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第18話・空神

 リュウシンを見られたのだ。もう何も隠す必要はないし、言葉を選ぶ必要もない。楽に事を運べる。僕にはずっと気になっていたことがあった。




「僕もお前に聞きたいことがある」




 それは、「父さんは俺に嘘をついたのか?」という、とてつもなく大きな独り言を耳にした時だ。トウヤと交渉した会話の中で、こいつはいったい何に引っ掛かりを感じたのだろうか。




「それは言えない」

「じゃあ、僕もお前の疑問には答えない」

「卑怯だぞ!!」

「そうか? ただの交換条件だろう」




 こいつがぶつけてくる質問には察しがついている。どこまで答えるか悩むところではあるが、わざわざこのタイミングで接触してきたということは、おそらく――。




「ぐずぐずしていると、トウヤが帰ってくるぞ」




 理由はこれだろう。互いに内密にしておきたい情報を共有するのだ。卑怯も何もあったものか。




「わかった。場所を変えるぞ」




 ヒスイが選んだ場所は、僕とキトが泳いで渡ってきた河口だ。隠れ家からかなり離れている。よほどトウヤに知られたくないのだろう。




「実は、龍の声が頭の中に聞こえてきたのは今回が初めてじゃない。結構前からあったんだ。俺は自分が重度に近づいている証拠だと思っていたし、父さんもそう言っていた。だけど、あの日……龍はこう言った……」




 王家は、獣妖人(じゅうようじん)と人間を蔑んだ生き物を、何百年も前から血眼になって捜している。トウヤがそう話した瞬間、龍は答えた。「鬼に救われておきながら知らぬ顔を通すか。ジャシンよ、貴様の血肉は子を騙すほどに哀れな生き物へと変貌した」、と。




「子どもを騙したって、俺のことだろ?」

「多分……」




 リュウシンは僕のことを〝お嬢〟と呼んでいる。ヒスイの考えは間違っていないだろう。




「だから、父さんは俺に何の嘘をついたんだろうって……。そんなもんだ」




 リュウシンの言葉は僕の推測の裏付けとなった。やはり、トウヤは王家が戦争を起こしたことを知っている、とんでもない長寿の生き物であることを。しかも、情報までくれた。




(鬼、か……。この世界に存在したとはな……)




 タモンに良い土産話ができた。




「お前はあの龍と普通に会話しているみたいだったけど、あいつはなんだ?」

「東昇の国を守っていた土地神、名をリュウシンという。いわゆる神様だ」

「かっ……」




 ヒスイが激しく咳き込む。




「重度よりも強大な生き物だ。誇らしく思え」

「今の俺には嫌味すら届かない。リュウシンってあれだろ? 封印術士の手違いで子どもに封印されたってやつ。はは、父さんは俺を始末する気でいたんだな……」

「そうじゃない。確かに始末する方向でいたと話していたが、あれは過去の話だ。実際は、王家と封印を解く方法を模索していたんだ。僕が南光の牢屋にいた頃に確かめている」

「だといいけど。わかるか? 俺がこんな海まで足を運んだ理由。隠れ家に戻れないんだ。怖くて、怖くて、仕方がない……」




 唯一の居場所をなくしてしまったと、ヒスイは水平線を見つめながらそう言った。自暴自棄になり、何度も地面を拳で叩いている。


 そこへトウヤが現れた。気配がないとは実に厄介だ。包帯の裏側から、よくも話してくれたなと、殺気が送られてくる。


 当然だ。僕は威支の内部を破壊しにきたのだ。確実に摘んでいく。


 トウヤの後ろにはバツの悪そうな顔をした犬の兄弟がいる。2人揃って僕に合掌し頭を下げる。


 似たような状況に立たされたことがあった。あれは確か、青島がナオトに僕の体質について話した時だ。双子と同じような顔をしていた。




「ヒスイ、お前の質問は後回しだ。先にトウヤと話す」




 リュウシンとは獣語で話した。情報は漏れないだろう。そう軽い気持ちでいた。けれど、僕はここで最大のミスを犯したことに気づく。




「コウマから話しは聞いた」




 アマヨメで学んだはずがすっかり忘れていた。そう、妖は獣語を聞き取れるのだ。あの時、コウマは妖化したままだった。


 無意識に、足が海の方へ後退した。




「貴様、空神(くうしん)を解放したな」

「なんだ、そいつは」

「ふざけるのも大概にしろ!! 貴様はリュウシンにラヅキを解放したと話した、そうだろう!?」

「だったらなんだ」

「ラヅキがその空神だ!!」




 半獣人の能力、言霊。自然の能力を借りた、人外なる能力。五大要素である、地・水・火・風・空が主な力となる。しかし、言霊の習得にはある条件があった。それは、触れたことがあるもの、だ。よって、地・水・風の能力者は数多く存在する。


 火の能力は稀であり、空は伝説の能力とされている。なぜなら、空に手は届かないからだ。


 トウヤの気迫に押されるも、こちらも黙ってはいられない。




「仮にラヅキが空神だとして、お前はその情報をどこで手に入れた」

「どうでもいい!! 問題なのは、ラヅキの封印を解いたことだ!! 奴が何者なのかわかっているのか

!?」

「神、だろう?」

「ただの神ではない、あいつは破壊神だ!! 王家や人間を地獄へ葬った元凶なんだぞ!! ましてや、リュウシンのような生き物は奴に仕えていた最悪の兵士だ!! そいつにラヅキを解放したと伝える事が何を意味するのか、貴様は何もわかっていない!」

「戦争が起きる。お前が望んでいることだ」




 騒がしい口がようやく閉じた。ヒスイの目の前で告げたからだろう。




「身を隠すために幻惑の森近くに隠れ家を置いたんじゃない。ラヅキを捜していたんだな」

「だったらなんだ」

「どうするつもりだ」

「威支の目的は世界統一。神は不要だ」

「…………つまり、僕の父親を殺すわけか」

「――っ、貴様……」




 ようやく、土地神を封印した訳がわかった。


 噴火した山を流れる溶岩のように、僕の怒りが狼尖刀に流れ込む。狼尖刀が紫の炎で包まれた。




「させない」




 やっと手に入れた、僕を想ってくれる家族を喪ってなるものか。


 トウヤと僕の戦いが幕を開けた。

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