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第4話・海賊、襲来

 イオリが海から上がろうとすると、奴は長い足を使って器用に押しのけ、沈んだイオリを抑えつけた。その足をイツキの夢想縛りが食い止める。奴の身体から力が奪われていき、天井からぼたりと落ちてきた。すかさず衝撃砲を放つ。




「これでどうだ!」




 手応えがまるでない。奴の皮膚はゴムみたいにしなやかで、衝撃をあっという間に吸収してしまった。それは、青島隊長の馬鹿力をお見舞いしても同じであった。物理攻撃が利かない。


 相手はひっくり返ったまま起き上がれずにいる。狭い洞窟内で長い手足が邪魔をしているのだ。


 這い上がってきたイオリが半獣化し、奴に馬乗りになった。鋭利な爪を腹にぷつりと刺す。そして、引き裂いた。




「いぎやぁぁぁあ!!」




 甲高い絶叫に耳を塞ぎ、腹から出てきた者に目を背けた。人間の頭部がゴロゴロと溢れ出てきたのだ。


 痙攣しながら、しばらくして息絶えた。ここで狭い場所で良かったと胸を撫で下ろす。


 海水で手を洗いながら、イオリが戦闘を振り返る。




「壁を這って動いた時はさすがに気持ち悪かったすけど、攻撃してくる気配はなかった。それに、俺が攻撃する直前、ケンタみたいに間抜けな顔したんすよ。隙だらけだし、グリードよりは脅威に感じなかったっす」

「確かに、まったく手応えのない一戦だったといえる。とにかく、ここを出よう。急いでタカラさんの家に戻るぞ」

「「了解」」




 イツキとイオリがケンタと一緒に出て、俺はフウカを抱えて穴から出た。最後に青島隊長が出てくる。


 ケンタの片手を互いの肩に回して、そのまま走ろうとする2人。ケンタは人間だ。この方法が確実に早く帰ることができる。しかし、ケンタは頑なに嫌がった。




「ボクは黄瀬班だ! フウカちゃんを運ぶのはボクの役目だ!」

「……だそうです。青島隊長、どうしますか?」




 イツキが困り果てる。




「ケンタよ、一刻を争う事態なのだ。我慢してくれ」

「でもっ」

「だあー、もう! 俺らより足が遅いんだから、こんな時は任せろってんだ!」

「劣等生は黙っててよ。まともに学校に通っていないくせに、イキがるな!」

「んだと、てめぇ!」




 ズリ落ちそうになる丸メガネを定位置に戻して、ついでにイオリを睨みつけることを忘れずに、そして俺の方に来た。フウカを運ぶ気でいるらしい。


 本人の好きなようにやらせようと、俺はケンタにフウカを任せてみた。けれど、彼女は身長が高い。




「ぐえっ」




 ケンタは顔から派手に転んだ。




「……ごめん、俺がやる。今回だけは青島隊長の命令に従ってくれない?」

「なんだよ、偉そうに!!」




 誰のせいで――。喉まで出かけた言葉を飲み込む。強引にフウカを取り上げて、喚くケンタを無視し、先にタカラの家に引き返した。フウカは怪我をしているし、頭を強く打っているのだ。休ませてあげたい。







 あれから幾日が過ぎた。海賊は海のどこかで遊んでいるに違いない。そう思えるほどに穏やかな日々が過ぎていった。眠気を誘うような、海の緩やかな響きは単調に繰り返され、潮の匂いを運ぶ風に思わずあくびが出る。


 砂浜に座って水平線を眺める俺の横に、レンが腰を下ろす。




「……ケンタは?」

「背伸びしてフウカを守ってる。フウカはケンタに優しいからね。俺が何を言っても無駄ってわけ」

「あの2人、仲が良いのか?」




 レンがくすくすと笑う。




「ケンタみたいな奴がなんで卒業試験に合格できたと思う? フウカが助けたからだよ。仲が良いっていうか、ケンタが甘えているだけ。おかげで俺は毎日イライラしてる」




 だから、上級試験の時、1人で動いていたのかと納得した瞬間であった。ここに来るときだってそうだ。レンは青島班の隣を歩いていた。


 いくつ持ってきたのか、ポーチからあめ玉を取って食べるレン。




「祭りのとき、ごめんね。ケンタと重なって見えて、つい本音が出ちゃった」

「もう終わったことじゃん」

「そうだけど、訂正するね。ヒロトの背中に隠れているんじゃないって気づいたから。あれは――」




 突如として聞こえてきた甲高い音に、レンは口を閉じた。2人して大海原に目を細める。


 青島隊長も聞こえたようで砂浜にやって来た。


 青島隊長は遠くを見つめながら一ヵ所を指さした。目を凝らすと、そこには黒い点がいくつか確認できる。




「あれは……」




 その正体に、青島隊長は俺とレンを担ぎ上げ、できるだけ陸の方へと投げ飛ばした。




「――っ!?」

「青島隊長!?」




 瞬きをしたその時、耳鳴りをともなう爆発音が空気を振動させた。俺より遙か頭上を飛ぶ青島隊長の姿や、両腕で視界を守るイオリとイツキの姿、その全てがスローモーションに映し出される。


 いったい何が起きたのだろうか。耳を押さえながらレンが立ち上がり、俺の腕を引っ張り上げ陸地へと走った。振り返ると、そこには何隻もの中型船が確認できた。


 甲高い音に耳を支配され、それから無音の世界が広がっていくように感じた。


 タカラは必死に何かを叫んでいた。その声に、ミツルはヤシの木の根元を力強く蹴り飛ばす。砂浜の中からは、とんでもない大きさのクロスボウが姿を見せた。矢の太さは通常の何倍もあり、2人がかりで引くのがやっとの代物だ。


 その間も、黒い点は放物線を描きながら島をめがけて飛んでくる。


 耳鳴りがおさまった頃、ようやくその正体の音を聞き取る事が出来た。ドーン……という鈍い音に続き、ヒュー……と高い音が鳴る。そう、あれは大砲を撃った時の音だ。




「――っ、青島隊長!!」




 ふらふらと立ち上がった青島隊長に直撃した大砲は、一瞬にして火だるまにした。両手に握る汗に温度はなく、心臓が身体中を鼓動する。


 死んだ――。心の中でそう呟いた。


 呆然とたたずみ、煙が晴れるのをただ静かに待った。膝から崩れ落ちたミツルの目から涙が溢れ、クロスボウの所にいるイオリとイツキも、火の光が消えていくかのように勢いをなくす。


 そんななか、黄瀬隊長だけが平然としていた。




「ゲンさんなら大丈夫よ」




 青島隊長は砂塵の中に立っていた。




「生きのいい海賊どもだ。この俺にオモチャの玉を打ち込んでくるとはな。この程度の攻撃で私を殺せると思ったのなら大間違いだ。現実を思い知るがいい!!」




 腕を組みながら仁王立ちでいる青島隊長が豪快に笑う。一驚し唖然とする俺たちを他所に、青島隊長はタカラに向いた。




「クロスボウを借りるぞ」




 そう言い、軽々とクロスボウを抱える。そうして、狙いを定め弓を引き絞って構える。血管が浮き出る腕はめりめりと音を立て、目を細めたのと同時に中型船めがけて打ち込んだ。すると、一隻が爆発し空高く黒煙を巻き上げた。大砲の中に直接矢を放ったのだ。


 中型船の姿が見えなくなって、安全のためタカラの家に身を潜めた。


 まさか、なんの音沙汰もなく現れるだなんて――。少し甘く見すぎていた。

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