第2話・イッセイのミス
まだ皆が眠る朝方、先に宿屋から姿を現したのは、光影の国の下級歩兵隊として上級試験に参加する、キト・トウヤ・コウマ・ハクマの4人だった。
それぞれが変化した姿で、早めに会場へ向かっている。その中に、どう見ても不機嫌な者が1人。
「あ゛ぁ、やってらんねぇ。ってか、帰りてぇ」
静かな路地にそう文句を吐いているのはハクマだ。
常に機嫌の悪いオーラを纏うハクマだが、それは喋り方や人を小馬鹿にする態度のせいでそう見えるだけで、実のところ不機嫌というわけではない。そんなハクマが、虫の居所が悪いとでも言わんばかりに荒い足取りでいる。
寝不足というわけでもなく、任務が嫌だからというわけでもない。
「仕方ないよ。ジャンケンで決めようって言い出したのはハクマだ」
コウマの声にヒスイが激しく賛同した。
「自分から提案してそうなったんだろ。文句を言うな」
「わかってるよ!! でもさ、どうよこれ。屈辱しか感じないんだけど」
自身の身体を見て落ち込むハクマ。2人はゲラゲラと笑った。
目的地へと向かう4人の顔はどこか楽しそうにも見える。ハクマの〝ナニか〟が面白すぎるせいでもあるのかもしれない。
キトが前を歩きながら話しを締める。
「まあ、なんだ。恨むならイッセイだ。俺たちに当たるな」
そう言いながらも、口に弧を描いているキトは、その顔を見られぬようスピードを上げた。
開会式が行われる訓練校に着くと、自分達よりも早くに到着している部隊を見て足を止めた。まさかの先客だ。
青年が3人、校庭のど真ん中に座り込んでいる。黒い前髪を額の上で一つ結びにした者、緑色のクセっ毛を指で遊ぶ者、ひたすら騒いでいる者。青島率いる、青島班だ。
「よっしゃー!! いよいよだな!!」
「イオリ、うるさいよ。まだみんな寝ているんだから、少しは考えないと」
「イツキの言う通りだ。ってか、早すぎるし」
「やっとこさ上級試験だぜ!? 強い奴がうじゃうじゃいるって思ったら、やっぱテンション上がるだろ!! ま、この俺様が全員ブッ飛ばしてやるけどなー。次こそ1位だぞ、1位」
あれが、ユズキの友達――。声に出さずとも、部下組の3人は、どこか呆れたよな顔でやり取りを眺めている。
それからしばらくして、訓練校前に続々と受験生が集合した。中でも一際目を引いているのは、北闇の新人3班だ。大衆の視線を一身に浴びながら10人が顔を揃えていた。
黄瀬班の玉城フウカは、大衆の奥でこちらを眺める3人に色濃い眼差しを送り返している。
「何あれ、反則だっぴ」
真っ先に食いついたのは、言わずもがなケンタだ。彼はまだ何も諦めてなどいない。
「どうしたの? 格好いい人でも見つけた?」
「格好いいもなにも、初めて男の子を可愛いなんて思っちゃったって感じ?」
指をさす方へ向けば、確かに可愛らしい男の子の姿があった。
「うーん、なんか雰囲気あるね」
「やっぱそう思う? ……声、かけに行こうかな」
「えー!? やめときなよ!! ボクなら見てるだけにするっ」
そんな止め方で大人しくしているフウカではない。服を掴んで引き留めるケンタを引きずってでも歩いていく。
「すいませーん、ちょっといいですか?」
「ダメだ」
即答したのはヒスイである。やり直しの利かないこの任務。少しのミスが、後に待つ任務へ損傷を与える。何よりもキトが怖い。
頼むから話しかけないでくれ。そんな思いから自然と背を向けてしまった。しかし、フウカは諦めない。
「冷たいっぴ……。せめて名前だけでもっ!!」
「うるせぇな」
校内放送が2人の会話を遮る。班名と受験者名を読み上げるので、順に受付で登録を済ませろとのことだ。始めに、たった一班しかない光影の国から呼び出される。
【光影の国、ニチ班。ゲツカ・スイモク・キンド。受付までおこしください。繰り返します――】
3人の顔が見る見るうちに青ざめていった。とんでもない偽名を押しつけられたと、互いに顔を見合わせる。
そして、あれだけ冷たくあしらっていたヒスイが真っ先にフウカへ向いた。
「俺の名前はゲツカだ。あんたは?」
「玉城フウカだっぴ」
意図を読んだコウマも、よそ行きの笑顔で名乗った。
「ボクはスイモク。よろしくね」
ということは、ハクマは残された名前を名乗るしかないわけだが……。
哀れに思ったのか、フウカは慌ててハクマを褒めまくった。
「キンドちゃんの髪って、すっごく綺麗だっぴ!! サラサラの艶々(つやつや)じゃん!!」
そう、ハクマは女の子に化けているのだ。
タモンに持たされた受験生の登録用紙。記入を任されたのはイッセイだった。そこには受験生の名前と年齢・性別・種族を記入する項目があるのだが、性別のところを男子2名・女子一名で登録してしまったのだ。
宿屋でハルイチに指摘されて初めて気がつき、ハクマがジャンケンを提案。言い出しっぺは見事に敗北したというわけだ。
とはいえ、どれだけ短気なハクマまでも、ここで怒りのままに動くわけにはいかない。
「どうも!! ほら、行くぞ!!」
ネネが整えてくれたゆる巻きツインテールを激しく左右に揺らせながら、ハクマは受付へと向かうのであった。




