最終話・兎愛隊、再結成!!
鍛錬場に集結したのは、タモン・ハルイチ・ネネ・赤坂・青島・威支だ。威支のメンバーが勢揃いしているためか、なかなか空気は重たい。
「コモクはどうした?」
「威支のうち四体は西猛を襲ってるんだぞ。呼べるわけねえだろ」
おっと、地雷を踏んでしまったようだ。
「まあ、承諾に判子を押すことはできないが拒否もしないと、本人からそう言づてを預かっている。あとは俺が決めろと押しつけられた」
「じゃあ……」
「ああ、ここにいる全員を兎愛隊へ歓迎する。目的は2つ、オウガを玉座から引きずり下ろすこと。そして……」
ここにはいない一家を頭に浮かべる。
「走流野家を守る。これが兎愛隊の職務だ」
タモンは天秤にかけた。オウガを王とするか、ヘタロウを王とするか。まあ、迷うことはなかっただろう。軍配はヘタロウにあがったわけだ。
となれば、威支は大忙しになる。上級試験もそうだけど、猫の生まれ変わりの保護もあるし、テンリやチョウゴの動きも探らなければならない。それに加えて、前蒼帝とグリードの出生の行方の捜索だ。
タモンはオウガを見張り、ナオト達には王家の目を引く役目がある。ハルイチとネネは、カネツグの資料をもとに足跡を辿り、「1」と例えた見つかっていない法律を探す。
王家に記憶を操作されてしまったため、こうして少しずつ摘んでいくしかないのだ。
メンバーを鍛錬場に残して、僕は執務室を訪れた。
威支に腰掛けて大きな欠伸をするタモン。
「直前ですまないんだが、もう一つだけ頼みがある」
「慣れない大工仕事で疲れてるってのに……」
急ピッチで仕上げにかかっている宿屋の建設。時間があるときはタモンも手伝っている。
「んで、頼みって?」
「光の柱に平穏な日々を……。そう話したのを覚えているか?」
「そのことか。ずっと気になっていたんだが、あれはどういう意味だ?」
「実は、土地神を解放する方法を見つけたんだ。それには、たった一つだけ条件がある」
「全員を揃えること、か。……まだまだ隠している事がありそうだな。さっさと吐きやがれ」
「順を追って説明するから、もう少しだけ時間をくれ。鬼の件もあるんだ」
疲労しきっているタモンの顔を目視することはできなかった。核心に触れられそうになると、僕はいつだって〝鬼〟を理由に話しを流してきた。特に、ジンキのような土地神についてはそうしてきた。なにせ、糸を解くように明かしていった先にはラヅキがいる。トウヤから物騒な呼び名を聞かされているため、ラヅキについては話せない。
だから、今日もまた僕は誤魔化す。
「とにかく、光の柱についてはイッセイの力を借りることになった」
「封印術士の力では、封印はできても解放はできないんじゃなかったか?」
「あいつは特別だ。薄紫色の瞳を持つ者だからな」
それっぽいことを言い残して、僕は執務室の扉に向いた。時刻は真夜中の12時を過ぎている。まだ起きている国民も自宅に引きこもっているだろう。
「念のために威支のメンバーも試験へ参加させる。光の柱と走流野家の護衛だ」
「本気か?」
「当たり前だ。僕は堂々とオウガに喧嘩を売る。光影の国で登録してくれ」
眠気を誘われている半目の眼と、片方の口角を吊り上げた口元。顎の前で手を組んで、タモンは「くくく」と笑った。
「観衆が大勢いる。あの老いぼれが王家の名を汚すような真似をするとは思えん」
「同感だ。あいつはただ、指を咥えてマヌケ面を晒すしかない」
「真っ正面から立ち向かう……。嫌いじゃない。んで、誰を参加させる?」
「コウマとハクマ、そしてもう1人は――」
メンバーを告げると、それはもう悪魔のような声で笑ってくれた。つい先程、メンバー全員と顔を合わせたばかりなのだ。見た目から想像ができる性格に、脳内では試験中の彼らが映し出されているのだろう。
