【逸話】人の性格を作り出す方法
「ぎゃっはっはっは!! ほーら、逃げろ逃げろ逃げろぉお!!」
「こいつ、ヒロトがいないとほんと何も出来ねぇのな!」
「その呪い、俺様が解いてやっからよお!! 一発蹴らせろぉお!!」
走流野ナオト、7歳。訓練校入学前――。
迫り来る3人のいじめっ子は、この時のナオトにとって、どんな生き物よりも恐ろしい生き物だった。心ない言葉、加減のない暴力、見て見ぬ振りをする大人達。
3人の少年は、きっと大人になったとき、この事をすっかり忘れているだろう。しかし、ナオトにとっては、言葉や視線、その時の状況を事細かに脳へインプットされるほどに、忘れられない出来事となるのだ。
夕暮れ時、ナオトは走った。何度も涙を拭ったせいで前髪は額に張り付き、何度も転んだせいで膝や肘を擦りむいている。
ナオトは必死に金髪を捜した。この時、ヒロトは祖父と共に集落へ出向いていた。そんなことなど露ほども知らず、ナオトは懸命に足を動かしていた。
その中で、遠くからこちらを見つめる視線があった。
その人物こそ、後に訓練校で名をはぜる三ツ葉ソウジだ。彼は電柱にもたれ掛かって、ナオトをジッと見ていた。
ナオトの足は自然とソウジに向いた。
「お願いっ、助けてっ……!!」
ソウジにはナオトの声がしっかりと聞こえていた。預けていた背中を前のめりにして、きちんと直立になる。そして、口角を上げた。
「なんでっ……」
ソウジはそのまま踵を返し、ナオトに背中を向けた。
あの時と同じだ――。ナオトはそう思った。目の前で起きている悲劇をまるで映画のように傍観し、煽れた好奇心に従ってその場を楽しむ。けれど、いざ自分が悲劇に足を引き込まれそうになると、途端に好奇心を捨てて第三者に成り済ます。
それは、ソウジだけではなかった。
ソウジを呼びに来たユマもそうだった。何を買ったのか、両腕に袋をぶら下げて帰路を行くフウカも、家族で外食に向かうイオリも、みんな同じだ。
みんな見ている。気づいている。
また溢れてきた涙に視界を奪われて、ナオトは派手に転んだ。背中を踏みつける三本の足が軽く感じてしまうほどに、脳裏に焼きついた人の視線の方が重く感じた。
「悪霊たいさーん!!」
「今日も良いことをしたぜ」
「腹減ったー。そろそろ帰ろうぜ」
「「さんせーい」」
3人が去って、しばらくした後にナオトが立ち上がった。服に付いた土埃をはたき落とし、入口まで出かけた鼻水をすする。もう一度涙を拭い、そうして家に向かった。
「ただいま……」
セメルは任務で留守だ。ヒロトと祖父も出かけている。
音のしない家にナオトはまた悲しくなった。
「母さん……、どこにいるの?」
玄関に座り込んで、見たことのない母親を求める。けれど、知らない人物で胸の傷を癒やすことはできない。瞬く間に先程の光景がナオトに襲いかかった。
「忘れろっ……、思い出すなっ……」
拳を作って自身の頭を叩く。ふと、何かを閃いた。
「…………そっか。あの子みたいにすればいいんだ」
ナオトが思い出したのはユマだった。傍観していたソウジを帰るように誘導した少女。その行動がなぜかナオトにとって救いに思えた。
自室に行き、勉強机の椅子に腰掛ける。そうしてノートを開き、書き始めた。
【じゃまものを、あっちに行かせるには?】
その人の好きな物を把握する。人によって態度を変えてみる。悟られないように前髪を伸ばし続ける。嘘はつかない。けれど、真実は教えない。などなど、自身に問うた答えを次々に書き記していく。
こうして、ナオトの性格は着実に歪んでいき、数年後に卒業試験を迎えるのだった。




