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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
SEASON・1――/第一章・少年期編・1
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月夜の国と最弱・2

 門の入り口付近に立っている女性がこちらに気づくと、深くお辞儀をし、依頼人のもとまで案内をしてくれた。


 北闇に比べると面積は4分の1ほどだろうか。こんな所に金持ちが? なんて疑問を抱くのも束の間、案内された場所を見て驚愕する。


 金持ちだとは聞いたが、想像を遙かに越えてくるなんて……。


 丁寧に剪定されて丸くなった木々の列が家を囲み、玄関までの道は磨き上げたかのごとく綺麗な石が両端に並んでいる。広い庭には盆栽があったり、本部と同じような池まである。極めつけは木の香りだ。まだ家の中に足を踏み入れていないのに、玄関の向こう側から自然独特の良い匂いがしてくるではないか。


 馬鹿でもわかる。金持ちなんてレベルじゃない。超のつく金持ちだ。




「中へお入りください。当主様がお待ちになられております」




 玄関に入ると、天井が映るまでに掃除されている廊下があった。思わず自分の靴下の裏を確認してしまう。それから視界に入ったのは高級そうな壺だ。手を後ろに組んで何にも触れないように慎重に歩いた。


 一室に通されると、座布団の上で胡座をかく男性の姿があった。隊長を前列に、俺たちは後ろに腰を下ろす。依頼人と隊長の会話は、自己紹介と任務内容の確認から始まった。




「北闇の国から参りました、青島班隊長の青島ゲンイチロウと申します。こちらは、赤坂班を率いる赤坂キョウスケです。壁の建設を担当する班です」

「依頼した天野カケハシだ。思っていたより人数が少ないな」

「噂は耳にしておられるかと思いますが、北闇は賊の襲撃を受けたばかりでございます。犯人確保に人員を割くも膠着状態にあり、あいにく人手を切らしている状況にあります。勝手を申し上げますが、どうか事情をお汲み取りください」




 盛大に鼻で息を漏らすカケハシ。無言で頷くも納得はしていなさそうだ。




「小さい国だ。壁の建設はすぐ終わるだろう。ただ心配なのは、この中の誰が娘たちを護衛してくれるか、だ」

「護衛……ですか」




 青島隊長と赤坂隊長が顔を見合わせる。


 そのことについて尋ねたのは赤坂隊長だった。




「お言葉ですが、こちらの認識としましては、遊び相手だと受け取っています。ですが、護衛となると話は変わります。ご息女は何者かに命を狙われているのですか?」




 言い終えたのと同時に、背後から物凄い勢いで襖を開ける音が鳴った。何事かと振り返ると、全身で息をして、着崩れてしまった着物から肩を覗かせている女の子の姿がある。


 俺たちに挨拶をするわけでもなく、腰まである黒い髪を揺らしながら荒い足取りで大股で横切っていく。




「父上!」




 どうやら、護衛対象の一人らしい。横一直線に切られた前髪が印象的である。




「お帰り、ツキヒメ」




 娘を目にするとカケハシの表情が柔らかくなった。「パパと呼びなさいと言ってるだろう?」なんて、こちらが恥ずかしくなるような激愛ぶりを見せつけてくる。


 隊長は事情を察したような顔だ。




「天野家の大黒柱をパパなんて呼べると思う? そんなことより、あの縁談はなに!? あんな貧乏人、こっちからお断りよ!」

「天野家と同等の家はそうないんだ。それに、別にいいじゃないか。お前が嫁に行くのではなく、こちらが婿にもらう相手を探しているのだから、問題はなかろう?」

「品がないわ」




 どの口が言ってんだ。




「まあ、落ち着きなさい。北闇の国から闇影隊の方々が来てくれた。後方にいる子達の中から2人、護衛の者を選びなさい。壁の建設が終わるまで、パパは忙しくなるからな」




 娘の機嫌取りのつもりだろうか。これだと当初決められた配置や予定が狂ってしまう。しかし、相手が相手だ。青島隊長と赤坂隊長は口を閉じていた。


 あからさまに〝面倒だ〟と言わんばかりの表情を浮かべるツキヒメは、迷うことなく1人目を指さした。




「そこのお前、名乗りなさい」

「走流野ヒロト」




 金髪で目立つからだろうか。指名されたヒロトの眉間はひくひくと動いている。


 彼女の態度を見て、全員が一斉に目を背けた。攻略が難しいとの意味を理解した俺もまた同様である。しかし、そうはさせまいとツキヒメではなくヒロトが俺を指名してきた。




「もう1人は俺の弟にしてくれねぇか? 護衛するなら身内同士の方がやりやすい」

「別に誰だって構わないわ。弟、立ちなさい」




 重い腰を上げた俺は、即座に名乗って、それからヒロトを睨みつけた。ヒロトはというと、してやったりとほくそ笑んでいる。




「あなた達、双子なのね。それにしても、弟。あなたの前髪はどうにかならないの? ほとんど目が隠れていて不気味だわ。兄を見習いなさい」




 皆の前で言われた恥ずかしさから、一気に顔が熱くなるのを感じた。くすくすと嘲笑う声に、耳まで熱を帯びていく。ユズキに裾を引っ張られて、ようやく腰を下ろすことが出来た。


