう、って」




 すると、彼女の脳裏に、父親を失ったばかりのハルイチが浮かんだ。ネネの足にしがみついて、「ネネは離れないでね」と泣きじゃくる、幼い彼の姿だ。


 ゆっくりと立ち上がり、ネネは大きく息を吸った。




「ハルイチ様ぁあ!!」




 会場の空気がびりびりと振動する。




「カネツグ様に託されたその命!! ネネは死ぬまで御守りいたします!! 絶対にっ……」




 ツンと鼻の奥が痛くなる。




「離れません!!!!」




 誰よりも号泣する青島が、イツキの突破を告げようと口を開く。だが、イツキがそれを拒否した。




「俺は辞退します。どのみち、誰が相手でも本気では戦えない。かといって、加減してもそれは失礼に当たりますので」

「本当に良いのか?」

「はい。第一試験と第二試験で評価をして下さい」




 まさかの、第二試験も通過者なし。怒濤の展開に、ニチ班は焦っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