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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
第二章・上級試験編(青年期編・2)
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第5話・死の物狂いで走りやがれ

 10人ずつで行われる半獣人の試験。最も時間がかかるのは、この試験に違いない。


 半妖人に比べると、半獣人の一族は倍にもなる。同班で参加する者も少なくはなく、赤坂班もその内の一班だ。


 テンリとの一戦から全回復して間もないユマ。前だけを見続けるソウジ。そして、もう1人――。




「ソウちゃん、俺を置いてかないでな」




 両サイドは刈り上げられ、長いえりあしを三つ編みにしている青年がソウジにもたれ掛かる。




「この引きこもりが。トレーニングだと思って集中しろ、リョウタ」




 (みなもと)リョウタ。彼はソウジの配下だ。イツキが〝司令塔〟と例えていた配下である。


 盲点という意味では、リョウタもその1人だろう。ソウジの言葉にもある通り、彼は引きこもりだ。赤坂班は人数が多いため、任務をサボるのはもちろんのこと、自室からもあまり出てこない。よって、彼の能力は未知数だ。


 かといって、弱いわけではない。ソウジの次に強いのは彼なのだ。




「えー、ダルッ。ねえねえ、ユマっち、引っ張って」

「ふざけるな。走れ」

「相変わらずきっついねぇ。ヤダヤダ」




 リョウタを横目にソウジはため息をついた。




「貴様が引きこもっているあいだ、誰がカバーしたと思っている。ユマだぞ」

「一応さぁ、毒草事件の時は家から出たわけじゃん。そこ、褒めるべきっしょ」

「馬鹿を言うな。結果、国内では何も起きなかった。貴様はただ見張って帰っただけだ」

「じゃあ……」




 ソウジから離れて、リョウタは彼と同じ方を向いた。




「一番になったら褒めてくれる?」

「試験では3分以内だが、そうだな。2分をきれば褒めてやる」

「ダッル!!」




 リョウタの意気込みを消沈させたくて意地悪を言っているわけではない。そもそも、ソウジは負けん気が強いのだ。勝つためなら彼の願いを素直に聞き入れただろう。しかし、一筋縄じゃいかない。




「険しい山道ならまだしも、ただの一本道だ。まるで勝算が浮かばない」




 ソウジの目にロックオンされたのはイツキだ。リョウタが首を傾げる。




「あいつ、体力の成績は15位だったろ? 余裕っしょ」

「頭は良いのに目は節穴か。あれはだいぶ手を抜いての成績だ」

「へえー。ソウちゃんが目をつけるだなんて相当だな。ヒロトはどうしたよ」

「間違いなくヒロトはライバルだ。なにせ、能力の相性が悪い。だが、イツキはまた別だ。あいつが本気をだせば、おそらく……」




 試験官が第一走者の名前を告げる。二カ国同士で競うようで西猛と南光から試験は開始された。




「おそらく、なに?」

「新人の中で群を抜く強さを持っているとすれば、青空イツキ。あいつしかいない。そして、イツキと対等に戦えるとするならば、それはたった1人だけだ」

「三ツ葉ソウジってか?」

「俺じゃない。走流野ナオトだ」




 リョウタの中で、ナオトの存在は虫のようなものだ。他国に関しても同じで、彼はまったく他人に興味がない。なので、山吹神社事件も、大猿との一戦も、西猛の襲撃の時も、彼は戦闘に参加していなかった。なぜなら、これらが他国からの依頼だったからだ。


 試験もそうだ。リョウタが配下に選ばれていなかったら、確実に彼は試験を受けていない。


 しかし、そんな彼がたった一つだけやる気を起こすスイッチが脳内に存在する。




「ソウジが一番じゃなきゃダメっしょ。北闇の狂犬と恐れられた俺たちの一族が国を守ってきたんだ。過去も、そして未来も、この事実は一生変わらない」




 全速力で一本道の奥へと消えていく受験生を、小馬鹿にしたような態度で眺める。




「イツキがなんだ、ナオトがなんだ。邪魔するってんなら俺が排除してやるよ」




 すぐ真後ろで聞き耳を立てていたヒスイは、静かにイツキのもとへ移動した。彼はイツキを護衛しなければならないのだ。


 血の気の多い奴らめ――、そんな苛立ちを抱いていた。


 西猛と南光の受験者が多いため、ここで北闇と東昇の部へと変わる。さっそく呼ばれたのは、赤坂班・青島班・ヒスイを含む10名だ。


 イツキの隣に立ったリョウタ。ヒスイが割って入る。イオリは誰よりも端っこにいる。




「ごめん、ここいい?」

「他にもあるっしょ」

「そうなんだけど、初めての経験でめちゃくちゃ緊張してんだ。この人が一番優しそうだから、気持ちだけでも楽になりたくてさ」




 確かに、光影の国が上級試験に参加した例は一度もない。眉を下げて頼んでくるヒスイに、リョウタは渋々場所を変わってあげた。


 試験官がスタート地点より前に立ち、片手を上げる。




「位置について……」




 ポケットに手を入れたままヒスイは合図を待っていた。その姿勢をリョウタが不審に思う。


 イツキが隣にいるだけで、これほどまでにリラックスできるのだろうか、と。




「よーい、始め!!」




 ヒスイに視線を奪われていた、その時。ヒスイとソウジ以外の走者がほぼ同時に尻をついた。突然、目の前から突風が吹き荒れたのだ。前を向けば、そこには先頭を走るイツキと、その後ろを必死に食らいつくイオリ、数秒遅れで走り出したソウジの姿がある。イオリが端にいた理由を瞬時に理解したリョウタが舌打ちをした。


