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第1話・歴史を変える

 ヒロトと手入れした爺ちゃんの家の庭。とはいっても、雑草の背丈は色々だ。引き千切った、が正しいのかも。


 広くもなく、狭くもない。そんな庭で寝転がるのは俺とイオリだ。イツキも来る予定だったけど、久しぶりにユズキと会ったんだ。北闇の何処かで赤坂隊長と一緒に激しい追跡劇を繰り広げている。


 つまり、俺達は離脱組というわけだ。


 春の暖かい日差しを全身に浴びて、イオリが欠伸をした。




「まともに喋ったの、あれが初めてだったけど。インパクトの強い子だよなー」

「言葉づかいのこと?」

「それそれ。カナデちゃんがさ、タモン様に平気で暴言を吐ける友達がいるって言ってたじゃん。あれって、ユズキのことだろ?」

「うん。俺はもう慣れてるけどね」

「いやー……、すげーわ。まだ頭ん中で聞こえてる」




 ユズキが北闇を訪れたのは突然のことだった。


 俺がグリードのことを頼んだ件、覚えているだろうか。威支は何度も作戦会議を重ね、その結果、タモン様の力が必要になると結論づけたらしい。


 そのことで、彼女は1人で北闇を訪問したのだ。







 今年、3年ぶりの上級試験が開催される。試験に備えて、ヒロトと時間が合うときには毎夜手合わせを実施した。今のところ、ヒロトには連戦連敗だけど、終了するまでの時間は着実に伸びていた。


 俺の課題は紫の炎を自在に発動させることだ。これは、タモン様からの命令でもあった。


 キトは「最終段階の開花を終えた」と言っていた。このことについてタモン様に話を伺ってみると、爺ちゃんの炎が紫色だと教えてくれた。おそらく、炎の性質の最終形態は赤から紫に変わるのではないかとのことだったが、こればかりは爺ちゃんに聞いてみないことにはわからないそうだ。


 というのは、俺よりも能力値の高いソウジの言霊には変化がないからだ。


 彼は修行に修行を重ねているけど――。




「やはり、発動しません」

「そうか……。これも走流野家だけの体質かもしれんな」




 執務室へ呼ばれたソウジと俺は、タモン様の助言を受けて発動を試みている。結果は惨敗だ。


 そこへ、任務報告のため青島班と赤坂班が執務室を訪れた。今日は久しぶりの雑用だ。俺とソウジは休ませてもたった。




「失礼します。無事完了いたしました。これを」

「ご苦労だった」




 青島隊長から受け取った二班分の報告書にサッと目を通して、再びこちらに顔を向ける。




「……来るときは連絡しろ」




 いったい誰に言っているのだろうか。俺とは視線が合致していないので、追うように振り返った。そこに立っていたのはユズキだ。イツキの瞳が見る見るうちに潤んでいく。イツキにとって、会うのは3年ぶりになるだろう。




「ユズキッ……」

「久しぶりだな。元気だったか?」

「うん、おがえりっ」

「ただいま」




 イツキの過去を知っているからか、こっちまでもらい泣きしそうだ。




「んで、今回はどうした?」

「上級試験のことで話がある」

「わかった。場所を変えるぞ」

「お前達も着いてこい。味方は多い方がいい」




 ソウジの目がキッと吊り上がる。今は我慢してくれと身振りで訴えた。


 場所は変わり、鍛錬場。


 しがみつくイツキをベリッと剥がして、ユズキは本題に入った。




「ナオトから頼まれていたグリードの件だが、調査の結果、南光と繋がった」




 タモン様の目が据わる。




「どの国よりも桜姫の発注を急かされているというのに、なぜ南光が黒なんだ?」

「幽霊島に変異体がいただろう?」

「行ったのか?」

「ああ、少し前にな。そのことについてタカラと話した。グリードの出現は3年前の上級試験前後だ。あの島にいた変異体もその時期に洞窟に棲み着いた可能性が高い。頻繁に海を泳いでいるミツルは洞窟の存在を知っていたが、そんな生き物はいなかったそうだ。とはいっても、しばらくは南光方向へ泳ぎに出ていたらしいから、可能性が高いというだけで変異体が棲み着いた時期は定かではないがな。そこで、ある仮説をたてた」




 もし、海に流されて幽霊島に辿り着いたとしたら?


 海流は南光と東昇に繋がっている。しかし、東昇の南側は絶壁に荒れ狂う波が発生している。あの付近を流れたとしても、まず幽霊島に辿り着くのは不可能。残るは南光だけど、こっちは素人の俺達だけで島に辿り着けるほど波は穏やかだ。




「もしこの仮説が正しいのなら、グリードの出所は南光でまず間違いない」

「けどよ、俺達が見たのは月夜でだぜ? だよな、ナオト」




 イオリが言っているのは、ハンターの塔に閉じ込められたときの話しだ。後に、イツキが持ち帰ったハンターの死体にグリードの背中にあるトゲが刺さっていた。


 姿は見ていないけれど、あの時にはもうグリードは存在したということになる。




「イオリの言う通り、上級試験前にはいた。だけど、他国から新種の報告はなかった。騒ぎでいうなら月夜が始まりだと思う」

「それは良い情報だ。帰ったらトウヤとイザナに話してみる。奴らの行動を遡れるかもしれない」




 任務があるわけでもないし、闇影隊のようにルールがあるわけでもない。威支は国に縛られていない独立した組織だ。だからだろうか、やることが早い。


 一度話しを整理して、タモン様は腕を組んだ。




「で、それが上級試験にどう繋がる。何をするつもりだ」

「王家はこれまで歴史を隠蔽してきた。そこにあるのは真実だ。いったい何を恐れて隠したのか、今はどうでもいい。僕は――」




 言いながら、俺の方に向く。




「歴史を変えるつもりだ」




 ユズキは、王家に喧嘩を売ると、遠回しにそう告げた。

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