第22話・トラップ発動
それぞれの通路を行く受験生たちは、まず通路の広さを確認していた。横3メートル、縦4メートルほどの筒状になっている曲がりくねった通路。動き回るには申し分ない広さだが、見通しが悪く、枝分かれした道が多い。
曲がり角には来た道を照らすように向けてヘッドライトで印をつける。それから、壁に耳を当てる。
「なにも聞こえないな……」
「ってことは、分厚いってわけだな」
確認作業を行っているのは人間だ。情報を混血者に伝えて前へ進んでいく。
互いに他人同士だからか、高まる緊張感は丁度いい距離感を作っている。暴動も起きず、喧嘩もない。このままゴールに辿り着ければいいのだが――。
「っだぁぁぁあああ!?」
さっそくトラップが発動した。
「――っ、動くな!! ロープが切れたら死ぬぞ!!」
逆さ釣りにされている受験生の頭の下に、ほぼ引っ掛かったのと同時に地面から先の尖った木の針山のような物が飛び出してきた。落ちれば串刺しである。
巧妙に作られた罠に、6番目の通路を行く混血者、カナデとクロムが目を細める。
「めんどくせぇな」
「どうやって向こう側に行きますか?」
宙づりにされている受験生は隊列の真ん中を歩いていた。何かを触ったようで、発動したトラップにより隊列は前方と後方に分かれている。2人は後方にいて、剣山を注視している。
深さはないが、向こう側まで距離がある。走り幅跳びの要領で飛び越えるにしても、5メートルくらいある幅を人間が飛び越えるのは不可能だ。
クロムが半獣化する。大きく広げられた翼に、後方に取り残された受験生の瞳が輝いた。
「ったく、序盤からこれかよ」
「仕方ありませんわ。あまり考えている時間はありません」
「だな。じゃ、てめぇから行くぞ」
クロムは、自身の隣に立つ西猛の受験生の肩をかぎ爪で持ち上げ、低空飛行で運ぼうとした。しかし、
「ちょっと待ってくれ!! 俺が先じゃないのか!?」
罠に捕らえられている受験生の顔は真っ青だ。
「バカか。お前を動かしたら罠がどうなるかわかんねぇだろ。人数もそういねぇし、ちょっとくらいジッとしとけ」
絶望した顔で剣山に向く。先端を見つめていると、受験生の視界が魚眼レンズのように屈曲し始めた。もしロープが切れたら……、みんなに置いていかれたら……、そんな恐怖が受験生の心を蝕んでいる。
通り過ぎていくクロムの羽を、あろうことか受験生が掴んだ。
「ばっ!? てめぇ、離せ!!」
「お、置いていかないでくれ!!」
「落ち着けって!!」
前方後方から怒号が飛び交う。受験生はさらにパニックになった。
クロムが藻掻けば藻掻くほど、運ばれている受験生の身体が左右に暴れる。その勢いを利用して、クロムの羽を掴む手を払い落とした。
ロープがきしきしと音を立てて揺れる。受験生の黒目がロープに釘付けとなる。
「お……ちる……」
ロープは太めの物だ。そう簡単に切れはしない。だが、パニックになっている彼にはまるで分かっていなかった。
掴めそうな隆起している岩に手を伸ばす。すると、カナデが叫んだ。
「ダメ!! その岩、変だわ!!」
ここに来るまで、壁は滑らかだった。それに比べて、彼が今掴もうとしているのは目立つほどに突出している。まるで、これにしがみつけと言わんばかりだ。
ロープの軋む音が、受験生の心にあった一握りの迷いを瞬く間にかき消す。
突出した岩が「ガコン」と音を立てて下にスライドすると、天井が開き、受験生の頭上から白い粉が降ってきた。同時に、前方の通路は、横から出てきた壁が行く手を塞いだ。後方も同様に横から出てきた壁が動いている。
粉を吸った受験生が倒れていく。
(マズい……)
クロムは方向を変えながら片足に西猛の受験生を掴み直して、もう片方でリンを捕獲。そうしながら、ぎりぎりの所で壁と壁の間を通り抜けた。
「最悪だわ」
降りたカナデが壁を見つめる。
「6番通路はハズレ……。答えがわかったのはいいけれど、私たち3人以外が閉じ込められるだなんて……」
背後から聞こえてきた足音に振り向くと、そこには精鋭隊員の姿があった。手にはリモコンらしき物が握られている。壁に向けてスイッチを押すと、通路は元の姿を取り戻した。そして、トランシーバーで仲間に連絡する。
「こちら、6番通路。トラップが作動した。回収に来てくれ」
脱出した3人には目もくれず、隊員がトラップの方へ進んでいく。クロムが呼び止めた。
「ちょっと待て。起きるかもしれねぇだろ」
「これは医療用品だ。2日は起きないだろう」
為す術もなく合流地点に戻り、他に誰か戻ってこないかしばらく待つ。闇雲に動き回るのは得策とはいえない。
「あんた、名前は?」
クロムが話しかけたのは西猛の闇影隊だった。
「金剛班所属の大杉トモです。トモって呼んで下さい」
「俺はガイス班所属のクロム・ヘンスだ。で、あんたは?」
「赤坂班所属の五桐カナデです。よろしくお願いします」
「トモにカナデ、と。黙って待機するのもなんだから、ちょっと話そうぜ」
こうして、6番通路はたった3人を残して、後は全滅したのだった。