 振り向いて、ソウジが声を大にする。




「何やってんだ!! 死に物狂いで走りやがれ!!」




 他国から北闇へ移住している混血者も参加しているが、ほとんどが集落に住む旧家の一族たちだ。今後、父親に代わって旧家全てを引っ張っていくソウジのプライドが見るも無惨に砕かれる。




「クソッ、やっちまったわ」




 あれだけ文句を垂れていたリョウタの目が据わる。片膝をつき、そして、




「いてっ!?」




 ヒスイの頬を飛んできた何かが切った。隣を見るとリョウタの姿がなく、地面に穴が開いているのを確認できる。


 マズい――。ヒスイも走り出した。踏み出しにかかった圧力は、リョウタよりも深い穴が開いた時点でなんとなく理解できるだろう。


 半獣化しなければ自己暗示は使えない。しかし、それでも彼らは人間に勝る力を何倍も秘めている。その差異は個人によって大きく変わる。


 リョウタがソウジの背中を捕らえ、追い越し、イオリに狙いを定めた。




「イツキ、来たぞ!!」




 すでにイオリの息は上がっている。チラリと横目に見て、リョウタは言った。




「ありがとさん」

「……?」




 イオリを追い抜き、イツキの隣を走る。




「もうちょいでゴールだな。これはもう勝負するっきゃないっしょ」




 話しかけながら、リョウタはイツキのある部分を観察していた。イオリに比べてイツキの呼吸は、肩や腹部の動きから見ても安定している。それでいて、まだまだ体力が残っている。




「うちの大将がお怒りなんだわ。1位を取らなきゃ俺がヤバイってわけ」

「なんでソウジじゃないの?」

「これは俺のトレーニングだからだ」




 イツキがスピードを上げ始めた。隣をしっかりと走るリョウタにまたスピードを上げる。手の振り、足の動きに乱れがないことから、まだ本気を出していないことがわかる――。そこまで観察し終えたところでリョウタの顔が後ろに振り返った。




「イオリだっけ? 転けた上に踏まれまくってんな。あれじゃ死ぬっしょ」

「――っ!?」




 ゴールを目前にして、イツキはスライディングで速度を殺した。慌てて踵を返す。




「なーんてな。嘘ぴょーん」




 ゴール地点である白線をリョウタの足が跨ぐ。源リョウタ、彼が1位となった。


 イツキはその場でイオリを待った。同時にゴールを果たしたので、8点ずつの16点を獲得。赤坂班はというと、3人の合計で30点を獲得している。つまり、ヒロトの結果を待たずして第一試験合格が決まった。


 イオリは実験成功者ではあるが、経験の差で負けている。混血者のようなスピードは出せない。イオリの顔が悔しさに染まっていく。




「卑怯だっての!!」

「へいへい。で、なに? 負けは負けっしょ」

「だあー! ムカつく!!」

「てめぇのせいで負けたってか? 勘違いすんな、負けたのはこいつのせいだ」




 イツキの顔を下から覗き込んで上目遣いに見上げる。




「イオリと開いた差は一定に保たれていた。仲間思いである証拠だ。だけど、俺が追いつくとスピードを上げ始めた。最初から本気じゃなかったってこと。ここから徐々に速度を上げていったことから、本当のてめぇは競争心が強く、せっかちな奴だ。プラスにいうなら、頭の回転が早くて、策略を練ることも得意。残念な事に仲間に足を引っ張られているって感じっしょ。正解?」




 イオリ自身も、イツキの知識や頭の回転の速さを心配したことがあった。けれど、イツキの性格は一緒にいてこそ知り得たものであって、リョウタのように一瞬で見抜いたわけではない。


 イツキがあどけない笑みを浮かべた。




「で、なに?」

「……ま、ナオトに賭けるんだな。頑張ってー」




 背中を見せて手を振りながら去って行く。そうしながら、「イツキを煽ってくれてあんがとな」とのお礼をイオリに伝える。




「あいつっ……、わざとか!?」

「みたいだね。さっ、ナオトの試験を見に行こう」

「お前、悔しくねえーの!? 強がりは体に毒って」「悔しいに決まってるよ」




 髪の毛を掻きむしると、イツキの顔から笑みが消えた。




「負けたことよりも、仲間を馬鹿にされたのが一番悔しい。だけど、それよりも、早くナオトに……負けたって伝えなきゃ」

「……だな」




 2人の会話を遠くから眺めるリョウタ。負けたと知って、ナオトはどれほど能力を発揮するのだろうか。好奇心に誘われがままに、リョウタは後を着いていった。

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