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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
第二章・上級試験編(青年期編・2)
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第7話・自己暗示の限界突破

 地面よりも高い場所を移動しながら、ナオトは新たな可能性を見出していた。


 混血者は半獣化・半妖化しない限りは自己暗示を使うことが出来ないけれど、走流野家にはそういった条件がない。知り得た自己暗示についての情報はこれだけに止まっていたのだが、ここ最近の現状を照らし合わせると、この能力はもっと有効活用できるものだと気づいたのだ。


 テンリの狙いはナオトであるが、本人というよりも(しもべ)であるグリードの方が頻回に襲いにやって来る。そのせいで青島班の任務は効率が悪くなり、遂行に至るまでの時間が長い。


 だけど、この方法なら――。




(グリードは木登りができない!)




 一つの可能性を導き出して、斜め前を行くヒロトに声をかけた。




「俺、勝つよ!!」

「させねえよ!!」




 互いに笑って見せて、ここで自己暗示を最大限まで解き放つ。リミッターが外れると、2人の体は真っ赤に染まった。血が煮えたぎり、鼓動が小刻みに連続して活動を始める。


 一歩蹴る度に枝が折れ、何メートルも前へ進む。そうして、試験官にタッチしすぐに下山を開始する。自己暗示は解かずに、風よりも速く駆け下りていく。


 地面に沿って降りていくヒロトと違い、ナオトは木の枝を掴んで遠心力の力を借り、空に向かって飛んだ。突如、目の前に現れる景気。一望できる北闇が、麓で待つ仲間の姿が、何よりも手に届きそうな空が、ナオトに自由の意味を教えたような気がした。


 高く飛んだナオトをヒロトが仰ぐ。




「なんだよそれ……。くっそ、俺も飛べば良かった!!」

「これ、マジで最高!!」




 心臓は破裂寸前なのに、ナオトは何も感じていなかった。むしろその逆で、正常時よりも落ち着いていて、耳の奥に今にも止まってしまいそうなほどゆったりとした心音が聞こえている。


 ナオトが心臓辺りの服を握りしめた。




(……自由だ)




 友達と泥だらけになって走り回っていたあの頃、熱いたこ焼きやすかすかの綿飴に喜んでいたあの頃、好きな物を好きなだけ食べていたあの頃、雪だるまを作って遊んでいたあの頃――。


 忘れかけていたあの頃が、ナオトの自己暗示に変化をもたらす。


 髪が長くなり、身長が伸びて、筋肉がついた体つきはまるで大人だ。そうして、ナオトは無意識に、何もない空間を蹴った。


 その瞬間を、ヒロトはもちろんのこと、会場にいる赤坂もしっかりと捉えていた。


 景色の一部分に稲妻のような閃光が走ると、影が物凄い速さで空中を移動する。


 ヒロトが負けじとスピードを上げた。感じ取ったナオトが渾身の力で空間を蹴り上げる。


 麓に迫る土埃と、落下してくる影。2人はスタート地点に引かれた白線を一点に見つめ、そして、




「おらああああああ!!」「っしゃああああああ!!」




 ナオトとヒロトの頭が触れる寸前で、赤坂が2人の体を受け止めた。いつの間に半獣化したのか、黒い両足が地面に食い込んでいる。


 つま先から頭を貫く電気のような刺激に、赤坂が眉をしかめた。




「ミハル! 時間は!?」




 あまりにも凄まじい双子の勝負に唖然としていた黄瀬ミハル。赤坂の声に我に返ると、知らぬ間に手の平に置かれていた2つのストップウォッチに気がついた。


 時間を見て目を見開く。




「2つとも45秒……」




 ざわついていた会場がシーンと静まりかえる。一呼吸終えると、会場は一気に爆発した。




「すっげぇえ!!」

「んだよ、呪われてるっていうからビビってたけど、ただのスーパーヒーローじゃねえか!!」

「くぅうっ、今年の試験、参加してよかったぜ!!」




 わぁわぁと歓声があがるなか、赤坂はナオトに注視していた。ナオトの体は元通りになっている。




(あれはなんだったんだ?)




 自分の見間違いかとも思ったが、ヒロトの様子を見ている限り、そうではないことがわかる。


 半分ほど意識を持っていかれている弟の体をベタベタと触りながら、「子どもだよな!?」などと言いながら混乱している。




(タモン様に報告しておくか……)




 先にヒロトを離して、赤坂はナオトを肩に担ぎながら足を抜いた。




「医療班!!」




 見たところ、大きな怪我はないみたいだが、あれだけ体を酷使したのだ。念のために担架で運ばせる。ヒロトは医療班の後を着いていった。


 入れ違いで、山から試験官が1人下りてきた。赤坂の耳元で何かを囁くと、赤坂の顔が険しくなり、試験官と一緒に山に入っていく。


 ゴール地点に着くと、受験生に囲まれた中心に問題の人物の姿はあった。額がぱっくりと割れ、おびただしい量の出血が見られる。ケンタだ。


 朦朧とする意識の中で、担架に乗せられたケンタが医療班の袖を握った。




「待って下さい」




 試験管に顔向ける。




「ボクは……失格ですか?」

「いいや、それはない。安心して横になっていなさい」

「よし、担架を下ろすぞ!!」




 安心したのだろう。ケンタは意識を失った。


 運ばれていくケンタを横目に、赤坂が状況を確認する。




「何があった?」

「大きな石が飛んできたそうで、運悪く頭に当たったようです。どうやら、双子のどちらかが蹴った岩の一部みたいでして……。しかし、2人は自分に触っていないからとのことで、特に申し出はありませんでした。ただ、受験生が引き起こした事故ですので、時間に間に合わなかったのは仕方ないかと……」

「なるほどね……。それで、3日後の第二試験に間に合いそうか?」

「ええ。試験内容を考慮しても、その心配はないでしょう」

「了解。ご苦労さん」




 試験管と一緒に下山を開始する受験生たち。赤坂は最後方を歩いている。そして、段重ねになっている大きな岩が連なる場所で足を止めた。


 二箇所、岩が割れている。双子が蹴ったのはこれだろう。




「大きな石、ね……」




 血の付着した石を探すもどこにも見当たらない。あるのは、赤く染まる先の尖った木の枝だ。


 色んな状況やパターンが考えられるも、赤坂は不正行為だと判断した。ケンタの体力は強化合宿で評価が出ているので、5分以内は不可能だとわかっていたからだ。しかし、ケンタよりも足の遅い受験生がいないために、目撃者は誰もいない。




「まったく……。タモン様が何の為に第一試験を体力テストにしたのか、何もわかっていないな。これだとふるいにかけた意味がないでしょーに」




 レンとフウカが10点ずつ獲得しているため、例えケンタが失格になったとしても、2人は第二試験を受けることができる。


 そもそも、タモンが点数形式にしたのには、ちゃんとした理由がある。合格基準を満たしていない者が第二試験を受ければ、確実に死者が出るからだ。未然に防ぐために第一試験で基礎となる体力を測ったのだが――。




「ミハルに注意しておくかな」




 第二試験、黄瀬班はどの班よりも困難を極めることになるだろう。

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