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第7話・桜色の毛

 完璧に密閉したようだ。以前よりも空気を薄く感じる。


 蟻の巣状に入り組んだ山の中枢。どの部屋も長らく使用されていないらしく、埃や蜘蛛の巣がそこら中にあった。ところが、一室だけ鉄格子が動いた形跡の残る部屋がある。巣の最深部にあたる場所だ。奥にはヘタロウを幽閉していた部屋にあった鉄製の分厚い扉が圧を従えて鎮座していた。




「あそこか」

「ああ。出口を探していた時に偶然発見した。ヘタロウを救出した後にもう一度来てみたんだが……」




 そういえば、ヒスイが暴走したりトウヤと戦闘になったりで考える余裕がなかったけど、あの時は帰りが遅かった。寄り道をしていたみたいだ。




「俺なりに色々と試したみたんだが、案の定、手を弾かれて終わりだ。イッセイ、後は頼んだぞ」




 こうして、僕とキトは鉄格子の外へ出て背中合わせで通路に目を凝らした。しばらくの間、何かを唱える低い念仏のような声と、「これじゃないとなると……」などの独り言が交互に発せられる。すると、急にライトを当てられたみたいに眩しい光が放たれた。直後、足もとにイッセイが転がってくる。




「ぐっ……」

「だ、大丈夫か!?」

「俺は平気だ。しかし、この結界は……」




 上体を起こして扉を睨みつける。




「父上の物だ。しかも、父上が得意としていた最上級の結界封印……。解き方を知っているはずなのに思い出せない」

「ちょっと待ってくれ。お前の記憶の混濁は一時的なものではないのか? 光影を出るときに吸った煙が原因だろう?」

「君たちに会って、自分で出してくれと頼んだところは思い出した。だが、それ以前の記憶がまるでないんだ。だから俺は威支に残った」

「ボウキャク草の仕業か?」

「自分の服を真っ先に調べたさ。何も見つからなかった」




 となると、北闇のお焚き上げのようなシステムがどこかに潜んでいたのかもしれない。急いで脱出したため部屋を確かめたわけではないけれど、あの国はどこか不気味だったのを覚えている。なにせ、全員が川の字で寝ていたのだ。


 とはいえ、僕には何も出来ることがない。




「俺の力が役立つかもしれん」

「また皮膚がただれるぞ」

「トウヤに時間稼ぎを頼みに行くわけにもいかんだろう。とにかく、一暴れするから、お前は奥の方で待っていろ。呼ぶまでこっちに来るんじゃないぞ」

「わかった」




 通路を見張ることくらいなら僕にも出来る。曲がり角を過ぎた辺りで狼尖刀を構えて待機した。


 それから間もなく、イッセイが僕を呼びに来た。




「開いたのか?」

「ああ。結界は取り除いたよ」




 達成したにも関わらず、表情が暗い。




「何があった」




 僕の問いかけに、イッセイは取り繕って笑って見せた。




「さあ、行こう。中を見てくれればわかるから」




 その言葉すら真実で誤魔化したように聞こえる。それくらいイッセイの僕を見る目は悲しみを帯びていた。


 とにかく、今は時間がない。足早に扉へ向かう。


 キトは先に入っていたようで、部屋の中心で周囲を見渡していた。松明に火が付いていることから、最近誰かが来たみたいだ。


 支柱が何本かあり、壁の色は赤紫色でボロボロだ。他に目立ったことといえば、冷たいコンクリートの上を足首くらいまである繊維が這っていることくらいだろうか。だが、生き物の姿はどこにも見当たらない。というか、部屋が異臭を放つだけで、他のニオイが全くしない。




「どこにいるんだ?」




 僕の声にキトが振り向いた。




「よく探せ。絶対にいるはずだ」




 天井までの高さはキトの頭のすれすれ。2メートルないほど。それでいて面積はとてつもなく広い。


 四隅の一箇所をスタート地点にし一気に走る。壁に付いたら一歩隣に進み、逆走する。これを繰り返していくと何かを踏みつけたようで「ガリッ」と音が鳴った。鎖だ。


 手の平よりも大きな鎖を伝う。そうして、ようやく根元に辿り着いた。


 確認する前にキトが鎖を断ち切る。




「時間切れのようだ」




 言いながら、ナニかを僕に投げ渡した。直後、入ってきた所とは別の扉が開く。蛍とその部下たちが来てしまった。




「これが目的かっ……。お前はオウガ様に報告を!! 他は奴らを捕らえろ!!」

「「御意!!」」




 蛍はケーキを乗せた皿を持っている。それを僕の方へぶん投げた。




「この盗人めが……」

「水、おにぎりときて、今度はケーキか。お前にはセンスがないらしい」

「――っ、殺すっ!!!!」




 ここから先は逃走劇だ。




獄道森王爆(ごくどうしんおうばく)




 キトの技で足止めをしながら狭い通路を走る。ここで厄介なのは蛍ではない、繊維だ。あの量がずっと着いてきている。なんの繊維だか知らんが狼尖刀で斬らせてもらった。身軽になったところでさらに速度を上げる。


 最中、キトが前方の壁に向かって片手を伸ばした。イッセイを脇に抱えて次の技を発動させる。




獄道魔王降臨(こくどうまおうこうりん)




 背後にあったシンオウが消え、僕たちよりも速く黒霧が移動する。黒霧はマオウを形成し、テイオウよりも遙かに大きな生き物へと変貌。あまりの大きさに腹から上が天井で見えない。


 キトと同時に立ち止まり、マオウの攻撃範囲から外れる為、少しだけ後ろに下がった。


 背後に蛍たちが迫ってきたとき、マオウの力を抜いた手が天井から姿を現す。手には、死人で作られた大鎌が握られている。痩せ細っていて、目や口、鼻の穴が真っ黒の死人たちからは懺悔の叫びが発せられている。


 自分の声を聞いてもらおうと、死人は負けじと声を荒げていった。




(…………くる)




 マオウが鎌を振り下ろす。すると、前方の壁が瞬く間に破壊された。ぽっかりと空いた穴に月光が差し込んで行く先を照らしてくれる。


 指を鳴らして技を解くと、イッセイを背中に抱え直したキトが先に走り出し、僕も後に続いた。穴から飛び降りればそこは山だ。急勾配の坂をノンストップで駆け抜ける。そうして、勢いのまま壁を飛び越えて無事に脱出することができた。




「後はわしらに任せよ。ご苦労だった」




 イザナとすれ違い、後方の精鋭部隊を引き渡す。


 と、ここで、毛だまりから獣のニオイがし始めた。ただの繊維ではなく、髪の毛だったようで、その発見は僕に新たな疑問を抱かせた。


 桜色の毛を握って考える。




(あれだけ伸びていたということは……)




 あの異臭は、いったいどれだけの年月を空間に漂わせていたのだろうか。

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