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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
第二章・上級試験編(青年期編・2)
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【逸話】・ハシヒメ

 幾度となく繰り返された戦は、弱い者を巻き込み数多くの命を奪った。人は争うことを止めず、見えない頂点を目指していた。


 何がそこまで人を動かしていたのだろう。ひっそりと生きるワタシにはわからなかった。ただ、今日という日を生きることで必死だった。


 そんなワタシは、何が敵かすらもわかっていなかった。


 この世には、人以外の生き物が存在する。獣と妖と鬼だ。


 何もわからないワタシでも、これだけは知っていた。


 人と妖は鬼と戦っていた。


 いつだったか、幼い頃。


 王家の1人が、鬼が巣くう島を発見した。己が信じる四人衆を連れ戦を挑み、打ち勝ったと噂で耳にしたことがある。


 彼と四人衆は英雄となり、生き残りと戦い続けた。そして、その武勇伝はワタシの生きる力となっていた。彼等がいるからこそ、ひっそりと生きていけるのだと、そう思っていたからだ。


 しかし、そんなワタシの前に妖が現れた。人のようで人じゃない、あまりにも小さくて醜い、獰猛な生き物。でも、獣でも鬼でもない。ならば、こいつは妖だろう。そいつはワタシを食べようとした。


 愚かだと、昔と変わらず大馬鹿者だと罵り、鼓膜が破れそうなほどの奇声をあげ、首に噛みつかれた。生暖かい血が肩を伝い、それを感じながらこう思った。


 食べるのではなく、殺す気だったのか、と。


 誰に知れることもなく、ひっそりと死ぬのだろう。彼等なように慕われることもなく、存在していたことすらも知れぬまま、無実の罪で殺されるのだろう。


 何もしなかったからこその無実。こんな世の中で、ワタシは自分のことだけを考えて生きてきたのだから。


 これは、無実の罪だ。


 死を覚悟した。


 それなのに、彼は突然目の前に現れた。




「お怪我は……――っ、あまり綺麗ではないが、これを使いなさい。ソッと傷に当てるのですぞ?」

「ワタシ……」

「目を見たらわかる。この世を生きるにはあまりにも無慈悲な世界だが、死ぬほどツラいわけではない。こんな世の中だからこそ生きなさい……。きっと強さを与えて下さる」




 彼は英雄の1人だった。

 

 ワタシの生きる力の源が目の前にいる。




「連れていってください…」




 血だらけの道を、共に歩ませてください。ワタシに強さをお与えください。


 あの時のワタシには彼が必要だった。


 彼は功績を称えられ、小国を与えられた。そこで一緒に暮らすことになり、こんなワタシに溢れてしまいそうな愛情を注いでくれた。


 時には、愛馬に股がって国々を駆け、ワタシが知らない世界を見せてくれた。他の英雄の方々ともお会いすることができ、話しを聞きながら彼らの目指す未来予想図に胸を打たれた。それだけでも特別になれた気分だった。想いに応えようと、ワタシは彼が留守のあいだ、必死になって小国を切り盛りした。


 ここまで頑張れたのは、首に残る傷痕を美しいと言ってくれたからだ。そして、何よりも、いつか夫婦の契りを交わそうと約束してくれたこと。涙を流しながら何度も頷いた。


 この約束があった日から、ワタシは小国・月夜の国の当主を勤めることになった。


 幾年か過ぎ、その日はやって来た。


 白無垢に身を包み、生まれて初めて紅を塗り、まるで別人になった。長い髪が好きだと言っていた彼のために伸ばした髪。クシでとかれながら綺麗だと褒められ、さらに胸は高鳴った。


 だけど、迎えにきたのは彼ではなかった。


 胸の高鳴りで気づかなかったけど、いつの間にか雨が降っていたらしい。戸の向こうには、全身濡れた女が立っていた。


 そして、こう言った。




「ごめんなさい」

「あの、家をお間違いでは?」

「ごめんなさい……。あなたを傷つけてごめんなさい……」

「なんの話かしら?」

「婚礼の儀礼は取り止めになりました」




 うつ向きながらそう口にした女は、小さく震えていた。




「使いの方ですか? 彼は戦に?」

「あなたとは夫婦の契りを交わさない、そう伝えに来たのです」

「――っ、どういうことなの!?」




 顔を上げた女は、私の首に噛みついたあの妖よりも恐ろしい笑みを浮かべていた。




「私と契りを交わすのです。なので、断りを申し上げに参りました。あなたはただ、目撃者として監視されていただけの女ですから、ご理解くださいまし」




 去っていく女の後ろ姿は、雨が降っているにも関わらず、どこか幸せに満ちていた。雨をものともしない軽快な足取りに、嘘ではないのだと思い知らされた。




「な……んで……? こんな仕打ち、酷すぎるわ……」




 制止する声を無視して、女を追いかけた。雨で消される前に、あの女の足跡を辿った。そこには、女を出迎える彼の姿があった。




「綺麗な髪がずぶ濡れじゃないか。さ、中へお入りなさい……」

「髪なんて気にしなくていいわ。それより、ちゃんと伝えてきましたから」

「わざわざすまない……」




 唇と唇を重ねる姿は、ワタシの心を壊すに十分な光景だった。気がつけば、ワタシは2人に襲いかかって泣き喚いていた。


 女は必死に彼を守り、首の骨を折って死んでしまった。そんな女の姿を見た彼は、亡骸を胸に泣き叫んでいた。ワタシの髪を褒めたのも、女を思い出して重ね見ていたからなのだと気づいてしまった。本当に愛していたのだと、わかってしまった。この日、ワタシは初めて有罪となったのだ。


 色んなことに気がついた時には、ワタシの体は川を流れていた。


 雨が原因で洪水となり、いったいどこまで流されたかはわからない。


 体から溢れる血がどれだけ流れたのかも、わからない。


 ただ、彼にとってワタシは、不必要な存在であったことは確かだ。


 長い髪の毛は橋の柱に絡まり、天を睨み付ける目は動かすことができなかった。


 水面に虚しく揺れる婚礼の衣服は、恨みと悲しみを吸収し重くなる。


 そして、気がつけばワタシはワタシ自身を見下ろしていた。


 哀れな姿となった己の姿は、一瞬でも美しくなれたあの瞬間でさえ消してしまった。


 川に捨てられる前の彼の声は、今でも耳に焼きついている。




「許せ、ハシヒメ」




 だって、嬉しそうだったんですもの。


 愛する女を奪ったワタシを殺すことができて、彼は泣きながら笑っていたわ。


 そのおかげで、わかったの。


 この世には、人以外に獣と妖と鬼が存在する。


 ワタシを殺そうとしたあの妖よりも恐ろしいのは、人である。


 人を壊すのは、人である。


 ワタシの敵は人である。


 ワタシは人に壊されるのではなく、人を壊す側になる。


 こうして、ワタシは白無垢と共に妖となったのだ。

 評価・ブクマをして下さった方、本当にありがとうございます!


 この時間帯に投稿していますが、もっと時間があれば夜中までかじりつくのになぁ……。

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