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第10話・最弱、怒りに燃える

 考える事は同じなのだろう。


 人数を削り7班に絞る。ツキヒメを捜すのはそれからだ、と。手当たり次第に暴れる受験生が激しい攻防戦を繰り広げる。中でも、赤坂班はやはり厄介だ。




「蛇華・柔周艶(じゅうしゅうえん)




 カナデの足もとから現れた薄桃色の蛇が赤坂班を包み込みながら透明化していく。一見、蛇が消えただけで特に警戒すべき物はないようにも見えるが――。




「次期長候補の枠、俺がもらったあ!!」




 口からはみ出た舌を横に垂らしながら、ソウジ目がけて突進する大型犬に似た混血者。だが、ソウジに触れることは出来ず、すんでのところで身体に異変は起きた。


 頭がぐにゃりと地面を向き、続くように、肩・背中・腰・足と、まるで関節が消えたみたいにグニャグニャになる。




「ごめんなさい。少しだけ我慢して」




 カナデが悲しそうに声をかけた。すると、大型犬の身体の内側でナニかが暴れ始めたではないか。至る箇所で皮膚を隆起させているのは、形からして蛇だ。




「うわあああああああ!!」




 どういう原理なのか、男の関節が全て蛇に変化している。急いで駆けつける仲間と、それを注視する赤坂班の背後を狙う別の班。片手を腰に置きながらソウジが一歩前に出た。


 まずは壊柱撃で火柱を発生させ、続けて別の言霊を唱える。




「炎・旋回包火球(せんかいほうかきゅう)




 火柱を軸に回転しながら両手に点火。回転に合わせて、火の塊が剛速球で四方八方に飛んでいく。回転速度はどんどん上がっていき、思わず息を飲み込むほどに美しい、巨大な炎の風車が発生した。


 赤坂班を潰しにかかった班は、瞬く間に燃え、風圧で吹き飛んだ。




「水・射弾速峰(しゃだんそくほう)。だいぶ抑えめバージョン、ってか」




 ヒロトが人差し指と親指を銃のように構えて、それを上に向ける。指先から水の塊が何発も発射され、高い位置まで上がると燃える混血者を的に、目視できるほどに遅い水の弾丸が何発も撃ち込まれた。鎮火だ。


 ユマはまだ治療中で、もう1人の姿はない。赤坂班は他の班に合わせて3人で挑んでいる。それでもこのチームワークと強さ。


 イオリの頬が引きつる。




「まずは赤坂班だな」

「イオリ、今回は戦闘を回避するべきだよ。無駄な体力を消費するくらいなら、ツキヒメの捜索に使う方が効率的。赤坂班を囮に抜け出して捜索を始めよう」

「……ま、しゃーねえか。上級試験まで楽しみはとっとかないとな」




 イツキが背を低くし後退を始める。後に続くように、俺たちも茂みの中へ身を潜めた。


 そうして誰よりも先に合宿場所へ辿り着いた。しかし、そこにツキヒメの姿はなかった。




「ここだと思ったのに、どこだろう」




 辺りを見渡す俺の横で、片膝をついて腰を下ろすイツキ。




「ここにいたはずだよ。ほら、これ」




 土にはたくさんの足跡が残っていて、その中に一つだけ小さいものがある。




「場所を変えたのか?」

「昨日の試験を考えるとそれはないと思う。それに、あそこ……」




 足跡を追ってイツキが移動していくと、そこには足跡ではない痕跡が残されていた。


 引きずられた跡だ。




「嫌な予感がするぜ。この先に行きたくねえな」




 イオリが向く方からはおびただしい冷気が漂ってくる。進む度に空気は冷たくなり、やがて雪が見え始めた。合宿の時と同じだ。


 急な寒さに身が縮まる。両手に包火をだし、イツキとイオリを寒さから守る。




「おっと、ありゃなんだ?」




 震える指先で場所を示すイオリ。そこには氷の塊がいくつも転がっていた。中には闇影隊が閉じ込められており、氷壁を必死に叩いているではないか。




「おい!! ここだ!!」

「なにがあったんすか!?」




 包火の勢いを強くし氷を溶かそうとした。けれど、まったくといっていいほど溶けない。僅かに水滴が伝うだけだ。




「無駄だ。この氷は溶けん」




 何を思い出したのか、冷えた身体の上からさらに表情を青くする闇影隊。




「俺はてっきり、精鋭部隊が脅すためだけに話していると……。畜生!! 噂じゃなかったんだ!! アイツが存在しやがった!!」

「落ち着いて下さい。いったい、何がいたんですか?」




 イツキが冷静にそう声をかけた。小刻みに何度も呼吸を繰り返し、答える。




「…………アマヨメだ」

「――っ!?」




 イツキの表情が途端に変わる。目玉がこぼれ落ちそうなくらいに目を見開き、氷壁を叩くように両手を置いた。




「本当ですか!?」

「嘘なんかつくものか!! あいつはツキヒメ様を浚っていった!! 早く取り返さないと殺されちまう!!」




 慌てようにイオリが首を傾げた。




「おい、イツキ。アマヨメって誰だよ。ヤバイ奴なのか? それとも、これも試験の一環で、こいつの演技なのか?」

「…………アマヨメは、迷界の森に巣くう実在する妖だ。そもそも、迷界の森と名付けられた所以は、磁気がないからじゃないんだ。そんなもの、ロープや人数がいれば解決する問題だからね」

「じゃあ、なんだよ」

「妖が命綱を奪い、さらには雪を降らせて足跡を消すから迷界の森と名付けられた。命綱の説明は、いらないよね?」




 今しがた、ロープや人数との説明を受けたのだ。答えを聞くまでもなく、何を奪うのかは想像できる。




「とにかく、俺は精鋭部隊を呼んでくる。イオリも着いてきて」

「ナオトは!?」

「ナオトの言霊は炎だ。だから、しばらくは大丈夫。でも、俺たちを暖める分の力まで消費しちゃうと体力が保たなくなるから」

「妖が現れたどうするんだよ!!」

「多分だけど、殺さないと思う」




 妖は、己の存在を隠すために、姿を見た者は必ず殺す。その死体は、ハンターや獣に襲われた者よりも綺麗で、魂だけが抜かれたかのような死体なんだそうだ。しかし、捕らえられた闇影隊は生きている。




「理由があって生かしているはず。ツキヒメのことも気になるしね」

「わかった。ここで待ってる」




 足跡を消される前に、イツキとイオリは引き返していった。


 背中を見送り、闇影隊に向き直る。


 悶々としていた気持ちがさらに膨れあがり、ついに容量を超えてしまった。包火は肩を覆い尽くし、赤色から白炎へと変わっていく。


 奴らは人との接触を避けている。こちら側から事を起こさない限りは姿を現すことはない――。そう話していたのはタモン様だ。合宿の時、総司令官もこう説明していた。こちらから危害を加えない限り、接触してくる事はない、と。


 白炎は紫色に変化した。




「それで、何をやらかしたんですか?」




 闇影隊が小さな悲鳴を上げた。

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