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第4話・最弱と嘘つき坊や・1

 俺達は本当に南西にいるのだろうか。しつこい湿気と寂れた村が、そう思わせる。


 人づてに聞いた話によれば、南光付近は経済的にも潤っているとのことだったが――。


 こんなに貧しい村があったなんて考えもしなかった。すきま風が通り抜ける民家の並びに、豚が二頭しかいない家畜小屋。八百屋にはしなれた野菜と果物に、痩せ細った犬と遊ぶ子どもたち。


 この村に名前はない。


 依頼人の家を訪れて数分。ヒビの入った湯飲みからこぼれる水を飲みながら話を伺った。




「幽霊……ですか」




 青島隊長の声に深く頷く依頼人。




「どうせ子どもの嘘っぱちでさぁ。けど、あまりにも騒ぐもんだからなけなしの金を払っちまった」

「はあ……」

「まあ、気にしないでくれ。ともかくだ。お化け退治というよりは、子どもを黙らせてくれ。毎夜騒がれちまって参ってるんだ」

「その子はどこに?」

「ほれ、あそこ」




 壁の隙間の向こうには犬と遊ぶ子どもたちがいる。




「ガキ大将みたいな奴がいるだろ? あいつさ」




 威張っているよな口調に、小悪党のような面立ち。子どもの輪の中心にいるところから、たしかにガキ大将といえる。




「確認いたしました」

「あいつは村一番の大嘘つきだ。俺が記憶している限りでは、嘘をつかなかった日なんて1日もねぇかんな。うっかり騙されるなよ」




 先の事など考えたくもない。今の話しだけで、十分に厄介な任務であることは理解できた。


 大男が近づいたからだろうか。無邪気に走り回っていた子どもたちが一斉に逃げていく。ガキ大将は仁王立ちで青島隊長を睨みつけており、その後ろに隠れる女の子は震えている。




「君、名前は?」

「カンタだ!!」




 まさかの名前だ。




「私は青島ゲンイチロウだ。みんなからはゲンさんと呼ばれている。宜しく頼むぞ」

「その服、闇影隊だろ? 何しに来たんだよ」




 年齢は10歳くらいだろう。とても生意気な子だ。




「お化け退治に来た。カンタ君は知っているかな?」

「マジかよ!! 知ってる知ってる!!」




 急にテンションの上がったカンタは、青島隊長の上着を引っ張って歩き始めた。どうやら案内をしてくれるようだ。


 それにしても、どこからが嘘なのか皆目見当もつかない。




「あの……」




 カンタの後ろに隠れていた女の子に呼び止められた。




「どうしたの?」

「カンタじゃないよ。ムサシ君」

「…………ありがとう」




 最初から嘘でした、と。




「君の名前は?」

「うちはリナ。ムサシ君のお友達だよ」




 嘘をつくムサシも変わり者ではあるが、この子も変わっている。どうしてそこまで伸ばしたのか、鼻の真ん中くらいで一直線に切られた前髪のせいで表情がわからない。


 それよりも引っ掛かるのは2人の服装だ。村はとても貧しいのに、服が綺麗なのだ。まるで、つい最近越してきたばかりのような、そんな感じがする。


 ポーチからゴムを取り出したイオリは、それでリナの前髪を一つ結びにした。くりくりの目とそばかすが印象的な、可愛らしい女の子だ。




「なんでそんな物を持ってるんだ?」

「お前がまた前髪を伸ばした時のために。暗くてこっちが嫌になっからよ」




 ぐうの音も出ない。


 ムサシが案内した場所は村から少し離れている所だった。とはいえ、子どもの足だと結構な距離になる。




「お化けはここに?」

「村にいんだ。いつも追いかけるんだけど、絶対にここで消える。多分、ここら辺に住んでんだ!!」

「なるほど……。村のどこに隠れているかわかるかな?」

「どの家に隠れてるかはわからないけど、夜になったら堂々と歩いてるぜ」




 その真意を確かめようと口を開く。すると、青島隊長は、目で何も話すなと訴えかけてきた。




「とても助かったよ。おじさん達が頑張って捕まえるから、今日は家から出ちゃいけないよ?」

「……わかった。俺の名前はムサシだ。カンタじゃねぇよ、ゲンさん」

「ムサシか、良い名だ」

「ありがとよ」




 いつの間にゴムを外したのだろうか。リナはまた前髪で顔を隠していた。


 場所は変わって、空き家。任務中はここで過ごすことになる。今にも抜けそうな床の上に座って、青島隊長が小さな声で話し始めた。




「お前達も気づいただろうが、この村は妙だ」




 イツキが答える。




「服装、ですね」

「ああ。どうも一致しない」

「にしても、あのガキんちょ、どうして急に本名を名乗ったんすかね?」

「おそらく、あの子が一番、村の異変に敏感になっているのだろう。嘘をつくことで相手の心の内を確かめようとしている」




 青島隊長と先頭を歩いている最中、ムサシはずっと青島隊長の顔色を窺い、村との繋がりを探ってきたそうだ。もちろんプロではない。青島隊長にはバレバレの手法である。




「一度心に闇を抱えれば、子どもは大人よりも固く心を閉ざす。その扉を開くには、闇影隊としてではなく個人として打ち解けていくしかない」

「個人……すか」

「イオリよ、お前は恐ろしく思わないか? 国を証明する上着に、何が入っているかもわからんポーチ、分厚く頑丈なブーツ。これは闇影隊であることを示す大切な一式だが、子どもには関係がない。単純に、兵隊が来たと思うだけだ。しかも、子どもによって兵隊に抱くイメージは様々。お前はどうだった?」

「……雑草を引っこ抜いたりしてるだなんて想像できないっす」

「そういうことだ」




 化け物に関する有力な情報源が子どもである以上、事を慎重に進めなければいけない。そう言って、青島隊長は冷たい床に背中を預ける。


 待つのは、合図だ。

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