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第3話・新たな仲間

 火の性質をもつ能力者は、どの能力者よりも治癒能力に長けている。ナオトからそう聞かされたのは、僕がまだ北闇に住んでいた頃だった。


 走流野ヘタロウ。この人もまた火の能力者だ。


 何本もの蝋燭で明るく照らされる室内には、いまだ干からびているヘタロウと、治癒を補助するヨウヒがいる。幽霊島やマヤの家の件を報告した後、僕はここへ立ち寄った。


 繊維よりももっときめ細かい、極細の髪の毛がヘタロウの体の至る所に刺さっている。




「具合はどうだ?」

「回復には時間がかかるけど、良い感じよ。っていうか、6年も飲まず食わずだったんでしょ? 回復していること事態が不思議っていうか、変だわ。まあ、治癒能力でどうにかこうにか生き延びたんでしょうけど」

「お前の能力がなければ、ヘタロウの力も底を尽きていたかもしれん。本当に助かった」

「なーに、それ。お礼?」

「そのつもりだったんだが……。言い方が悪かったなら謝る」

「ふふ、違うの。違和感があるだけよ。重度じゃない生き物にお礼を言われたのなんて、何百年ぶりかしら」




 そう言って、一点を見つめる。




「生まれながらに角やクチバシを持つ、あたしやチョウゴのような生き物は母親の肉体を傷つけながら誕生するの。もちろん、当時の医療技術で母親を救うことは難しかったから、なかには即死する母親もいた。あたしの母親は、最悪なことに死ねなかった。とはいっても、結局はあたしの能力でも救えなかったんだけどね。だからね、この能力が嫌いだったの」




 ヨウヒが話し終えたのと同時にトウヤに呼ばれた。また戻ってくると伝えて、トウヤのもとへ向かう。そこにはイザナとキトもいた。


 3人はグリードの件で話し合っていたらしく、諸々を省くと情報が足りないという結論に辿り着いたらしい。その理由として、ナオトの過去を覗き見たキトが、青島班・黄瀬班が幽霊島で変異体を発見しているとの情報を得たからだ。


 しかし、それよりも気になったのは――。




「ナオトは無事なのか!?」

「大丈夫だ。追い払ってやった」




 月夜の惨殺事件の核、テンリがナオト達を襲ったというのだ。こうしちゃいられない。




「北闇へ行ってくる」

「幽霊島が先だ。グリードは、威支にとっても厄介な生き物だろう」

「ナオトが最優先だ!!」

「ったく……。俺が憑く。これでいいだろう?」




 有無を言わさぬキトの瞳に隠れ家を追いやられる。出発前に、トウヤは南光を調べると僕に伝えた。


 こうして、またシュエンと共に幽霊島を訪れたわけだ。タカラと海賊の「またお前らか」と言わんばかりの顔に苦笑いを返したところで本題に入った。




「変異体って、アレのことか。隊長さんからも報告は受けているが、いったいどこから湧いたんだか……」




 タカラがそういうのには訳があった。


 ミツルは1日の半分ほどを海で過ごしているらしく、特に幽霊島付近は頻繁に泳ぎに出ていたらしい。洞窟の存在も知っていて休憩場所として使用していたそうだが、その時は変異体の姿はなかったという。


 しかし、これは何年も前の話だ。海賊と交戦するようになってからは、ほとんど南光方向へ泳ぎに出ていたそうで、洞窟は長いあいだ使っていなかった。


 そこで、海流について海賊に話しを聞いてみることにした。船長の名前はビゼンというそうだ。




「海流ねぇ。確かに南光からも流れてきているが、あの化けもん、泳げるのか?」

「ただ流されてきたのか、泳いできたのかまではわからない。ただ、ハンターを上回るほどの殺戮者であることは確かだ」

「そうか。んで、なんでお前さん方がグリードとやらを調べ回ってるんだ? そのいかついマントといい、獣化する能力者といい、テロ組織感丸出しなんだがな」

「僕はまだ新入りだから組織の事情を勝手に話すことは出来ないが、そうだな。ただ友達を守りたいだけだ。お前たちも知っている男の子、ナオトをな」

「理由はたったそれだけか? そんなことで組織に身を置いたのか?」

「ああ。別にいいじゃないか。結果として、人類を守ることに繋がるんだ」

「守る……」 




 そう呟いて、ビゼンは目を伏せ、微笑を蔓延らせた。




「俺はよ、もともと東昇の当主だった。国民を守るって意気込んでからは、そりゃもう人生を投げ出すくれぇに尽くしてきたもんさ。ま、今となっちゃあこの様だがな」




 そう言って、僕に向き直る。




「いいかい、お嬢ちゃん。自分が信用していたもんってのは途端に手の平を返すことだってある。ここにいる全員が東昇に見捨てられたのが良い例だ。悪いことはいわねえ、さっさと組織を抜けてナオトの所へ帰んな。グリードは大人に任せるんだ」




