第1話・任務開始。上級試験に参加せよ!
本格的な試験編となりますので、三人称視点で話が進みます。
【コウの隠れ家】
試験開始日を明日に控えた今日、威支は迷界の森に移動していた。コウの隠れ家を第二の拠点に構え、試験では、威支は光の柱と走流野家の息子を護衛する。
その前に、ユズキにはやるべき事があった。実は、彼らは彼女の本来の目的をまだ知らないのだ。忘れてはいないだろうか。そもそもユズキは――。
「ラヅキを解放して終わりではなかったのか?」
今しがたユズキから告げられた本来の目的に、トウヤ以外の全員が言葉を失った。
「違う。土地神を解放するためにラヅキが必要だったんだ」
「俺の話を忘れたとは言わせんぞ。ラヅキは空神だと言ったはずだ」
「代理……だがな」
「そういう問題じゃないだろう。なぜ奴らを解放するんだ」
隠れ家の出入り口から冷たい空気が流れ込んできた。ユズキはそれを肌に感じながら答える。
「北闇からは冬が消え、東昇は大地を失った。南光では食物が育たず、唯一安定しているのは西猛だけだ。なぜなら、西猛の土地神だけが人の手によって封印されなかったからだ」
長く生き抜いてきたトウヤにも、こればかりは原因がわからなかったようだ。
「あり得ん。奴らはただの兵士のはずだ」
「さっきから言ってるだろう。〝土地神〟、……お前たちが手を出したのは神なんだ」
とはいえ、あまりにも突拍子もない内容だ。真実だとわからせるには、もうこれしか方法がないと、彼女は覚悟を決めてここへ来ている。
けれど、どれだけ強気な彼女でも、今回ばかりはほんの少しだけ勇気が足りなかった。沈黙が続くせいでメンバーが困っている。
ユズキの心境に誰よりも早く気づいたのはキトだ。呼ばれてもいないのに現れて、彼女を背後から抱きしめる。
「ここまで来たんだ。もう迷うな」
「そうだな……」
キトがいれば怖い物は何もない。意を決して、――呼び出した。
「ラヅキ、時は来た」
枯れ葉が揺れ動く。空気の流れが変わる。風が、巻き起こる。トウヤは目を見張らせた。
「黒い……狼。本当に空神を解放していたのか」
ユズキの側に立つ、漆黒の毛を纏った狼が威支の顔を見渡した。
そして、
「思い出すがいい。我が……たちよ」
ユズキに記憶を返した時と同じ現象が起きる。ラヅキの遠吠えと同時に、洞窟に違う色味が帯びていった。でも、その空間にユズキとキトは入れていない。
「どうなってるんだ? 僕たちだけ弾き出されたぞ」
「まあ、気長に待とう。あいつらだって記憶に混乱が生じているのだ。ラヅキのおかげで治るかもしれない」
「それならいいんだが……。ラヅキの声、聞こえたか?」
「思い出せって言っていた」
「その後だ」
「気のせいだろう」
メンバーが戻って来たのは、その会話の直後であった。何を見せられたのか、とにかく顔色はあまり良くない。なので、ユズキは触れなかった。コウマから記憶の話しを聞かされたとき、「血塗られた光景と先代の悲痛な叫び声」との発言があったからだ。
用が済んだようで、ラヅキはコウのもとへ行ってしまった。
もうそろそろ夜がやってくる。影の様子から陽がだいぶ傾いたことを感じたトウヤは、冒頭の会話には戻らず、作戦内容を確認し始めた。
「護衛のため、4人が試験へ潜入する。隊長にキト、部下に双子とヒスイだ。残りは、作戦通り、外で行われる試験のカバーを頼む」
「「了解」」
ユズキが片手を上げる。
「ラヅキも参加させたい」
「わかっている。第三試験がいいだろう」
「……? ありがとう……」
この中で、彼女だけが疑問を抱いていた。あれだけ反対していたトウヤが、なぜこうもあっさりと頷いたのだろうか、と。
なにはともあれ、試験は明日開始される。潜入するメンバーで、双子は青年の姿へと変化し、キトはイッセイそっくりに化けた。そして、イッセイ本人から、自国初の戦闘服が手渡される。
「これを……」
黒と薄紫色を基調とし、襟の裏には〝勇往邁進〟との文字が刺繍された、この世に四着しかない戦闘服だ。キトが口角をつり上げる。
「困難を恐れず、突き進め。良い言葉だ」
こうして、4人は総司令官・桜の案内のもと、新館の宿屋へと案内をされた。そこで待っていたのはハルイチとネネだ。他のメンバーは早朝に潜入し、第一拠点である鍛錬場へと移動する。
いよいよ始まる上級試験。ここで、様々な物語が誕生する――。




