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第10話・最弱、桃色トークに困り果てる・1

 試験が行われる前に、タモン様はこう告げた。




「来年、上級試験が開催される。よって、今回は他国合同強化合宿を執り行う。精鋭部隊の護衛はない。各自、5日間を生き延びろ。健闘を祈る」







 出発は早朝。


 北闇と東昇を合わせても、参加者はとても少なかった。それもそのはず、ここには〝生き残り〟しかいないのだから。


 それはともかく、一応は試験形式の親睦会だ。なぜか、各班の隊長の姿がある。




「青島隊長は何をするんですか?」




 俺の声に先頭を歩く青島隊長は背中を向けたまま答えた。




「隊長は評価を下す役割がある。側にはいるが、例えハンターやグリード、獣が襲ってきたとしても一切の手助けはない。まあ、お前達なら大丈夫だろう。それなりに場数は踏んできたのだ」




 場数を踏んだと言えば、赤坂班だ。今じゃ他国からも引っ張りだこで、ほとんど自国にいないのが現状だ。ヒロトの姿を見たのは、タモン様とツキヒメが情報公開を行ったとき以来である。


 ソウジの隣をカナデが歩いている。こちらに気づくと、口パクで「ごめんね」と伝えてきた。甘味屋でのことだろう。大丈夫だという意味を込めて、頷いて返した。


 そこに聞き慣れた声がやって来た。




「やあ、ナオト君。無事に帰ってきたんだね」




 ハルイチが歩みを合わせる。




「ごめん、カナデのこと聞いちゃったんだ。不可抗力だけど」

「あー……。別に構わないよ」

「なんていうか、その……。詫びの品はどうかと思う」

「……毒の手から逃がした、それだけだよ」

「へ?」

「それよりも任務の話しを聞かせてくれないかい?」




 あの時と同じように、ハルイチは話題を変えた。


 試験を行う場所に辿り着いて、北闇の闇影隊は悪い記憶に顔をしかめた。場所は原生林、目の前には洞窟。そう、ここは大猿討伐任務で激闘を繰り広げた場所だ。洞窟にあった大量の骸骨は埋葬したらしく、今では空っぽである。気味が悪いけれど、ここに野営地は設置された。


 青島隊長がルール告げる。




「朝の7時から夜の19時までの12時間、お前達には原生林に出てもらう。そこで行われる試験内容は、討伐対象の生態を調査し、最終日にレポートにまとめるだけの簡単なものだ。しかし、襲撃されたさい、隊長の助けは一切ない。これまでの力量を測り、尚且つ目を養うための試験となる」




 他には、21時に就寝、5時に起床。食料調達は各自で行い、必ず隊長に見せるようにとのことだった。つまり、試験開始前と就寝前の計4時間だけが自由時間ってことだ。




「最後に……。レポートには知られている生態を書いても構わない。だが、嘘だけは書くな。誤った情報が多くの人々を殺してしまうことを忘れるな。以上だ」




 桜姫を強く握りしめる者もいれば、甘く見て余裕すら感じさせる者もいる。緊張感がまるでないのは、オウガ様が放った一言のせいだろう。混血者との行動を徹底するように告げ、各隊長はそれを部下に伝えた。


 ソウジやハルイチの近くにいれば安心、というわけだ。


 開始は明日。今日は狩り場になりそうな場所に目星をつけるため、各自自由に行動した。ここでイツキが意外な一面を見せた。草むらを掻き分けて動物の糞を見つけたり、水場を発見したりと、そうやってポイントを的確に教えてくれたのだ。




