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第1話・奇襲

 0の章は、これまでの時系列を回収しながら、威支の過去に触れていく章となります。


 【逸話】トウヤ と題に記載されている場合、前半に現在を、❖から過去に突入し❖で終わります。


 チョウゴ・コウマ・ハクマについては鳥の章と龍の章にありますので、0の章では省きます。

 泳ぎが得意だというシュエンを連れて訪れたのは、マヤが住んでいた島に近い孤島だ。白い砂浜と背の低い木々があるだけのこぢんまりとした小さな島である。夜空に散りばめられた星がとてつもなく綺麗だ。




「うっひょー! ここが噂の幽霊島か。何もない!」

「幽霊がいるかもしれんぞ」




 額に汗を滲ませて長い尻尾で僕の頭を叩く。




「そっ、そんなもん、イッセイに頼んでだなぁ」

「お前が強がりなのは十分にわかった。休憩したらマヤの島へ行くぞ」

「本当に地下牢なんてあるのか?」

「ナオトは嘘をつかない。絶対にある」




 そう、僕たちはある目的があってここへ来た。ナオトに頼まれたグリードの件だ。先程ナオトと別れ、すぐに動いた。


 グリードは感情が欠落しているらしく、まるで恐怖心がない。殺戮マシーンのような生き物なのだ。これには威支も手こずっている。しかし、犬の双子によれば、グリードは月夜の惨劇を引き起こした犯人、テンリの命令には忠実に従うとのことだった。トウヤも知らされていない明かされた事実である。


 発生源やテンリに忠実な理由を探るため、手始めに資料が残されているマヤの家から調べようというわけだ。


 とはいえ、泳ぐのはシュエンだ。僕はしがみついているだけなので、彼が動くのを待った。




「よっしゃ! いっちょ頑張るかっ……」




 シュンッ! と風を切る音と共に、僕とシュエンの足もとに矢が飛んできた。いや、矢にしては太い。




(クロスボウ?)




 シュエンがすぐさま犯人を見つけ出す。クロスボウを放った相手は海の中に潜んでいるようで、なんの躊躇もなくシュエンは海に飛び込んだ。




「待て!! こんな物、海の中から放てるものじゃない!!」




 背後に忍び寄る気配に気づいた。狼尖刀を発動させて気配の後ろへ回る。




「……あの猿をうちの息子に近づけないでくれ。抵抗はしない」

「いいだろう」




 喉に狼尖刀をあてがったままシュエンを呼び戻す。海の中から子どもを俵担ぎにしたシュエンが上がってきた。




「奇襲かよ」

「そのようだ。それで、いきなり襲ってきた訳はなんだ?」




 褐色肌に片足は義足、そしてクロスボウを抱えた青目の女が答える。




「つい最近、身の毛もよだつ光景を見たせいで、よそ者に敏感になってるってだけさ」




 彼女の瞳はシュエンに釘付けで、誰にでもわかるくらい動揺している。




「ったく、人間といい、混血者といい、近頃のガキはどうなってんだ。あんたら、まさか北闇のもんじゃないだろうね?」

「こんな体質だ。僕たちはどの国にも属していない。とはいえ、住んではいたがな」

「じゃあ、ナオトって名前に聞き覚えは?」

「僕の友達だ」

「…………そうかい。最悪だよ、まったく」




 いったい何があったのだろうか。


 一先ず、抵抗する気がないならさっさと島を離れよう。そう思って、シュエンにミツルを下ろすよう頼もうとした、その時だ。どこからともなく、ヒューン……との音が間隔をあけながら何度も聞こえてきた。




「次から次に、うっぜえな。行ってくるわ」




 ミツルを抱えたまま尻尾を器用に使って高く飛んだシュエン。直後、シュエンが立っていた場所が爆発した。水辺線に目をこらすと大きな船が大砲を撃っているではないか。


 女が叫んだ。




「――っ、ビゼン、やめろ! うちらは大丈夫だ!!」




 仲間のようだ。だが、船は遠い。彼女の声は届かないだろう。


 シュエンはというと、飛んでくる玉を踏み台にしながら船を目指している。互いに近づきながら、そうして獣化した。すると、ピタリと砲撃の音が止んだ。おそらく、突然の大猿の出現に慌てふためいているのだろう。




「僕なら止められる」

「早くしてくれ!」

「条件がある。ナオトがここで何をしたのか、話してくれ」

「知ったら友達ではいられなくなるかもしれないよ?」

「構わない。例えナオトが世界中を敵に回したとしても、僕は友達でい続ける」




 狼尖刀を解いて彼女と向き合った。




「僕の名前はユズキだ」

「……タカラ」




 こうして、僕は初めてナオトが人を殺したと知ったのだった。

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