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第14話・最弱と訪問者

 赤坂隊長が家に来たのは、ユズキと別れて1ヶ月以上も過ぎた時であった。


 リビングに通し、お茶を出して赤坂隊長の真向かいに腰を下ろした。赤坂隊長は、頬杖をつきながらテーブルの上に広がる取り込んだばかりの戦闘服を見ている。それはともかく、赤坂班でもない俺に何の用があるのだろうか。


 聞けば、今日は赤坂班は休日らしい。ヒロトはソウジの家に遊びに行っているし、俺だけが気まずい雰囲気を感じていた。


 改めて間近で見る赤坂隊長は、高身長で笑顔がとても似合う男性だ。男らしいというよりは中性的な顔立ちであり、温かい表情で微笑む姿は女性の心を鷲掴みにするに違いない。


 なんとなく真似して笑ってみようとすると、赤坂隊長は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。




「お前さ、変わってるね」

「……それで、何か用ですか?」




 気まずすぎる。自分から本題へ話を進めた。




「幽霊島でのことなんだけどね、あれからどう?」

「ふとした時に思い出しますが、任務に支障は出ていません」

「そっか」




 微笑んだ赤坂隊長に、背筋にぞくりとしたものを感じていた。笑顔の向こうにとんでもない濃さの闇が垣間見えたような気がしたのだ。


 この人は怒らせてはならないタイプだ。




「支障が出ないのは、感情を上塗りしているからだ。あの一件で、お前が心身ともに参っているのはわかるよ。俺も初めて人を殺した時は同じような状態に陥ったからね」

「どうしてそう断言するんですか?」




 俺とヒロトの性格の違いからその後の行動パターンを推測した――、と言葉を紡がれ、俺はじんわりと広がる汗を手に握っていた。


 俺からすると、その言葉は誰が口にするかで意味が大きく違ってくるのだ。


 なぜ青島隊長ではなく赤坂隊長が話しに来たのか、どうして別の班の隊長であるこの人が幽霊島のことに顔を突っ込むのか。


 報告を聞いたんだろうけど、それでもこの人は任務に関わったわけではない。




「人間も大勢参加するのに、本当に今の状態で上級試験を受けるの?」

「……わかりません」

「人を殺したから?」

「――っ、はい……。繰り返したくないんです」




 胸の内を覗くような赤坂隊長の視線に、俺は目を伏せた。


 いくら前向きに考えようと試みても、やはり怖いのだ。


 鮮明に記憶されたあのシーンを忘れる事など不可能であり、死刑が確定しているとはいえ、俺が罰を与えていいはずがない。ましてや、上級試験を受ける以前の問題で、言霊をコントロールできていない俺が闇影隊でいてもいいのか、それすらもわからなくなってしまった。


 赤坂隊長の言う通り、俺は感情を上塗りして誤魔化し続けてきただけだ。


 そんな事を考えていると、赤坂隊長は怒りを含めた口調で言葉を返した。




「それでもお前はまだ闇影隊だ。すぐに着替えろ、本部に行くぞ」




 テーブルにある上着を投げ渡される。有無を言わさぬ瞳に急いで着替えた。なぜ本部に行くのか尋ねたい気持ちをおさえ、先頭を行く赤坂隊長の後ろを黙って歩いた。


 本部に到着すると、2階にある客室へ通された。八畳ほどの広さにテーブルと差布団だけが置かれている殺風景な部屋だ。


 どうやら先客がいたようで、顔を見た俺は思わず一歩後ろに下がってしまった。




「どうしてここに……」




 座っていたのは、タカラとミツルだったのだ。幽霊島でのことが頭を巡る。




「早く座れ」




 赤坂隊長の声で我に返りミツルの向かい側に腰を降ろす。久しぶりに顔を合わせたが、気まずいなんてものじゃない。別れ際の2人を思い出して、頭がどうにかなりそうだ。


 赤坂隊長が座ったのを合図にタカラが口を開いた。




「入院していたと聞いたが、もう大丈夫そうだな」

「はい……。島を出たんですか?」

「いや、今も変わらずあの島に住んでる。お前に用があって北闇まで来たんだ」




 タカラの瞳の奥に死んだ海賊の顔が見えたような気がした。


 テーブルと距離をとり深く頭を下げた。そして、畳に額をこすりつけて許しを乞う。




「ごめんなさい……。あの時は殺すつもりなんて……」




 俺はいったい誰に謝っているのだろうか。


 心の底から湧き溢れる後悔とともに胃の中の物がせり上がってくる。そんな俺に、タカラは頭を上げるように言った。


 タカラの青目は、あの時のように俺を拒絶してはいなかった。

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