「人と混血者で授業内容は違うのか?」




 感心しながら、イオリが問う。




「同じだよ。これはユズキが教えてくれたんだ。ユズキはサバイバルのプロだからね」




 大切な思い出なのだろう。足跡を追跡しながらイツキははにかんでいた。







 1日目と2日目の試験が終わった。死傷者は0、良い出だしだ。それに、イツキのおかげで食料にも困らなかった。初めて自分でウサギを捕まえた時は飛んで喜んだ。


 問題は食べ終わった頃にやって来る。


 毎夜恒例化しているのは、女子による女子だけの女子トークだ。


 男子一同は、寝たふりをしながら聞き耳をたてる他ない。すごく生々しい会話で、聞いているだけで恥ずかしくなるような内容もあった。


 これを始めたのは黄瀬隊長だ。彼女なりの息抜きの提供だろう。俺たちは勝手に〝黄瀬会〟と呼んでいる。


 昨夜のテーマは〝胸の大きさ〟で、今夜のテーマは〝恋愛〟についてだ。




「さぁて、誰にしようかしら……」




 揺らめく焚き火に照らされた黄瀬隊長の不敵な笑みは、意地悪な先輩そのものだ。頬を染め、目をそらす女子はもじもじとしている。


 真っ先に手を上げたのはフウカだった。




「あたしの好きな人はぁ、噂の彼でーす!」




 濁した言い方に女子一同は興味を煽られたようだ。黄瀬隊長が詳しく調査を開始する。




「噂ってたくさんあるじゃない。例えば三ツ葉家の彼も噂の1人だし、他にも何人かいるわよ? もうちょっとヒントが欲しいわね」




 賛同するかのようにこくこくと頷く女子一同。誰よりも聞き耳を立てているだろうケンタもまた、寝たふりをしながら頷いている。




「たしかフウカは西猛の国出身だったわね。母国にいるのかしら?」

「北闇だよ。えっとー、噂っていうのは〝なんちゃらの双子〟ってやつだっぴ」

「だいぶ絞ってくれたわね。それじゃあ、これを最後の質問にするわ。相手は黒と金、どっちかしら?」




 だいぶ突っ込んだ質問に、思わず吹き出しそうになった。ケンタの視線がとてつもなく痛いし、イオリに至っては口に手を添えながらニヤニヤしていて気持ちが悪い。


 こちらの心境などお構いなしにフウカが答える。




「黒……かな。きゃああ!! 言っちゃった!!」




 噂を知っている皆の反応は薄い。当たり前だ。ただでさえド陰キャ生活をしてきた俺が、金髪ギャルに好意を抱かれているだなんて変な話しじゃないか。


 女子の中の誰かがこんなことを言った。




「金ならわかるけどー。黒って金魚の糞とか呼ばれてるんじゃないの?」

「あたし、過去にはこだわらない子なんだよね。最近さぁ一緒に任務にも行ったし、西猛の襲撃の時も見てたけど、本当に凄かったんだから。ワンちゃんの重度を海に落としたのって、黒の子なんだよ」

「え! そうなの?!」

「そうだっぴ。班全員で協力してって感じだけどね。でもあたしの中ではあの人が一番頑張ったと思うんだぁ」




 へらへらと笑ったフウカだったが、本気でこんな俺に恋心を抱いているらしく、他の女子と同様に頬を赤く染めているのを見てしまった。


 この話を聞いて女子は騒いでいるが、いったい何が彼女達のスイッチになったのだろうか。


 耳障りだったのか、ソウジは静かにその場を離れていった。




「いつか、好きってちゃんと伝えるの。できれば〝あの子〟に取られる前に!」




 話し終えたフウカに指名されたのはユマだった。これは黄瀬会のルールだ。


 まさか自分に回ってくると思っていなかったのか、魚みたいに口をぱくぱくさせるユマ。だんまりを決め込んでいたものの、フウカに冷やかされついに観念した。




「私に好きな人などいない。そんな時間があれば、修行に費やする。以上だ」

「えー! それはナシ! あたしだって話したんだから、ユマも暴露しちゃいなよぉ」

「いないものはいない」

「ふーん……。でも、最近女の子らしいよね! いつもならすぐヒロトと喧嘩するのに、それも減っちゃってさぁ。今では楽しそうっていうのかな? まさかユマも黒の子!?」




 聞こえている――。


 いくら寝たふりをしているからといっても、なぜだかこっちが動揺してしまった。たしかに、俺たちは甘味屋での一件で知り合いになったけど、でもそれだけだ。




「黒じゃない」

「なーんだ、つまんなーい! ……んで、誰?」




 じりじりと迫るフウカに、ユマは少しずつ顔を背けていった。

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