実のところ、これはキトの提案だ。ナオトに興味を抱いたらしく、ここ最近はとても注目している。
「オウガが何を聞いてきても、重度については知らぬ顔を通してくれ」
「当然だ。悔しさに歪んだ顔を存分に楽しませてもらう」
「……ということは、もう動いていいんだな?」
「ああ。そのために王家へ出向いたんだ」
北闇の国帝が国民思いで本当に助かる。
「じゃあ、後日また会おう」
「鍛錬場に集合だ。忘れるなよ」
扉から一歩前へ出ると、タモンは僕の背中にこう言葉を投げた。
「……今はまだ聞かないでいてやる。だが、時を待たずに俺は尋ねるぞ」
「なんのことだ?」
「最後に鏡を見たのはいつだ? 今のお前は、訓練校にいた頃のナオトと同じ顔をしている。……抱え込みすぎってことだ」
僕がタモンへ振り返ることはなかった。
❖
隠れ家に戻ると、キトがメンバーを出迎えてくれた。珍しい事もあるものだと、誰もが驚いていたけれど、本題はこれからだ。4人が呼ばれ、他は自室へと戻っていった。
僕は、ヘタロウの治療に励むヨウヒのもとを訪れた。
「おかえりー」
「ただいま。調子はどうだ?」
「治癒能力の手助けをしているだけだから、ヘタロウさん次第よ」
「そうか……」
ヨウヒの隣に腰掛ける。
「あたしを励まそうとしてくれたのに、突き放しちゃってごめんね。酷いことを言ったわ」
「別に気にしていない」
「ならよかった。それと、気持ち悪かったでしょ? あたしの記憶……」
そう言って、眉を下げながら微笑む。
「出来れば、あたしの心の中だけで留めておきたかったけど、共鳴ってほんと厄介よね」
宙を浮くヨウヒの髪の毛を手にとって、共鳴で感じたことを伝える。
「毛布をどかして腹の傷を見せつけることだって出来た。でも、そうしなかった。勝手な意見だけど、母親はお前のことを愛していたと僕は思う。……すまない、こんな喋り方だし、慰めにはならんな」
「本当にそう思う?」
「ああ。あの納屋には色んな工具が置かれていた。お前は使い方を知らなくても母親にはわかっていたはずだ。死にたいと切願しながらも、本音はお前と一緒にいたかったんだろう。痛みに苦しみ、なかなか会話が通じないことへ苛立ったかもしれないけど、母親が感じていた怒りはきっとそれだけだ」
だから、僕は気持ち悪いだなんて思わない。そう伝えると、ヨウヒはぽかんとした顔で僕を見つめた。
「むしろ、母親の葛藤と生き様に僕は感動している。そんな母親もいるのだと、考えを改めざるを得ないほどにな」
僕は無意識にヨウヒの手を握っていた。そうしながら、タモンに言われた最後の言葉を思い起こす。
「……頼む。痛みを取り除いてくれ」
「え?」
「みんなには秘密で……」
「急にどうしたのよ」
「色んな事がありすぎて、心が限界なのかもしれない。自分ではそう感じないけど、どうやら顔にでているらしい」
「――っ、自分の体調に気づいてなかったの!?」
近くにある棚へ手を伸ばして、ヨウヒは鏡を取った。
「トウヤは心配してたわよ。あたしを思って追ってくれたはいいけど、あなたのほうが限界だって……。だからトウヤは私の部屋に来たの」
言いながら、鏡を僕に向ける。
「無理をするにもほどがあるわ」
「これは……酷いな……」
目の下に浮かぶクマ、こけた頬、開ききっていない瞼。確かに、訓練校時代のナオトにそっくりだ。
「タマオの野菜を食わねば……」
タマオは留守のようだ。
治療を中断したヨウヒはすぐに手料理を振る舞ってくれた。匂いに釣られて腹の虫が騒ぎ出す。
こうして、僕はヘタロウと一緒にヨウヒの治療を受けながら、しばらく隠れ家に引きこもった。もう少しで上級試験が開催される。それまでに、なんとしてでも全回復だ。




