第6話・最弱と嘘つき坊や・3
さすがのイオリも呆れ果てる。
「お前さ、こんな時くらい本当のこと話せよ。ここには何もねえだろ」
「嘘じゃない!! 絶対にここら辺に住み着いてんだ!!」
青島隊長とイツキが話していた背後にあたる一帯も確かめたけど、痕跡は何一つなかった。
「顔が真っ黒のお化けがいるんだ……」
「真っ黒って……。真っ黒? そういうことか」
イオリが拳で手の平を叩いた。
「ナオト、包火だ」
「いいけど……」
辺りを明るくするために両手を燃やす。しかし、何もない。
魚みたいに口をパクパクとさせるムサシ。瞳が包火に釘付けだ。すると、青島隊長がムサシと目線を合わせるように腰を下ろした。途端に顔つきが険しくなる。
「どうりで気づかないわけだ」
同じようにしゃがむと、そこには偽の茂みがあった。隠し部屋のような物が地中に作られている。これはムサシの目線でないとわからない。しかし、なぜムサシは隠し部屋を教えてくれなかったのだろうか。
包火を解く俺の横で、手加減なしに蓋を破壊する青島隊長。中を覗き込むと横倒れになった黒い物体の姿が。真っ黒とは面のことだったようだ。外せば無精髭を生やした男が白目を剥いていた。
「イオリ、ムサシを頼む」
「了解」
青島隊長が立ち上がる。何人いるだろうか。数多くの黒い面が俺たちを取り囲んだ。その中の1人がリナを捕らえている。
青島隊長の言葉を思い起こす。これは賊の襲撃だ。
「子ども相手にこの人数か」
「知ったこっちゃねえ。俺らは金になりゃなんでもOKだ」
「……人身売買だな?」
「豚は晩飯ってところだ」
一斉に笑う賊たちが闇夜を揺らす。だが、愚かだ。
「その子を返してもらうぞ」
青島班がナニで構成されているかわかっていない。ここにいるのは――。
青島隊長が拳を地面に当てると、一帯が山のように膨れあがった。割れた大地に足を取られ膝を折る賊。青島隊長の計り知れない力に賊は悲鳴を上げた。
「なんだよ、この化け物!!」
「人間じゃねーのかよ!!」
ご名答、ただの人ではない。
イツキが山の上を駆ける。逃走を図った者には夢想縛りで捕獲していく。
「やめてくれぇ!!」
「返す、返します!!」
隙を見てイオリとムサシを狙った賊は、イオリの半獣化により鋭い爪の餌食となった。
「一番後ろにいる奴は一番弱いってか? これを頼りにされてるってんだよ、このバーカ!!」
「ぐっはっ……」
中には桜姫を構える賊もいる。グリードのトゲで仕上がった三本の鋭い矛先が俺の喉にぷつりと小さな穴を開ける。
「もらったぁ!!」
手甲を真っ直ぐに構えて突きを決めようと動く。
「対ハンター・グリード様の武器を人に向けるだなんて……」
ツキヒメの気持ちを踏みにじられた気がした。
喉を押されるのと同時に、自身の身体を後ろに背ける。そうやって相手の攻撃と自身のダメージを相殺し、賊の顎目がけて衝撃砲を放った。
ぐりんと黒目が瞼の裏に隠れる。しばらくは起きないだろう。
こうして、賊は牢鎖境の中に閉じ込められた。ザッと数えただけでも40人はいる。
「どうやって連行するんですか?」
「北闇は遠すぎる。近くにある力道の国に一先ずは預けるか……」
その国は、西猛と南光の間に位置する小国だ。数時間もあれば到着するだろうとのことだった。
解放されたリナがムサシに走り寄る。
「ムサシ君っ」
前髪を切られたようで、潤んだ瞳が露わになっている。
「無事でよかっ……あー!! 髪の毛!!」
「うちじゃないよ。勝手に切られたんだもんっ」
「んだよ、そいつ!!」
イオリが口元に手を添えてにやにやとした顔を近づけた。
「おっとー、前髪を伸ばさせていたのはお前かー。このマセガキめ」
ボンッと音が鳴りそうなくらいの勢いで顔を真っ赤に染めるムサシ。
「確かに、大事なもんを守るときは嘘つかなかったな。偉いぞ」
「――っ、うぜー!! マジでうぜー!!」
「んで、なんで黙ってたんだ? わかってたんだろ、ここに隠れてんの」
「だって……」
青島隊長とイツキの視線から逃れるために、ひっそりと身を潜めた賊。その瞬間をムサシは見逃さなかった。ムサシに気づかれた賊は口元に人差し指をあてて、さらにもう片方の手で喉を切るジェスチャーをしてきたらしい。だから、ムサシは「逃げた」と嘘をつき続けた。
「守ってくれてたんだな、あんがと。にしても、ビビリだなー、お前」
「二度と助けねぇぞ!! お前だけは!!」
どこにいてもムサシは基本騒がしいようだ。
こうして、一件落着――とはいかない。まずは依頼人を捕獲し、賊と共に連行。こいつ、貧乏な振りをして、実はたんまりと金を隠し持っていた。家畜や野菜を勝手に売買していたのだ。これだけではない。
村から子どもや犬がいなくなったのもそうだ。家に引きこもっているかと思いきや、賊に売り飛ばしていた真犯人だった。自ら依頼しておいて、名もない村だから、大きな事件には発展しないと思ったらしい。とんだ大間抜けもいいところだ。
村人にも詳しく話を伺うと、依頼人と賊が犯人だと知っていたと話した。脅されていて、恐怖から口を閉ざしていたのだ。中には大人を浚われた子どももいる。ムサシや、リナのように。
牢鎖境のおかげで売り飛ばされた場所はすぐに判明した。手伝ってくれた力道の国の当主と国民のおかげで、大人も子どもも犬も、無事に家族の元へ帰された。
だけど、あそこまで資源を根絶やしにされたのだ。途方に暮れる村人たちを見捨てるわけにもいかず、青島隊長は当主に深く頭を下げた。
「やめてくれい。もともとその気でいた。ちゃんと保護させてもらうよ」
ふくよかな身体に、肉まんみたいなほっぺた。にんまりと笑うと目が肉に埋もれる。
「感謝いたします」
村人からも安堵の声が漏れた。
こうして、村から荷物を運び出し、それぞれの家に運び届けるところまで手伝わせてもらった。また夜が訪れる。
「今夜は泊まっていくがよろしい。我が家特製の肉団子を振る舞うよ」
まともな食事は久しぶりだ。村人も俺たちもがっつくように食べた。中でも一番の食べっぷりを見せたのは、当主の息子だ。俺よりも年下である。
「変わったなりをしてんのな、あの子」
たっぷりとタレに肉団子をつけながら、イオリが感心の声を漏らす。
「みっちりと七三分けじゃん」
まん丸と太った彼は、首がなく、お腹はぱんぱんに膨れていて、赤子のような手首をしている。この年齢にしてあまりにも不健康だ。
俺たちの隣では、青島隊長と当主が改めて挨拶を交わしていた。
「北闇に所属する上級歩兵隊の青島ゲンイチロウと申します」
「ようこそ、力道の国へ。我が名は赤熊コロスケ。この国の当主を務めている」
俺の箸が止まった。
(赤熊……?)
どこかで聞いたことのある名だ。




