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第13話・最弱、引き金をひく

 それからというもの、俺は任務で失敗ばかり繰り返した。


 ハンターの性質がわかり1つ脅威は消え去ったものの、新たに出現したグリード。逃げも隠れもしない厄介な小さき殺戮者は、突如として現れては闇影隊を襲い続けた。


 なかでも、青島班は他班と比較するまでもなく襲撃回数が多い。マヤが残した資料を参考に推測すれば、原因は俺にあるのだろう。グリードはウイヒメを殺した男の指示に従って動いている可能性が高い。そうわかっていても、身体が動かないのだ。


 イツキとイオリは青島班に残ると覚悟を決めてくれた。それなのに――。




「ナオト、どこ見てやがんだ! 後ろだっつーの!」

「――っ、ごめん!」




 任務からの帰り道、もうすぐ北闇に到着するというところでグリードの襲撃にあった。


 訓練したようで、近距離・中距離・遠距離・錯乱部隊の4つに分かれて隊を組み、背中合わせで戦う青島班を個別に孤立させようとするグリード。


 人間みたいに手の内に隠すのではなく、あからさまな動きで目的が浮かび上がっているからいいものの、グリードの動きは面倒だ。


 ハンターよりも速く、的確に急所を狙ってるくる。


 俺のうなじに爪をたてたグリードを、すぐさまイオリが地面に叩きつけた。間髪入れずに青島隊長が首を折る。




「ナオトよ、これで何度目だ」

「すみません……」

「とにかく、落ち着いたら話がある」

「わかりました」




 駆けつけた精鋭部隊のおかげで事なきを得たにも関わらず、俺の心は穴が空いているみたいに無関心であった。







 青島隊長の家に招かれ、出されたお茶を一口飲んでから、視線を合わせる。




「幽霊島以来、お前の能力は明らかに低下傾向にある。あの件を引きずっているのだろう?」

「…………はい」




 正直に答えて、自分の両手を広げて見た。


 この手でたくさんの生き物を葬ってきた。時には人命救助を、時には雑用を。それが青島班の闇影隊としての職務だ。それなのに――。




「人を……殺しました……」




 何をしても脳裏にこびりついて消えない記憶。あの瞬間がいつだって目の前に見えている。


 確かに本気で殺したいと強くそう思ったし、本人にも口に出して伝えた。だけど、それでも俺は、海賊の意識を奪うだけのつもりだったんだ。それなのに、俺の意思に反して言霊は能力を発動させた。


 思い起こして両手が震える。




「試験の評価書を受け取ったから南光の闇影隊から言づてを預かっている」

「なんでしょうか」

「手間が省けた。この意味が分かるか?」

「いえ……」




 お茶に口をつけて、静かに湯飲みを置く青島隊長。波紋を浮かべる茶を見つめている。




「海賊にはすでに死刑判決が下っているそうだ。その内の1人、あの男だけは別の刑も用意されていた。死よりも苦しい罰らしい。聞くところによると、南光の脱走兵なんだと」

「そんな理由で?」

「機密文書を持ち出したとか話していたが、詳しいことまでは聞かされていない。東昇に逃げ込んだところまで掴んだものの、その後はあの大地震だ。行方がわからなくなり、捜索は一時中断されていたらしい」




 当主へ任務報告を行うさい、当主から海賊の手配書の写真を見せられた青島隊長は、その中に俺が殺したあの男の写真がない事に気がついた。


 後日、今度は南光の闇影隊が手配書を持ってきた。そこにあいつがいたと青島隊長は話す。




「ビゼンは死ぬんですか?」

「おそらく、逮捕まで至らないだろう。我々と違い、南光は島の近くにすら近づけないらしい。タカラさんが話していた大蛇……。奴が航の行く先どこにでも現れるそうだ」

「本当に俺達は運が良かっただけなんですね……」

「かもしれんな」

「もう一度行って来いとか、そんな話しは?」

「もちろんあったさ。だが、断った」




 船を襲った犯人が海賊じゃないなら、逮捕する理由は何なのか。そう尋ねると、南光の闇影隊は固く口を閉ざしたという。明確な理由がないなら、タモン様の命がないかぎり隊は動かない。そもそも、青島班は当主直轄の部隊ではない。そう伝えたそうだ。


 話しが一段落ついたところで、俺は変異体の書類を見つけたことを話した。本来なら持ち帰るべき物だが、なにせ周りは海だ。濡れて使い物にならなくなる。




「調べている者がいたとはな……。それで、その情報源は誰からのものだ?」

「それは……その……」




 しばらく沈黙した後、青島隊長は茶を一気に飲み干した。




「いい、誰かはわかった。元気だったか?」

「はい」

「ヘタロウさんはどうしてる?」

「元気だと言っていました。重度も手を出さないそうです」

「そこまで突き進んだか……」

「後は母さんのことを調べるだけなんですけど、青島隊長も……」

「タモン様から聞かされたのだな。……すまない、思い出せない」

「父さんは、俺達の顔は母さんに似ていると話していました。ヒロトの金髪もそうです。情報はこれだけしかないけど、今は十分です」




 すると、青島隊長の頭が物凄い勢いで机に落ちた。両手で頭を押さえて、痛みなのかなんなのか、とにかく悶え苦しんでいる。




「ど、どうしたんですか!?」

「ああああっ……、うっ……」




 まともな言葉も発せない。


 タイミング良く、赤坂隊長が家に訪れた。急いで中に入れて状態を診てもらう。




「いつからだ!?」

「こんなの今日初めて見ました……。ただ母さんのことを話していただけなのにっ……」

「覚えているの?」

「いえ、そもそも俺は会ったことすらないんです。だから、父さんが教えてくれた顔が似てるっていうのと、ヒロトと同じ金髪ってことだけで、他の情報は……」




 そこまで説明すると、今度は赤坂隊長に同じ症状が出た。青島隊長同様、頭を押さえて一言も喋れなくなってしまったのだ。


 慌てて家を飛び出した。もつれる足を懸命に動かして執務室に飛び込む。黄瀬班が報告を行っている真っ最中だけど、そんなもの無視して助けを求めた。


 しかし、状況を話したところで、次はタモン様と黄瀬隊長に症状が現れた。




(母さんの特徴が引き金なのか!?)




 レンが呼んできた医療班がすぐに4人の治療にあたる。


 各班の部下に見守られながら、4人は意識を手放したまま、誰1人として起き上がらなかった。

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