第25話・第二試験、終了
5日目の朝を迎えた。大人1人が通れる幅しかない岩肌の隙間から受験生が顔を覗かせる。
潮の匂い、波のしぶき、強めの風――。なによりも、高くそびえ立つ壁と、三角状に割れた大地がゴール地点であることを知らせる。5番通路を進んできた班が声を上げて喜んだ。
全員の服が濡れているものの、目立った外傷はどこにもない。正解の通路にトラップは仕掛けられていなかった。あったのは地下に潜む美しい湖だけだ。
ちなみに、コウマとリン、ケンタがこの班にいる。
コウマは悩んだ。自分はリンを護衛しなければならない。しかし、混血者なしで、ここに人間だけを待機させて大丈夫なのだろうか、と。誰かが残りの受験生を呼びに戻らなければ、リョウタの作戦が無意味なものになる。
そして、もう一つ、気掛かりなことが――。
コモクに頼まれた内通者の件。コウマはしっかりと覚えている。イオリとカナデを保護しながら、ハクマとヒスイと一緒に探し回っていたのだが……。
(最初に幻覚を見た受験生の中に内通者らしき人物はいなかった……。保護した2人もシロ。つまり……)
内通者はまだ洞窟の中で試験を受けている誰かだ。悩んでいる時間はない。
「俺とリンで他の人を呼んでくる。みんなは休んでて。行こっ」
リンが頷く。彼女の手を引いて、コウマは足早に引き返した。
青空を仰いでケンタは深く息を吐き出した。ホルダーにある桜姫を横目に、犯した過ちに苛まれる。合格したものの素直に喜べないのだ。ケンタが何をしたのかも知らずに、他の受験生が彼を気遣った。
「きっと来るよ」
「え?」
「仲間のことが心配なんだろ?」
「ま、まあ……」
「確か、黄瀬班の子だったな。あの2人は混血者だし、問題ないって。むしろ、俺たちがゴールできたことの方が奇跡だ」
別の受験生が口を挟む。
「私たちの仲間が来なかったら、結局は不合格よ」
「そうだけどさ。でも、俺たちを起こしてくれた子が言ってたじゃん。不合格でもいいから、とにかくゴールを目指そうって。ぶっちゃけ、ここに来るまでは絶対に合格してやるんだって思ってたけど、今は違う。達成感の方がデカい。俺でも出来るんだって自信がついたし、また次頑張ればいいやって思えた」
「私も同じ気持ちよ。だけど、合格したかったわ……」
「それには課題をこなさなきゃな。混血者がいるから安心……じゃなくて、混血者に必要とされる人間にならなきゃ。俺たちは甘えすぎた。今回の試験で、イヤってほど痛感した」
「どうして?」
「だってさ。あの子は励ましてくれたけど、俺たちは互いに励ますことすらしなかっただろ? あの子が前にいることで安堵しきっていた証拠だ。結局、我が身でいっぱいだったってわけ」
言い終えて、ケンタに向く。
「先導してくれたあの子、彼女の名前はなんていうの?」
「玉城フウカだよ」
「俺はずっと彼女のことを忘れない。とても良い仲間を持ったな」
「そ、そうだね。うん……本当に……そう思うよ……」
今後について和気藹々と談笑する受験生の隣で、身が縮こまっていくケンタ。彼の心は崖っぷちに立たされていた。
ケンタが過ちさえ犯さなければ、彼らと同じように明るい未来を見据えられたことだろう。しかし、それは許されない。
(牢屋だけはイヤだ……。みんなと離れたくない……。ボクは……北闇で一生を過ごすんだっ)
彼に正しい道は選べない。
その頃、7番通路では――。
1・8・9・10番通路と確認し終えた混血者の班が、7番通路を進行するフウカとユマを追いかけていた。3・4番通路の班は合流地点に戻っている。残すはこの通路と5番通路だけだ。
その後ろを、受験生の中で最速であるイツキが追っている。戻って来たコウマとリンの報告を受け、呼び戻しに向かっているのだ。半分も行かないところでイツキが追いついた。そこには全身に汗を流すユマと、介抱するフウカ、見守る受験生の姿がある。
「ソウジ、ユマはどうしたの?」
「背中の傷口が炎症を起こしている。熱が高い……」
「俺が運び出す。正解は5番通路だ。ニチ班のスイモクが案内をしてくれるから彼に着いていって」
「すまない、ユマを頼む」
浅い呼吸を頻回に繰り返すユマ。つま先まで熱を帯び、脱水症状を起こしている。フウカは懸命に水を飲ませようとしていた。ユマの口の端から水がこぼれ落ちる。
「飲み込む力もないっぴ……。イツキ、急いで」
「わかった」
揺らさないように背中に抱える。ソウジとフウカが上着を脱ぎ、ユマの背中とお尻を支えるように、イツキの身体に固定させる。
幸運なことに、トラップが作動する前にユマは倒れた。この通路にいる受験生は全員無事だ。
瞬く間に駆け出すイツキ。受験生は急いで5番通路を進んだ。
イツキはゴールに着くなり外で待機する受験生に助けを求めた。俯せでユマを引きずりだし、また抱え直すと、今度はそびえ立つ壁を登り始める。下で受験生が無事を祈るなか、イツキは必死に手足を動かした。
「俺の声、聞こえる?」
「……うん」
「もう少しで着くから」
「ゆっくりでいい……。イツキの背中……すごく安心する……」
弱々しい声で笑って見せるユマ。意識は朦朧としている。
「神様に……」
「ん?」
「神様にずっと祈り続けてきた……。どうか、私の幸せを半分わけてあげて下さいって……」
イツキの動きが止まる。少しだけ俯き、唇を噛み締める。
「あの子が……イツキが……心から笑えるように……。隣に居るのが私じゃなくてもいいから、誰でもいいから……。うん、誰でもいいんだ。幸せはあるんだよって教えてくれるなら、誰でも……。でも、神様は私ばかりを幸せにした。私は今、とても幸せだ……」
涙が風に掬い取られていく。声を上げまいと、イツキは堪えていた。けれど、
「違うっ」
一言喋っただけで、彼の涙腺は崩壊した。
「ちゃんと届いているよ、ユマ」
「本当か?」
「うんっ。俺はっ……」
幸せ者だ――。
イツキの闇が薄れていく。涙で、洗い流されていく。
壁を登り切ると、そこには各班の隊長と蘭の姿があった。様子がおかしいことにいち早く気づいた青島が走り寄る。
「――っ、医療班!! すぐ診てくれ!!」
着いていこうとしたイツキを青島が止める。
「彼女は女性だ。気を遣え」
「……すみません」
太陽がてっぺんに差し掛かる頃、全員が平原地帯に辿り着いた。合格した班は僅か。しかし、落ち込んでいる者はいない。
「君たちのおかげでたくさんのことを学べた。いずれ、隣に立てるようにこれから修行に励むつもりだ」
「私も。本当にありがとう。ユマちゃん、早く治るといいね」
「最後の試験、応援するから!! 何をやるのかわからないけど、負けるんじゃねえぞ!!」
「他国同士だっての。誰を応援してんだよ……」
「いいじゃねえか、別に!」
面の奥で蘭が微笑む。しかし、それも一瞬で冷淡な表情で混血者に向く。
(学んだの人間ばかり、か……)
お礼を言われて当たり前だとでも思っているのか、混血者は互いを褒め合うばかりで誰1人としてお礼を口にしなかった。
だが、合格は合格だ。
「全員、注目!! これにて第二試験を終了する。東昇で一泊したあと、明日は北闇に戻る。ゆっくりと休んでくれ。ご苦労だった」
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