 ここで、黙って話しを聞いていたシュエンが口を開いた。突然動いたものだから、ビゼンや他の海賊達は砂を引きずりながら後退する。




「見捨てられたわけじゃねえと思うぜ。今の蒼帝は影武者って呼ばれている。それも皮肉った言い方で、実際はまったく似ていないみたいだけど。本物の蒼帝は地震が起きてから行方不明になってんだ」

「なにっ!?」

「こんな場所に引きこもってるから知らねえんだ。住めば都ってのはわかるけど、外に出て、世の中の仕組みってもんを学んだ方がいいぜ」

「ジコク様は……死んだのか……?」




 これには僕が答える。




「いや、生きている」




 リュウシンから得た情報と、これまでのことを大まかに説明した。もと闇影隊のタカラと、もと当主のビゼン。2人の顔がじわじわと強面へ変わっていく。


 やはりと言うべきか、最も反応をみせたのは王家という言葉だった。結果として、ジコクはオウスイとトアの墓を捜しに行ったと伝え、兎愛隊という裏組織があることも伝えた。


 ビゼンが強く拳を握る。




「まだ間に合うだろうか……」

「なにをだ?」

「俺はもう当主でもなんでもねえ。ただの嫌われ者の海賊だ。それでも、まだ人を救えるだろうか……」




 シュエンが歩み寄っても、ビゼンはその場を動かなかった。




「俺が言っても説得力の欠片もねえけど、だからあんたの部下はあんたを船長にしたんじゃねえの? これだけでも、俺にとってはすんごい当主だったんだなって十分に伝わってるけどな」




 船員が一斉に叫ぶ。そもそも、東昇どころか南光にも見捨てられた命だ。彼らの怒りは眠っていただけで失われてなどいない。




「ビゼンさん、やりましょう!!」

「俺だってまだまだ現役だ!! 気持ちは闇影隊にある!!」

「ジコク様を見つけましょう!!」

「我々の意思は蒼帝と共にある!! ジコク様が兎愛隊であるならば、我々もそうであるべきだ!!」

「その通りだぜ!! だよな、タカラ」




 片耳を指で塞ぎながら、うるさい声に眉を寄せるタカラ。




「ったく、騒ぐんじゃないよ。ユズキ、本当にジコク様は生きてるんだね?」

「ああ。確かな筋から得た情報だ。間違いない。ただ、僕たちには行き先が見当も付かない。任せてもいいか?」

「了解。連絡手段はどうする?」

「ヨツノウミに任せる。ミツルの頼みなら聞いてくれるだろう」




 船員と血気盛んになるビゼンは、最後に僕にこう伝えた。




「南光にはハンターが腐るほどいやがるが、グリードはどうだ? 調べる価値はあるってもんだ。ジコク様が単独で動くくれえだからな。王家は黒で間違いない。一先ずはグリードも関連づけるべきだ。こっちは海流を辿ってみる」

「助かる」

「それともう一つ、タモン様に伝言を。王家の撹乱は任せておけ。そもそも、海賊は襲ってなんぼの集団だ。その間に出来るだけ調べ上げるこった」

「確実に目をつけられるぞ?」

「仕返しくれえさせろ」



 

 そう言って、ビゼンは黄ばんだ歯を見せながら笑った。


 隠れ家に戻りながらこう思う。


 威支はどの国にも属さない独立した組織だ。それと同じ立場にあるのがタカラや海賊たちだろう。自由に動ける者は限られるけど、それでもこんなにも心強い。


 イザナへ報告し、北闇へ行く事を伝える。タカラや海賊が味方になったこと、彼らがジコクの行方を捜索する旨を報告しておかなければならない。




「ユズキよ、この件に乗っかってナオトの様子を見に行くつもりだろう?」

「まっ、まさか。僕は流れに逆らわずだな」

「まあよい。タモンへの報告はお主に任せる。ついでに、上級試験の件も確認しておいてくれ」

「ありがとう!!」




 と、そこへ、もう1人手を挙げる者がいた。馬の重度・バコクだ。物静かな彼が自分から動いたことに僕は驚いている。




「俺も行く……」

「おお、それはいい。バコクがいれば移動も速い」

「乗っていいのか?」

「うん、いいよ」




 こうしてバコクと一緒に北闇へ向かったはいい。その先でとんでもない事態が起ころうとは、この時は思ってもいなかった。

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