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第5話・最弱と嘘つき坊や・2

【ムサシ宅】


 今夜もまた――。無意識に心の中に聞こえてきた自分の声。部屋の隅っこで、リナは耳を塞ぎながら座っていた。そうしながら、玄関の扉前で仁王立ちでいるムサシの背中を見つめる。




「……行くの?」

「あったりまえだ。俺が取り返すんだ」




 扉に手を掛けて振り返る。




「絶対にそこを動くんじゃねえぞ」









 時計が日付を跨いだくらいだろか。合図は突然にやってきた。




「おーばーけーが、でーたーぞー!!」




 言わずもがな、皆が寝静まった時間帯にこんな大声で叫んでいるのはムサシだ。どうやら、各家を叩いて走り回っているらしい。




「おらー! 起きろよ! お化けが出たぞ!!」

「うるせぇ!! 何時だと思ってんだ!! いい加減にしろ!!」

「早く来いよ! 逃げちまうだろーが!!」




 そうして、次の家へ。その光景を黙って見つめる青島隊長。そして――。




「いたぞ、あそこだ」




 指をさした方向は、ムサシが案内をした道なき道の方だ。姿は見えないけれど茂みが左右に激しく揺れ動いている。




「また逃げるのかよ!! 待ちやがれ!!」




 ムサシが走り出したのと同時に俺達も動き出した。しかし、その方向に何の気配も感じない。あるのは座り込むムサシだけだ。




「おせーよ。もう逃げちまった」




 嘘だ――。誰もがそう思った。




「今度はもっと早めに家から出る。さあ、帰ろう」




 その日からこのやり取りが数日も続いた。ムサシが騒ぎ、住人が怒り、後を追いかけては「逃げた」と言われる。正直、堪忍袋の緒が切れそうだ。


 青島隊長が怖いのか、日に日に外で見かける子どもが減っていき、室内に戻されたのか犬もいなくなった。来た時よりも村は静かになっていく。早く出て行ってあげたいのは山々だが――。


 俺よりももっと苛ついているのはイオリだろう。激しい貧乏揺すりが彼の心情を物語っている。それでも青島隊長は「堪えろ」の一点張りだった。こんなことに何の意味があるのだろうか。


 そうして、また今夜もムサシが叫ぶ。




「化け物が出たぞー!! おーきーろー!!」

「起きてるってんだ。このガキ!!」




 イオリが走る。青島隊長は止めなかった。




「おら、どこにいるんだよ。早く連れてけよ」

「も、もう逃げた!!」

「嘘ついてんじゃねえぞ!!」

「俺は大事な物を守ってるだけだ!! その時は嘘なんかつかねぇぞ!!」

「だから、その嘘をやめろっつーの!!」

「んだよ、守ってやったのに!! もう知らねえからな!!」




 イオリを突き飛ばして自宅へ走っていく。呆然と佇むイオリだけが夜風に吹かれるのであった。


 空き家に戻ると、青島隊長は「心の内を好きなだけ叫べ」とイオリに言った。いったい、どうしたのだろうか。




「もう帰るっすわ!! 化け物なんてどこにもいねーし、上級試験も近いってのに時間の無駄っす!! 腹減ったし、眠いし、耳障りだし、暑いし、なんすか、この村!!」

「よし、静かにしろ」




 まったく意図が読めない。




「ムサシは嘘などついていない。確かに化け物はいた。お前達2人は気づかなかったようだな」

「青島隊長の言う通り、俺たち、背後を狙われていたよ」




 イオリと顔を見合わせる。




「最初の夜からね。ムサシが逃げたって言ったのは、俺たちの後ろにいたからだ」

「なんで捕まえなかったんだよ」

「ムサシがいるんだよ? 巻き込まれたら大変だ。こっちは正体を確かめたわけじゃないし、ムサシが一瞬だけ動揺したのを見逃さなかったってだけ」




 それから、青島隊長はこう説明した。


 まず一つ、ムサシの騒ぎに付き合った理由。これは大人の反応を確かめるためだった。そもそも、初めから嘘だと思っている彼らが家から出てくるはずがないのでは? というのが俺の見解だけど、青島隊長が確かめたかったのは依頼人の反応だった。




「彼は私に〝黙らせてくれ〟と頼んできた。この言い方は子ども向けとは思えない。まるで抑えつけるかのような物言いだ」

「言われてみれば、そうですね……」




 さらに、もう一つ。闇影隊がいるのにも関わらず、ムサシが「逃げた」と嘘をつく理由だ。




「これについては明日にでもわかるだろう。とりあえず、イオリには十分に叫んでもらった。依頼人は帰ると思い込んでいるはずだ。実際、もう1日だけ滞在したら帰ると伝える。その時の出方次第でこちらは動く」

「タイミングは?」

「ムサシが叫んだ時だ」




 次の日、青島隊長はその旨を依頼人に伝えた。すると、彼は笑顔で了承してくれた。どこか嬉しそうだ。なけなしの金発言はどこにいったのだろうか。


 そうして、夜。ここで思いがけない事件が発生する。




「化け物が出たよー!!」

「…………ん?」




 声に、青島隊長の眉がぴくりと動く。この声はムサシではなく、リナの声だ。




「化け物が豚さんを連れて行っちゃ――っ、きゃあああ!!」




 慌てて空き家を飛び出した。リナの姿がどこにもない。ムサシがもつれる足で青島班に滑り込む。




「あのバカ! 動くなって言ったのに!!」

「彼女を救いたいのなら、真実を話してくれ。でないと、化け物に食われるぞ」

「――っ……、大人は信用できねぇ……」




 イオリが一歩前に出る。




「助けてほしいから来たんだろ? 隊長がダメなら俺らに話せよ」

「お前は嫌いだ!!」

「……こんの」




 ムサシの頭に強烈なゲンコツがお見舞いされた。




「生意気なガキんちょが!! リナのやつ、マジで戻ってこねえぞ!?」

「うー……っ。わかったよ!! こっちだ!!」




 ムサシが向かった先は、やはりあの場所だった。

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