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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
第二章・上級試験編(青年期編・2)
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第24話・イオリvs変異体・2

 遠ざかる足音に、ふぅーっと息を吐き出す。右半分だけ半獣化したイオリをまじまじと見つめる変異体。今のところ、後退した受験生を追う様子はない。


 イオリは考えた。




(幽霊島で発見したときは、十分な広さがなかったから動きが鈍かっただけか。本来は、長い手足を使って獲物を捕獲、殺害……。前に俺が始末した変異体は頭部だけ飲み込んでいたようだけど、……なるほどな)




 この場所は、幽霊島の海岸沿いにあった洞窟よりも狭くて暗い。そして、


 イオリが足を動かすと、変異体が手を伸ばした。交わして立ち止まる。




(視力はほとんどない。音に敏感っつーわけだ)




 混血者に比べて体力は劣るものの、俊敏さを備えているイオリ。壁を走って変異体の横をすり抜けると背後に回った。




「よっしゃ、追いかけっこといこぜ!!」




 幻覚に支配されていたため、体力は回復しきっている。助けてくれた仲間のためにも、ここで結果を残しておきたい。そんな思いから、イオリは初っ端から猛ダッシュをきめた。


 距離を取ると、振り向いて後ろに飛躍しながら伸ばされた手を交わす。




「おらおらおらおらぁあ!! 当たんねえぞ!!」

「ギャアアアアアア!!」

「これでどうだ!!」




 イオリの爪が腕を引っ掻く。スパッと裂けた傷からドロドロとした血液が溢れる。




「ギギギギッ……」




 傷口に目を奪われた瞬間を狙って、今度は変異体に向かって走る。イオリが自身の腕を振ると爪は更に長くなり、上半身の下に潜り込んでその腕を振り上げた。


 爪が下あごに引っ掛かり、上あご、鼻、目、額の順に引き裂いていく。だが、入りが甘い。


 爪にぶら下がる下あごを振り払って、イオリはまた飛躍しながら後退した。この先に曲がり角はない。




「ギャアアア!!」

「……ここいらで決着つけねーとな」




 背中に壁が当たる。行き止まりだ。イオリが大きく息を吸った。




「この道はハズレだ!!」




 ネネの耳にしっかりと聞こえたイオリの声。彼女たちは他の通路を確かめていた。別の通路から戻ってきたモモカに確認を取る。




「どうだった?」

「ダメです。行き止まりでした」




 ネネも大声でイオリに声を投げる。2番通路はハズレ。合流地点に戻るしかない。


 分かったところで、受験生は一目散に引き返し始めた。




「わ、私たちが行っても足手まといになるだけだからねっ」

「そうそう、仕方ないんだっ」

「彼は混血者のようですし、平気でしょう」




 勝手に動き始める受験生を、慌ててネネとモモカが追う。受験生を殺害した瞬間を目の辺りにしたばかりだ。焦る気持ちもわからなくはない。しかし、




「あれ1体とは限らない!! 戻りなさい!!」




 ネネの命令なんてどうでもいい。我先に逃げる受験生は、相手を突き飛ばしたり、肩でぶつかったりしながら合流地点を目指した。


 押された勢いで、1人が壁に衝突する。




「いってぇえ!! ……ん? なんだこれ」




 体が半分、壁に埋まっているではないか。


 ネネとモモカが立ち止まる。モモカの顔は引きつっている。




「あんた、なにを押したのよ」

「なにって言われても……」

「それ、スイッチかなんかじゃない?」




 何かが作動したような轟音が聞こえてくる。その音はイオリと変異体がいる方向からだった。


 片方の腕を庇いながら、変異体は残りの3本の手足を器用に使ってイオリの動きを封じ込めていた。四つん這いでのし掛かり、顔をイオリに近づける。開いている右手で変異体の顔を押さえる。


 吐き出された呼気は卵が腐ったような異臭がする。




「くっさ! なに食ったんだっての!!」




 すると、イオリと変異体に影がかかった。顔面を抑え込んだまま正体を確かめる。行き止まりだった壁が手前にゆっくりと倒れてくるではないか。これは、先程受験生が作動させたトラップだ。