 こうして役割分担が決まったところで、ヒロトはツキヒメの護衛に付き、彼女が部屋を出たので後を追いかけていった。残ったのは、青島隊長と俺とカケハシだ。


 カケハシが俺に向いた。




「先程のツキヒメの無礼、どうか許してくれ。少々口が悪いのだ」

「あれで少々……ですか」




 ぽろりと漏れた本音に青島隊長が大きな咳払いをする。




「娘が悪いのだ、構わん。ただ、ナオト君。君に任せたいもう1人の娘の事なんだが、あの子はツキヒメよりも手を焼くかもしれん」

「どういう意味でしょうか」

「ツキヒメの妹で、名をウイヒメという。ウイヒメは、三種の恐ろしさも知らずに親の目を盗んでは外に出ているのだ。数日前から私の妻は王家に出向いているし、私は君達の接待と壁の建設作業にあたる予定があった。隙をみてすでに外に出ているはずだ」

「いつ頃戻られるんですか?」

「戻ってくる時間帯は問題ではない。ウイヒメが外へ出る時間帯に決まりがないのが問題なのだ」




 青島隊長の目尻が上がり、いつもよりも引き締まった表情となる。




「夜間の外出もあり得るということですね?」

「青島さんの仰るとおり。まるで空気のように、誰に気づかれる事もなく家を出て行くのだ。山吹神社事件の事もある。昼といえども物騒な世の中に変わってしまった。頼む、連れ戻してくれ」

「わかりました。ウイヒメ様の特徴を教えてください。すぐに捜索にあたります」




 こうして、ウイヒメの情報を得た俺は、青島隊長と一緒に門まで行った。外へ出ようとすると、青島隊長は俺を呼び止めた。




「本当に1人で行くのか?」

「これは俺が受けた任務です。必ず遂行してみせます」

「セメルから言霊を習得させたと聞いてはいるが、決して無茶はするな。愛する部下を喪いたくない」




 こうして、青島隊長と別れて、俺はウイヒメの捜索にあたった。


 カケハシから得た情報はこうだ。ウイヒメの年齢は8歳。髪型は短く、常に半袖と半ズボンを着ている。人一倍に強い好奇心の持ち主で、行動範囲は予測不可能。ここまではいい。


 驚く事に、朝方に帰宅するにも関わらず三種に襲われた経験は一度もないそうだ。本人に尋ねると、「見たことはない」と言っていたらしい。


 門に向かっている時、青島隊長はこう推測し、俺に追加の任務を言い渡した。「彼女しか知らない、身を隠せる場所があるのかもしれない。その場所を見つけ、地形や様子を記憶し、報告すること」、と。


 人害認定の一種、妖は滅多に姿を現すことはない。タモン様が言ったのだから確かだろう。だが、それ以外の二種にすら遭遇したことがないのはあり得ない。青島隊長も同じ疑問を抱いたはずだ。なぜ彼女は襲われないのか、と。


 青島隊長が追加した任務の意図は、もし推測通りならば、各国の闇影隊の命を救う手掛かりが発見出来るかもしれない、ということだろう。


 捜索の最中、脳裏に過ぎったのは野外訓練でのことだった。




(こんな時に思い出すなんて……)




 この世界には、獣・妖・ハンターと呼ばれる、人害認定の三種の生き物がいる。どれも人間を襲ってくる化け物だ。獣とハンターは肉を喰らい、妖は魂を奪うとされている。


 三種の中で最も恐れられている生き物はハンターだ。姿は人間に近いのに、大きさはウサギくらいの小ささで、眼球がなく、口が顔の半分を占めているのが特徴だ。下半身には草で作ったスカートに似た物を巻き、茂みに身を隠しながら人間が通るのを待ち構えている。そして、群れで襲ってくる。


 そう説明しながら、黒板にハンターの絵を描いた先生。あまりにも恐ろしく、こんな生き物が外に潜んでいるのかと、見たこともないのに恐怖した日が懐かしい。


 そして、その恐怖は現実のものとなる。


 野外訓練が開始された日のこと。


 サボった生徒の叫び声が聞こえたのは、開始してすぐだ。先へ進んでいた全員の足が止まり、何人かが確認のために引き返した。


 しばらくして、血相を変えながら戻ってきた1人が、待っていた皆の前で派手に転んだ。そして、打ち上げられた魚のように跳ね、大量の血溜まりの中で死んでしまった。そいつの背中には蠢く何かがしがみついていた。


 突然の出来事に状況が飲み込めず、場は愕然とした。その生き物の正体がわかった時、誰かが細い悲鳴を上げた。


 どこに潜んでいたのか、囁き声が聞こえてきて、それから瞬く間に集団に身を覆われた死体は残骸と化した。それを見て、森の奥に向かった数名に何が起きたのかを全員が悟った。


 半獣化した旧家の子が助けを呼びに北闇に戻っている間、俺たちはその生き物と死に物狂いで戦い、やがて救出に駆けつけた闇影隊のおかげで一命を取りとめた。


 俺たちが出くわしたのはハンターだった。


 ハンターについての情報はあまりにも少ない。


 わかっているのは、獲物に食らいついている時は襲ってこないこと。満腹中枢がないこと。交尾したその日に子どもが生まれること。近くに潜んでいる時には、必ず「サチ」とう囁き声が聞こえてくること。これだけだ。


 獣が住処を作ったり、火を嫌うのに対して、ハンターの拠点や苦手な物は一切わかっていない。


 それほどまでに危険な生き物が数え切れないほどに潜んでいる。だけど、ウイヒメは見たことも襲われたこともない。


 8歳の女の子の行動範囲は限られている。たとえ予測不可能だとしても、身を隠している場所は近いはず――が、思っていたよりも時間がかかってしまった。

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