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第8話・最弱、罪を犯す

 島に戻ると、ビゼンとタカラは更に激しく言い合っていた。


 海賊の半分以上が津波に浚われたようだ。人数が極端に減っている。


 肩で荒々しい呼吸を繰り返すタカラ。青い目は、激しい怒りで充血している。やがて涙を浮かべ、それは静かに頬を流れた。




「あんたらにはわからないさ。うちがどんな気持ちでミツルを育て、母国を恨んだか……。ビゼン、あんたの気持ちに気づいた時、うちは闇影隊である自分を恥じた。ミツル一人で手がいっぱいになって、すぐ近くにいる同じ国の仲間を救えない不甲斐なさに怒りすら覚えた。でもね……」




 ビゼンの胸ぐらを掴み上げる。




「あの夜の一件以来、うちの考えも変わったんだ。ミツルの悲鳴を思い出すたびに、芽生えた殺意は大きく膨れあがっていった。あんたらは、うちの子を殺そうとしたんだ!!!!」




 ビゼンを手で寄せて、男が前へ出てきた。腰に片手を置き、気だるそうに立つその振る舞いは、まるでタカラの声が届いていないように見える。


 それから、ミツルを見て鼻で笑い、とんでもない事を口にした。




「それでも生きてるじゃねぇか。こっちはな、大勢死んでんだよ。それに比べたら、そんなガキ一人死んだとしてもどうってことねぇ。こっちの気も知らねぇで喚いてんじゃねぇぞ」




 そう言い、唾を吐いた男に俺は怒りで腹の底がぐらぐらとし始めた。それはやがて興奮に変わり、抑えきれない何かが喉元まで押し上げてくる。


 男はさらに言葉を紡いだ。




「そのガキが大蛇に喰われていれば、お前は足を失わず、俺たちの仲間も死なずに済んだかもしれねぇな。……ならばいっその事、あの時、ガキを殺しておけばよかった」




 顎をあげ、男は蔑み笑う。


 ミツルの身体を抱き寄せたタカラは、男の表情に身を震わせた。




「お前……なに言ってんだよ……」




 俺が口にした言葉は、今のタカラの感情そのものだろう。


 自分の一言で怒りが爆発し、それが勢いとなって俺の体は動いてしまった。


 男に走り寄り、顔を思い切り蹴り飛ばして、倒れ込んだ男の上半身に馬乗りになった。そして胸ぐらを掴み上げ、自分の顔に寄せて、鼻先がくっつきそうになるくらいのところで喉元まで来ていた言葉を吐いた。




