第2話・最弱、王家のもくろみを知る
タモン様の顔に苦しい微笑が凝る。
「だいたい読めたぞ。お前、北闇で上級試験をさせるつもりだろう?」
「大正解だ。賢くて助かったぞ」
「なーにが助かる、だ!! このクソガキめ!! 宿屋から何から準備するのにどれだけの時間がかかると思ってやがんだ!!」
「そもそも、僕は開催国が南光であること事態、怪しんでいるんだ」
「話しを聞け!」
「お前もな」
ハンターの討伐が第一試験に確定されていること。ユズキが怪しんでいる理由はこれだ。
どの年も多くの死者を出すこの課題。クロムが学習能力に欠けていると吐露するくらい、見直しや変更がない。
「住人の数が桁違いなんだ。ハンターが寄りつくのは仕方がないだろう」
「本当にそうか?」
ユズキは他にも情報を隠し持っているらしい。察したタモン様が盛大に息を吐き出した。
「ここまできたんだ。気を遣う必要はない」
「これでもお前には感謝しているんだ」
内容はタモン様に関係すること、でまず間違いないだろう。
「あの試験、威支にはあえてハンター狩りをさせているようにしか見えないそうだ」
「そりゃ数を減らしたいんだ。意地にもなる」
「ハンターの数じゃない。……混血者の数だ」
空気がピンと冷たくなる。とくに、ソウジの目は皮膚がつりそうなくらい見開かれている。
「実は、過去に、王家と重度も繋がっていたんだ。目指す目的は同じだった。世界の統一だ。ただし、意味合いは違う。重度は全ての生き物を抹消する気でいた」
「王家は……?」
「人間での統一。つまり、混血者を根絶やしにする気でいる。……お前の父親は、お前が思っている以上にとんでもない奴だ。残念だが、ここまでくると救いようがない。その気でいたんだろう?」
「……………………一応、父親だからな」
そう言って、目を閉じた。
タモン様が抱く感情は痛いほどわかる。俺もヒロトも、つい最近父親の失態を知ったばかりなのだから。
「いいだろう。上級試験までに受け入れの準備を始める。ただ、ジジイを頷かせるにはそれなりの物が必要だ。なにを餌に釣るつもりだ?」
「ヘタロウを救出した時に、僕の友達が気になる部屋を見つけたんだ。まだ中を確認してはいないけど、ヘタロウよりも頑丈に結界が施されているらしい。生き物の気配はするみたいだから、まだ何か幽閉されている」
「それを解放したとして、釣れなかった場合はどうする」
「僕を餌にしろ。オウガよりも蛍が動くだろうがな。まあ、解放に成功した時は」「馬鹿を言え」
ユズキの言葉を遮って、タモン様が目を開いた。瞳の奥に揺れる怒りを露わにして片頬を上げて笑いながら答える。
「フルコースでもてなしてやる。重い腰をあげてもらうさ」
執務室に戻るのだろう。タモン様の動きに合わせて羽織が揺れると、同時に熱い風が巻き起こった。これは怒りを越えている。
「……家族とは、わからんな」
ユズキの声はタモン様に届かなかった。
❖
本部の外にある庭園で、イツキが別れを惜しんでいる。
「もう行くの?」
「北闇を脱走した身だ。長居はできない」
続いて、赤坂隊長が止めにかかる。
「もう行くの?」
全員、惜しげも無くどん引いてみせた。あの赤坂隊長が、俺と同じ年の女の子にゲロが出そうな甘い声を出すなんて。ソウジですら顔面蒼白だ。
イツキが小声で説明する。
「みんな知らないだろうけど、赤坂隊長はユズキを妹みたいに可愛がっているから……」
「ありゃ病気だ。まだ医療室にブチ込んでいた方がいいって」
イオリの案に賛同の声が爆発する。
「ね、ユズキちゃん。もういいじゃないの。3年だよ? 1095日だよ?」
「お前には接近禁止令を出したはずだ。この〝玉なしイケメン〟め」
「ちょっ、そのあだ名は人前で言わない約束でしょーが!!」
「先に破っておいて何を言ってるんだ。こんなんだから結婚できないんだ、お前は」
「ま、いいんだけどさ。それよりも……」
赤坂隊長が両腕を大きく広げた。まさかだとは思うが――。
「ほら、ハグ」
まさかのまさかだ。イオリの言う通り、この人は病気に違いない。
「いきすぎたシスコンも、ここまでくると犯罪者だな……」
今の赤坂隊長にイオリの声は聞こえていまい。
「さあ!! さあ!!」
「こっちに来るなぁあ!!」
「待って、ユズキ!!」
ハグから逃走したユズキを、腕を広げたまま追いかける赤坂隊長。その後を追うイツキ。それを見て、ヒロトは口元に手を添えながら不気味に笑った。
「面白そうじゃね? 追いかけようぜ」
「ったく、お前は……。カナデ、行くぞ」
意外とソウジも乗り気のようだ。
となれば、俺とイオリも行くしかない。




