第14話・座右の銘
最初から、イザナの記憶には不審な点がいくつかあった。
まず一つ、ハンターの巣を突破しなければ辿り着けない場所へ、どうして闇影隊が行けたのか。二つ、闇影隊の存在に猪が気づかなかったのはなぜだ? 彼らの長年の知恵を考慮すれば、おそらく見張りを立てていたはずだし、ヒアンに関しては聴覚も著しく発達していたはずだ。そして、最後――。
「その戦闘服、僕にも見せてくれ」
イザナが投げた時に、微かに見えた、アレ。上着を裏返して確信する。
「これはニセモノだ」
「なに……?」
イザナの眉間に深いシワが寄る。
「残念な事に2人が上着を着ていないから比べようがないが……」
言いながら、僕はポーチから上着を取り出した。北闇を出た時から保管している大切な上着。これにはナオトやイツキとの思い出がたくさん詰まっている。その上着を裏返す。
「襟の部分なんだが、わかるか?」
「これは……」
「闇影隊の戦闘服であるこの上着には、襟の裏に国帝の座右の銘が縫い込まれている。北闇の場合は不撓不屈。西猛は、気骨稜稜。そして、東昇は」
ハルイチとネネ、僕の言葉が重なった。
「「「猪突猛進」」」
以前は、不惜身命が座右の銘だったそうだが、前蒼帝が新調し直したのだ。トウヤが教えてくれるまで座右の銘が縫われてるなど気づかなかったことは秘密だ。ちなみにだが、南光は移山造海らしい。オウガが決めたそうだ。
「この上着にはそれがない。東昇の闇影隊に扮した誰かの仕業だ」
となれば、犯人は絞られる。
「猪も気づかなかったとなれば、おそらく妖化の能力を持つ誰かだろう。……もしかすると、マヤを殺した犯人と同じ奴か、もしくはその仲間か……。なによりも引っ掛かるのは、子どもという言葉だ」
「ヒアンは隙を見せてしまったのだろうか……」
「お前の記憶を見る限りでは、そうだろう。シュエンの世話もするくらいだ」
「だが、それでもわざわざ罠を仕掛けた理由には繋がらん」
「そうか? 目的がお前だったなら繋がるじゃないか」
最初から、イザナを誘き寄せる作戦だったとしたら、犯人が部族やヒアンを襲ったのも納得がいく。
「怒り心頭に発っしたところを襲撃……。とまあ、こんな感じの作戦だったんだろう。ヒアンが世話焼きでなければ達成できたかもしれない」
さらに問題は深まる。なぜなら、襲われた重度がマヤだけではないからだ。知らないだけで、身に起きた事件が実は仕組まれたものである可能性が浮上してきた。
それにだ――。
「あの場所を正確に突き止めるには、土地に詳しい者が必要になる。ハルイチ……」
「ええ、俺も同じ事を考えていました」
鼻で息を漏らして、帯の間に挟んである扇子を取り出す。
「きっと、父上の動向も密告していたに違いない。調達班だけでなく、犯人は、我が一族にも紛れ込んでいる。貴方の怒りに任せて、俺たちごと抹殺する気でいたようだ」
長い時間を掛けて、イザナの憎しみを育んだつもりだったのだろうが、調達班のリーダーは実行日をしくじってしまった。そこにいたのはイザナではない。シュエンだ。そして、闇影隊を襲ったのもイザナではない。ヒアンが終わらせた。
一歩間違えれば確実にハルイチはこの世を去っていたわけだが、ヒアンの底力が救ってくれた。
「イツキ君を借りてもいいかい?」
「タモンの許可が出るなら、まったく問題はない。何をするつもりなんだ?」
「牢鎖境……。アレに一族を丸ごと閉じ込めてもらう。不満がでぬよう、俺とネネも含めてね。なに、年老いた混血者は限られる。俺と貴方で決着をつけようじゃありませんか」
ハルイチの提案にイザナが迷うことはなかった。
あれから、数日が過ぎた頃。意気揚々とイツキが東昇へやって来た。
「ユズキ~!!!!」
抱きついてきたイツキを引き剥がす。
「話しは後だ。ハルイチたちは絶壁の方で待っているらしい。お前に伝えれば場所はわかると言っていた」
「ああ、あそこか。了解」
「ちなみにだが、そこには重度もいる。刺激するんじゃないぞ。口が裂けても、僕に関係することは何も聞くな、問い詰めるな、尋問するな。わかったか?」
「…………わかったよ」
「よし、行くぞ」
態度は一転、重い足取りで歩いて行くイツキにため息をついた。
海風が吹き荒れる待ち合わせ場所。そこに大勢の混血者が佇んでいる。ハルイチは何も伝えていないらしく、イツキのタイミングで閉じ込めてくれとのことは、今しがたネネによって伝えられた。
とはいえ、誰1人として僕とイツキの方を見ている者はいない。視線はすべてイザナへ注がれている。ハルイチが連れてきたことへの疑問と不満が一斉に飛び交っている状態だ。
そして、その時はやってくる。
「闇・牢鎖境!!」
黒い粒子が箱を形成し、ハルイチたちを丸ごと閉じ込めた。大海と大空には不釣り合いの真っ黒の箱だ。イツキはその中へ入っていった。




