表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/316

第7話・最弱とマヤの家

 太陽が顔を出した頃、なんとか辿り着いた島。浜辺で四つん這いになりながら激しく咳き込む。自己暗示のおかげで俺はまだ生きている。


 海賊の島が小さく目視できる。離れた所まで流れてしまったようだ。島は幽霊島に似ているけど、ここが幽霊島ではないことは一目瞭然だ。


 少し先に焦げた地面が見受けられる。幽霊島にこんな物はなかったし、何よりも――。




「うっ……、これは酷い……」




 近づいて、思わず口と鼻を塞いだ。


 細い棒みたいな物に串刺しになった生き物が、虫集りの中で丸焦げになって死んでいる。形は人だ。あまり長居はできず、他の場所を散策した。人気はなく、一件だけ家がある。


 タカラの家と比べると、二階建てのペンションみたいに綺麗な木造の家だ。あまり広くはない。


 個人情報になりそうな、写真や衣類、生活をしたような痕跡は一つもなく、真新しい椅子に腰を下ろして休憩した。




「ほとんどの生活をあそこでしてたのか……」




 確か、死体のあった場所に鍋などが置かれていた。どうやら、この家は寝るためだけの場所らしい。


 海水を吸って重たくなった上着をテーブルに置き、二階に向かった。そして、俺は我が目を疑う光景を目の辺りにした。




「なんだよ、これ……」




 部屋は3つ。どの部屋にも、ドアの横に名前が書かれた表札がある。その内の1つに俺の名前があるではないか。


 初めは偶然かと思った。ナオトなんて名前はどこにでもいる。けれど、隣の部屋。そこにはユズキの名前があり、廊下を挟んで反対の部屋には、奴の名前があるのだ。




「マヤ……」




 これは偶然なんかではない。この家は、フードの男の家で間違いないし、あの死体はマヤだ。




「ユズキが話していたのはこれか……」




 本気で一緒に暮らす気でいたようだ。あれだけ警戒していたのに、表札を握りしめると、途端に警戒心が薄れていくのを感じた。


 表札を元に戻して、再び家の中を調査する。地下に通じるドアを発見した。包火で足もとを明るくしながら階段を下りていくと、地下からとてつもない悪臭が流れてきた。


 地下には牢屋が1つと、勉強机が1つある。牢屋の中には、幽霊島にいたあの変異体の姿があった。しかしもう死んでいる。悪臭の正体はこれだろう。


 そして、机には書類が置かれている。椅子に座って読んでみた。




「観察研究……。ハンターと違い、目の退化や強い食欲は見られないが、背骨の形態が変化していくようだ。皮膚を突き破り、質の固いトゲとなって、彼らはそれを武器とする。殺戮本能がすでにあるものの、誕生した際に目にした生き物を指導者とする傾向がみられ、絶対服従を誓う」




 他の書類にも目を通す。




「観察研究・2。この生き物は新種とは別物であった。対象にはハンターと同じ強い食欲が見られる。他の新種を食らい、満腹になると動かなくなってしまった。また、形態変化が新種とは異なっており、対象は人と同じ手足を残したまま成長を止めた。しかし、姿は新種に寄りつつ止まっている」




 次の書類には症例報告書とある。そこには信じ難い〝結果〟が書き残されていた。


 どうやら、マヤは変異体を捕獲し、詳しく調査をしていたようだ。姿が似ていることからグリードと一緒に閉じ込めていたみたいだけど、書類にある通り、変異体が食べてしまったらしい。これがあって、次にマヤが取った行動は実験だ。


 自身の能力を使い、耐久性や反応を調べている。




「絶命に達するまで時間はかからなかった。ハンターや新種と比較するまでもなく、対象が示す反応や行動は、……明らかに人間と同じものである」




 急に力がなくなった手から書類が床に落ちていった。もしマヤの見解が正しいとしたら、俺達は、




「人間を……殺したのか?」




 書類を拾って机に戻していると、悪臭で込みあげてこなかった吐き気が喉に押し寄せてきた。


 そうして、考えた。


 タモン様から命を受ける闇影隊の討伐対象は人外認定である三種だ。当主から命を受ける闇影隊の討伐対象は人間。


 きっと、俺が何の迷いもなく言霊を使えたのは、相手が人ではなかったからだろう。しかし、もしも……、もしもの話しだ。海賊があれ以上の危害を加えてきたら、俺は――。




「……できるのか?」




 震える両手を見ながら、呟く。


 今になって、青島隊長が「慎重に行動しろ」と言っていた意味を理解した。こういう事態を避けるべく、青島隊長は一歩下がってビゼンと話していたのだろう。けれど、レンが刺激してしまった。




「急いで戻らなきゃ」




 海に飛び込む前に、マヤへ手を合わせた。時間があれば埋葬してあげたかったけれど、今はこれが精一杯だ。




「また来るから」




 こうして、俺は海賊の島に向かって泳いだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