第9話・最弱と謎の病
お姫様奪還作戦なんていうふざけた名目のこの競技。詳しい説明は正門前でされた。混血者を含む班から7班、人間を含む班から7班だけが合格できる。合格は至ってシンプルだ。班の内、誰か1人でも辿り着ければいい。
ちなみにだけど、人間の競技は国内で行われ、混血者の競技は国の外で行われるそうだ。
ということで、初日は人間からスタートした。
ツキヒメが誘拐されたという設定だからだろうか。燃え上がる闘志を瞳に宿す男共に比べて、女子のやる気のなさには笑えた。
「こう、格好良く奪い返したいよな!」
「うんうん。心を鷲掴みってな」
「俺の家なんか、親父の方が張り切ってたぜ」
そんな話しをしていたのは、悪魔払いだとか悪霊退散だとか言って、俺を追いかけ回していた3人組だ。視線に気づくと、偉そうな足取りで話しに来た。
「よおー、泣き虫。お前、生きてたんだな」
「悪霊の力は恐ろしいねー」
「やめろって。また泣いちまうだろうが」
ゲラゲラと汚い笑い声をあげて俺を馬鹿にする。だけど、不思議だ。少しも傷つかない。それよりも別に思うところがある。
「天野家は青島班が護衛するって決まってるんだ。つまり、人間じゃダメってこと」
「「「はあ!?」」」
遅れてやって来たイオリに呼ばれる。3人に背を向けた。
「あ、あとさ。お前ら全員、ツキヒメに触れるなよ。汚れる」
なんだか、今日は朝から胸の奥がモヤモヤとしている。変な物でも食べただろうか。
こうして始まった奪還任務。執務室に捕らえられたツキヒメを救出すべく、正門から一斉に駆け出す闇影隊。一種のお祭りのようなものだ。通路には多くの国民が押し寄せ、声援を送っていた。
誰が合格したかなんてどうでもいい。すごく気持ちが悪い。
悶々とした気持ちは晴れなかった。そうして2日目を迎える。スタート地点は昨日と同じで正門前。多くの闇影隊が外を向いて合図を待っている。
「デジャヴかな。こういうの、前にもあったような……」
イオリの頭に浮かんでいるイメージは俺にも思い当たる節がある。
「前回の上級試験だろ?」
「それだ! 正門ががっつり開いているだけマシだな。前よりは楽しくやれそうだ」
「どこがだよ。ぜんっぜん楽しくない」
「どうしたんだ?」
「わからないけど、ここ数日変なんだ。胸の奥がもやもやしていて気持ち悪いし……」
「いつからだよ」
「仮合格って知った日くらいかな。昨日だって、ツキヒメのことを話している奴に文句言ったりしてさ、いつもなら絶対にそんなこと言わないのに。変だろ? 病気かな……」
「おまっ……それは」
イツキがイオリの口を塞いだ。
「もしそれが病気だとしたら、治療薬は一つしかないよ」
「医療隊に説明したら治るかな?」
「ううん、医療隊でも俺たちでも無理。治療薬は自分自身だよ、ナオト。頑張ってね」
――どう頑張れと?
答えを聞こうとすると、アキラが空へ手を掲げた。
「とにかく、ここいらで本領発揮といこうぜ。女王様の護衛は青島班って決まってんだわ」
「そうだね。今の俺たちなら余裕で7班に入れるよ」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。イツキ、狙うは1位だっての。犬でも猫でも鳥でもなんでもこいってんだ」
「1位、か……。いいね。じゃあ、俺たちはナオトの護衛だね。お姫様を奪還できるのはナオトしかいないから」
イツキが言い終えたのと同時に、アキラが手を振りかざす。
「始めっ!!」
一斉に半獣化・半妖化が始まり、瞬く間に正門から姿を消した。
ツキヒメを隠した場所は迷界の森。3年前、強化合宿が行われた地点までが範囲となっている。ちなみに、ルールはただ一つ。
受験者同士の殺し合いは禁止――。
つまり、死なない程度の攻撃は許可されているってことだ。
「青島隊長の言う通りだね。ふざけているようで、ちゃんとした試験だ」
「どういう意味だよ」
辺りを警戒しながら、イツキの声を拾うイオリ。
「半獣化・半妖化できる時間、考えないと」
「――っ、そういうことか。面倒くせえな」
他の班も気づいたようだ。1人、また1人と解いていく。
互いに睨み合いながら迷界の森を目指し、ついに立入禁止区域の看板を越えた。
たくさんの足音が森中に響いているのにも関わらず、極度の緊張感は静けさすら感じさせた。
感覚が冴えていくのと比例して、全身にのしかかる各々の圧。圧に負けて速度を落とす者もいれば、己の体力を忘れ足早に森を駆ける者もいる。
さし迫るような空気に冷や汗が流れ始めた頃。赤坂班が速度を上げ始めた。そして――。
「「装!!!!」」
再び、半獣化・半妖化が始まる。
目の前にも、背後にも、いるのは敵だけだ。
イツキが俺の前を行き、イオリは背後に着く。
ツキヒメをかけた戦いが幕を開けた。