「よし……よしよしよし!! そのまま倒れてこい!!」




 無我夢中で押さえられている手足を引き抜き、両足を変異体の首に絡ませる。体重をかけ、壁が倒れる寸前で、変異体の下からお尻の方へ回り込んだ。


 メキ……メキ……と、変異体の顔が潰れていく。




「ギ? ギギギギッ」

「これで最後だ!!」




 壁の上にイオリが飛び乗ると、ぐしゃりと顔が潰れた。


 終わった……、そう思いながら、開かれた通路の先を見据えた。上り坂になっているようで先はまったく見えない。




「だいぶ急な坂だな……。行ってみるか」




 ナオトが落ちた穴に比べればそこまで垂直ではないが、それに近い。イオリは手をつきながら登った。少し進んだところで、また壁に辿り着く。ここは煙突のようになっており、結局はハズレのようだ。


 仰ぎながら、イオリは腰に手を置いた。




「戻ろ……」




 もと来た道を引き返し始めると、煙突の向こう側から「ガコン」と、何かが外れるような音が聞こえてきた。続いて、壁を削りながら落下してくる物体にイオリの目が釘付けとなる。




「マジかよ……」




 落下してきたのはつるつるに磨かれた巨大な鉄球だ。こんな物にイオリの爪は引っ掛からない。




「だああああああ!! ネネさーん、ヤバイっす!!」




 もつれる足で必死に逃げるイオリと、坂の力を借りて剛速球で転がってくる鉄球。


 ネネとモモカの目が点になり、逃げていた受験生は息を飲んだ。




「逃げろ逃げろ逃げろ!!!! 押し潰されっぞ!!」




 鉄球が変異体発見地点にくると、今度は合流地点までの道に落とし穴のトラップが作動した。2メートルないくらいの穴だ。足もとを見ていなかった受験生が次々に落ちていく。


 残されたのはたったの3人。ネネとモモカ、イオリが穴を飛び越え、交わしながら走る。




「なんであんな馬鹿でかい玉が動き出したんだ!?」

「受験生の1人が誤って作動させてしまいました。私の監督不足ですわ」

「ネネさんに責任はないっての。そもそも、急遽他人同士で組まれた班なんだから、上手くいきっこねぇんだって!!」




 数歩ほど遅れているモモカの手をイオリが引っ張る。




「もう少しだ!! 頑張れ!!」

「イオリ様っ。この手、一生洗いません!!」




 そうこう話しながら合流地点を目の前にする。と、ここでイオリが躓いた。変異体が乗っかっていた足に痛みが走ったのだ。


 モモカの背中を押して派手に転ぶと、モモカは踵を返してとんでもない力でイオリを合流地点に放り投げた。さらには、




「この無礼者がぁあ!! イオリ様の邪魔をするんじぇねえ!! ぶっ壊すぞ!!」




 甘い声はどこにやら。おじさんの怒号みたいな低い声で暴言を吐いたモモカが、中腰になって拳を構えた。


 左手を真っ直ぐ伸ばす。拳を作った右手は腰に添えられている。




「成敗っ!!!!」




 綺麗なストレートパンチが放たれると、鉄球の中心から亀裂が入り砕けた。


 あんぐりとその光景を眺めるイオリ。勢いでスカートがふわふわと舞い、ボウシが宙に飛ぶ。


 彼女が合流地点に戻ったところで、2番通路の入口が閉まった。




「あら、壊す必要はなかったみたいね」




 いつもの調子でいるモモカに、同班であるトモが声を掛ける。




「お疲れー。イオリ君と同じ班でハッピーみたいだね」

「イオリ様の前でやめてよね!! は、恥ずかしいじゃないっ」




 女の子らしく腰をくねくねとさせているが、もはや手遅れである。


 とんでもない奴に好かれたと、イオリはネネに救いを求めた。

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