「お前が死ねよ」




 これ以上、タカラを傷つけさせないように、こいつには気絶して貰う他ない。中指と親指でデコピンの形を作り、額に向けた。




「お前には一生わからない。家族を喪う痛みや悲しみがどれだけ心に深い傷を負わせるか……。いや、わからなくていいや。理解してもらったところで気持ち悪いしな」

「はっ。たかがデコピンで何ができるってんだ。やってみやがれ」

「ああ、やってやるよ」




 衝撃砲を最大限にまで抑え込む。




「ミツルに対するその罪、一生を掛けて償え、クソ野郎」

「――っ、ナオト!! 脅しでやめておくのだ!!」




 青島隊長が叫んだのと同時に、男にデコピンをお見舞いした。


 すると、男の目がカッと見開き痙攣を起こし始めたではないか。俺の体まで揺れる激しいもので、男の目の周りの皮膚が波打つよにうねり始める。




「このガキ……、俺に……何をしたんだっ……」




 あまりの不気味さに慌てて男から離れると、男は俺の足もとで悶え苦しみ、足で何度も岩場を蹴った。両手で喉を押さえ、壊れた笛のような音を出しながら必死に酸素を求める。


 「パンッ」と何かが弾けた音が鼓膜を貫いた。


 直後、絶叫した男は喉を押さえていた手で目を覆い、膝立ちになると、すぐそばにいた俺の右腕にしがみついた。男が顔を上げたその時、俺は細い悲鳴を上げた。




「見えねぇ……、見えねぇよ……。俺の目、どうなったんだ? ……なあ、答えてくれよ!」




 弾けたのは男の両目だったのだ。血と共に流れ出る異物が岩場の上にこぼれ落ちたのを感じたのか、男は手探りで確かめようとしていた。


 しだいに呼吸は乱れ始めた。足りない酸素を補おうと上半身は前後に揺れて、喉の奥からは聞いた事のない呼吸音が音となって聞こえてくる。息が詰まり、今にも顔が破裂しそうなほど赤くなっていた。


 と、その時だ。




「あっ……、ああぁぁぁあああああ!!!!」




 空を仰ぎながら絶叫した男は、文字通り顔を破裂させ絶命。場が静まりかえり、少しの間を置いて、海賊たちは一斉に錯乱した。


 怒号、悲鳴、金切り声、あるいは罵声。色んな声が飛び交う中、父さんとの会話が聞こえてきた。




 ――「言霊は使い方を間違えると簡単に人を殺してしまう。相手に対して少しでも哀れみや同情といった感情があれば別だが、もし仮に本気で死んでほしいと願った時……。相手は悲惨な死を迎えることになる。これは、〝絶対〟だ」――




 そして、こうも話していた。


 仮に、ただのデコピンに言霊を与えるとする。指先にエネルギーを集中させて、技を発動させる。単純な動作だけど、放たれた力の差を決めるのは感情だ。それに込められた念がどれほどかによって、相手が受けるダメージは大きく異なる、と。


 父さんの言葉通りじゃないか。


 その後、船を一隻渡された俺たちは、海賊の島から追い出され幽霊島に戻ってきた。


 青島隊長とタカラが話し合っている間、俺は穏やかな波音をたてる浜辺に座り込んでいる。そこにやって来たのはレンだった。隣に腰を下ろし、一発背中を叩かれる。




「それでも闇影隊なの?」

「……人を殺したんだぞ」

「弟君がやらなかったら俺がやっていた。それだけの話」

「――っ、あの人には国で待つ家族がいたかもしれないんだぞ!?」

「……結果はどうであれ、これが俺たちの仕事。仮にさ、誤って大猿を討伐したとしようか。弟君は俺に同じ言葉を吐いたかな? 家族がいるから、なんて、甘ったれた感情をぶつけてきた? 今は非難の目で俺を見てるけど、いずれわかる日が来るよ。人間からの混血者への扱いは、獣や妖の扱いとそう違いはない、ってね」

「だからなんだよ……」

「まあ、あえて称賛するよ。よくやった」




 そう言い残して、レンはタカラの家に足を運んだ。


 青島隊長とタカラの話し合いで、青島隊長は今回の任務を破棄すると決定した。


 そもそも、島から出られないと話していたタカラが北闇に依頼する事は不可能なのだ。


 青島隊長が問いただすと、海に出て船乗りの話を盗み聞きしたミツルが手に入れた情報を元に、海賊が自分の名前を使っていると知り、自分が依頼したのだと嘘をついた――、と自供した。


 その結果、タカラと海賊の双方による依頼の奪い合いが生じ、さらには俺が殺人を犯してしまった為、任務続行は不可能だと判断された。


 大蛇討伐は取りやめになったものの、こんな孤島に置き去りにするわけにもいかず、青島隊長は一緒に南光まで行く事を提案したが、俺を見たタカラは静かに首を横に振った。


 帰る前に、幽霊島で発見した変異体について話した。タカラは驚いていたけれど、青島隊長は、「腹から出てきた人間、あれはおそらく遭難した海賊だろう」と言っていた。死体はそのままにしてある。ビゼンが納得すれば、互いに争うことはなくなるだろう。

次回投稿は、3月23日を予定しております。


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