表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/316

第17話・仲直り

 これは記憶の共有みたいなものだろうか。丘に戻って、ヒスイは込みあげてきた物をそのまま嘔吐した。反動でハクマが落ちる。すかさずコウマが自身の背中に隠した。


 かといってヒスイの暴走が収まったわけではない。むしろ、悪化している。それも本人の意思に背いてだ。


 吐き終えて体勢を整えると、急に大きく背中を反って空を仰いだ。




「がっ……。やめ……」




 槍を支えにして真っ直ぐ立とうとするも、ヒスイの肩から先が消えてしまう。バランスを崩して倒れた。今度は足が消える。すると、槍を形成したときのように腰から先が変化し始めた。一定のスピードで瞬く間に別の生き物へ変化する。


 ハクマがゆっくりと起き上がった。傷はもう治りかけている。




「これが正体かよ。こんな馬鹿でかい龍とどう戦えっての……」




 尻尾は丘の向こうまで伸びて、終いには海の方へ投げ出されるほどに長くなった。これはまだ完成形じゃない。土地神はもっと巨大なはずだ。


 ここで、ようやく僕は動いた。


 ヒスイの横で腰を下ろす。




「お前がなりたがっていた重度になれたな」

「こんなの重度じゃない。俺の中に誰かがいるっ」




 突然、巨体が波のようにうねった。




「奴が出てくるっ……」

「この大きさならまだ大丈夫だ。コウマの記憶で何が起きた」

「わからないっ。ただ、共鳴しているような感覚だった。俺自身がくだらないって思っても、その気持ちを上塗りされるんだ。それで、頭の中に聞こえてきた。仲間って……」

「――っ、それは確かか!?」




 ラヅキは僕にすべてを話したわけではなさそうだ。とにかく、ヒスイの状態を落ち着かせよう。


 あまり使いたくはないが、やむを得ない。ヒスイの身体に手を置いて獣語で呼びかけた。




『ユズキだ。帰ってきたぞ』




 すると、ヒスイの身体が強烈な光を放った。あまりの眩しさに尻をつく。目を擦って正面を見ると、そこには濃い緑色の鱗に、頭部から首元へ曲がった大きな角をもつ龍がいた。ヒスイの身体はもとに戻っている。僕の視線を追いかけて慌てて飛び起きた。




「大声をだすな」

「喉でせき止め状態だ」




 コウマとハクマもこちら側に逃げてくる。一先ず、これで休戦だ。




『ラヅキを解放した。記憶も見た。ただ名前をまだ聞いていない』

『リュウシン……。それが名だ。お嬢、長らく待ちましたぞ』

『そのようだな。すまない……』




 低くて、身体の芯にまで響く冷たい声。リュウシンはヒスイに封印されるまで、一日一日を脳裏に刻み、数え、憤りと闘った。


 ここはラヅキ達の世界。なのに、どうして人間のようなちっぽけな生き物に(こうべ)を垂れて生きなければいけないのか。憎しみは日に日に風船のように膨らんで、空気を抜く前に封印されてしまった。




『我が友に説き伏せられていなければ、あの国は奈落の底に沈んでいただろう。感謝せよ』

『友とは誰だ?』

『あやつは蒼帝・ジコクと名乗った。国の崩壊を阻止する代わりに、奴は小僧の命を保証し、国を出た。真実を求めてな』

『真実……』

『オウスイとトア、あの忌まわしき小娘共の墓を暴くことだ。お嬢、あやつは〝全てを知った〟唯一の人間だ。そんな弱小集団よりも心強い味方になる。お嬢が名乗れば喜んで手を貸すだろう』

『…………リュウシン、お前どこまで見たんだ』

『後はラヅキ様に任せる。どのみち、このままでは何も出来ない。これまでと同じよ。憤りに苛まれるのだ』




 空高く上昇して、リュウシンはヒスイを見下ろした。


 そして、




『仲間を傷つけるな。後悔することになるぞ』




 言いながら、放たれた矢のようにしてヒスイの中へ戻って行った。


 氷上が溶けていく。濡れた草原の上に僕達は立っていた。コウマが妖化を解いてぺたりと腰を抜かす。緊張の糸が切れたようだ。


 何かを語る前にまずすべきことをする。


 完全に直すことは出来ないけれど、割れた石同士を支え合うようにして置いた。もちろん見栄えは悪い。




「これが限界か」




 ヒスイが視線を落とした。




「お前には関係ないだろ。なんで手を出すんだ」

「こんな性格でも良心はある」

「双子を助けなかったくせに、よく言うよ」

「暴走の発端は双子だ。だが、お前も言い過ぎた。親を馬鹿にするなと、僕にそう言っただろう」

「――っ……」

「ましてや人の外見に触れるなどあってはならんことだ。謝ってこい」

「なんで俺が!? あいつらが悪いんじゃないか!!」




 振り返って双子を睨みつける。




「墓の件はな」

「じゃあ、なんでっ」

「どちらが先に謝るべきか、そんなくだらない事で腹を立てているのならお前はまだ子どもだ。トウヤに甘えた結果がそれじゃないのか? すがっていたのはお前も同じだろう」

「気に食わない」

「だろうな。だけど、僕なら謝るぞ。記憶を見たんだ。尚更な」




 ハクマの傷の具合を確かめるコウマに歩みを寄せる。そうして、胸に手を触れた。やはりか――と、納得する。


 顔を真っ赤にして、胸を押さえながらコウマは背を向けた。




「女か。なぜ性別を偽っている」




 僕の声にヒスイが目を丸くする。記憶を見て気づかなかったらしい。まあ、くだらないと、冷めた気持ちで観賞していたのだ。わかるはずもない。




「こっちの方が溶け込みやすい。それだけだよ」

「ヨウヒがいるだろう?」

「ボクなんかより遙かに強い! でもボクは……弱い……」




 滑り込んでヒスイが間に入った。顔は青ざめていて手は震えている。ようやく失態を受け入れたようで、癒えかけている傷口に眉を寄せた。




「ごめん……。俺、とんでもないことを……」

「やめろよ!! ボクが女だからって謝るな!!」

「それでも、男を殴るのと女を殴るのとでは意味が違う。これは許せないことだ」

「…………ボクの方こそ、お墓を壊しちゃってごめんなさい。ヒスイの言う通り、大切な人を失った痛みはすごくわかるよ」




 そっぽ向くハクマの横腹をコウマが突く。




「ご、ごめん。もう喧嘩なんかふっかけない」




 これで一件落着だろう。盛大なため息と共に精神的な疲労を吐き捨てたところで、隠れ家に踵を返す。後は本人同士で事足りるだろう。


 そんな僕を追いかけてきたのは、またしてもこいつだ。




「まだ話しは終わっていない」




 ヒスイが僕を呼び止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