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第11話・北闇の地下牢

 蛇華・失踪劇。ネネが得意とする言霊の一つだ。実際に目の前で拝んだことがあるけど、まるで最初からそこには誰もいなかったみたいに、姿だけでなく気配までもを消してしまう。実に便利な言霊だ。


 そんな能力をもつネネを連れてやって来たのは、北闇で人気を誇る甘味屋だ。笠を深く被って席に着き、どうしてここに? との疑問を視線で訴えてくるネネに小さな声で答える。




「甘味屋で働いている者のほとんどが精鋭部隊だ。店主は地下の牢獄を管理している」

「あなた、何でも知っているのね」

「友達が情報屋ってだけだ。とにかく、地下の巡回は一時間おきに行われる」

「つまり、店員の後を追えばいいのね」




 イツキがいなければ、牢獄の場所はわからず終いだっただろう。


 忙しさを増す昼間時。慌ただしい店内から客が消えただなんて誰も気づかない。とはいえ、透明になっただけで幽霊のように壁を通り抜けられるわけではない。




「いでっ!」




 僕にぶつかった客が尻もちをつく。しきりに辺りを見渡して、何にぶつかったのかと頭を捻っている。


 気をつけて――。耳元で囁かれ静かに頷いた。


 店員が3名、店の裏へと向かっていく。扉が閉められる前にサッと進入した。ここは厨房だ。注文された品をせっせと作る料理人と、運んでいく店員たち。3人はその間をすり抜けていき、更に奥へと歩いて行く。


 奥にはもう一つ部屋があり、従業員室と書かれた札がある。中には休憩場と、ロッカーが数個ほど並べられており、他に部屋へ通じる扉は見当たらない。


 3人の内、1人は扉の外で待機し、もう1人は着替え始め、もう1人は一番奥のロッカーの前で立っている。しばらくすると、足もとで何か響くような感触がした。すると、奥のロッカーが壁に吸い込まれていき、地下へ通じる階段が現れた。出てきたのは精鋭部隊だ。




「交代だ。後は頼んだぞ」

「お疲れ様。ちょうど忙しい時間帯だ。頑張ってくれ」

「客相手の方が気が楽さ」




 脱いだ精鋭部隊用の戦闘服一式を階段の下へ放り投げる。そうして、甘味屋の従業員が来ている仕事服に着替えた。


 ロッカーが動き始めたので、すかさず階段を下りた。とても長い階段だ。一番下に辿り着くと、そこにもロッカーが設置されていて、鉄格子で出来た扉が一つあった。降りてきた交代の精鋭部隊が、放り投げられた戦闘服をロッカーへ直している。自身も着替えると、鉄格子の端を握り、階段を背にして左側へ壁伝いに歩き始めた。どうやら、この鉄格子はダミーのようだ。




「1……2……3……4……」




 後は心の中で数えているのだろう。目的の場所に辿り着くと、最後の一歩を強めに着地させた。


 ロッカーが壁に吸い込まれた時と同じく、壁が長方形に切り取られたみたいに奥へ動いていく。ガコン……と止まる音がして、精鋭部隊は中へ入っていった。後に続き、僕たちも中へ入る。


 賑やかな甘味屋から一転、薄暗くて不気味なくらいに静かな地下。陰気が漂い、カビ臭い。その先に進むのを躊躇するほどに細い通路が奥へと続いている。


 ゆっくりと歩みを進める精鋭部隊を置いて、僕とネネはセメルを捜しに奥へ進んだ。空気がひんやりして肌寒いし、窓がないため空気が重い。そんな空気を突き抜けていくと、またもや階段が姿を現した。更に地下へと降りなきゃいけないらしい。


 ここでネネは言霊を解いた。




「囚われの身となった人の気持ちが嫌でもわかるわ。逃げられない……って、無意識に考えてしまう」

「同感だ。狭さもそうだが、この造り……。天井が徐々に低くなっているし、他に通路がない」

「タモン様ったら、ネネの中腰姿に興味がおありなんだわ。もっとくびれを強化しなくちゃ」

「なんの話しだ」

「私の頭の中に住んでいるタモン様がそう仰っているの」




 ハルイチの性格が歪んだ原因の一つにネネがいるのではないだろうか。ともかく、先へ進む。


 しばらく行くと牢屋が見えてきた。中は広いんだろうけど、とても入口の小さい牢屋だ。ネネが再び言霊を発動させる。


 きっと、この中にいる男も、そこにいる女も、脱出しようなんて気はさらさらないのだろう。なんて、先程のネネの中腰という言葉を思い出しながら、彼らの顔を見ていた。


 立ったままなら力の入る体でも、巡回に訪れた精鋭部隊を中腰で掴みかかるとなればどうだろう。おそらく、訓練を積んでいる精鋭部隊相手では、赤子の手をひねるかの如くねじ伏せられる。


 巧妙に設計された地下牢に、タモンへ恐怖を抱いたのは言うまでもない。


 こうして、一番奥の牢屋、独房へと辿り着いた。小窓を開くと、僕の両目にある水分が流れ出てきた冷気で一気に乾いていく。思わず目を背けてしまうほどに冷たい。


 目を細めてもう一度中を確認した。――セメルがいる。

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