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第14話・オウスイとトア

 イッセイの監視及び王家内視察の任務に抜擢された犬の兄弟は、神経を尖らせながら進んでいる。トウヤの期待に応えようと意気込むせいで、気が張り詰めているのだろう。なにせ、ヒスイもいる。互いに闘争心を抱いているようにみえた。


 こんな重い空気になったのは、言わずもがなイッセイが原因だ。よほど自分の力に自信があるのか、彼らを蔑視するような態度でいる。これが余計に火に油を注ぐ事態となった。


 だが、こいつは高等封印術士だ。強化などという自然の摂理に逆らったとんでもない能力を持っている以上、下手に刺激できないのだ。


 けれど、僕には関係のないことだ。




「ここから出せと頼まれたかと思いきや、今度は地獄送りか。あそこから出してやったというのに感謝の気持ちもないとはな」

「その話しはヨウヒから聞かされた。記憶にない事を信じろと言われても、それは少し無理があるというものじゃないか?」

「自らまいた種だ。あの煙を恨むんだな」




 イッセイがため息をつく。




「それで、俺にどうしてほしいんだ」

「人間にそんな態度をとられると過去にされた惨劇を思い出すんだ。だから、刺激しないでくれ」

「つまりは、なだめろ……というわけだな。いいだろう」




 救いなのは、このようにイッセイの物わかりが良いという点だ。避けて通れる道は迷わず避けているような感じがする。地獄送りの発言だって最終手段を前提としていたし、争いは好まないのだろう。あるいは、白草家じゃない人間が薄紫色の瞳を持つことに疑念を抱いているか、だ。


 どちらにせよ、潜入するのは王家だ。ここから先、躓くととんでもないことになる。この流れを持続させることが出来ればいいが。


 イッセイは犬の兄弟に昔話をし始めた。確かに見た目よりも子どもっぽい犬の兄弟だけど、なだめる方法はそれかと、なんだか期待を裏切られたような感じだ。だけど――。




「遠い昔の話しだ。君達が今向かっている王家には唯一の女帝が存在した。彼女の名をオウスイという。オウスイは闘神(とうしん)として人々から恐れられ、崇められていた。オウスイにはトアという名の妹がいた。彼女は醜い化け物であった」




 この話には興味がある。ガイスが話していたオウスイ派とトア派の派閥の名がここで聞けるなんて。




「オウスイは、人々を守るために数多くの生き物と戦った。しかし、真の目的はトアを守ることにあった。人々はトアを蔑み、時には緊迫した空気から逃れようとトアを的にしたこともあった。それを阻止すべく、闘神であり続けたのだ」




 オウスイは女帝ながらも玉座につくことはなかったとガイスは言っていた。この事から武闘派のイメージがつき、オウスイ派閥ができたとも。地域によって伝わり方が違うのか、ともかくこれは知らない話しだ。




「そんな姉に代わって人々を守っていたのはトアだ。罵声や暴力などものともせず、常に民へ寄り添っていたそうだ。後に、その姿で戦いを終わらせた、と言い伝えられている。自身に宿る力を解放して国を守ったのか、あるいは人々を殺したのか……。今では知る由もないが、後者が根強く世に蔓延っている」

「それは変だな。トア派は武力を好まないはずだ」

「トア派の大半が混血者だという事を忘れてはいけない。トアは化け物だったのだ。人々を殺したとされるのは、子孫に伝えて回ったのが人間だからだ」

「つまり、トアは混血者だった……」

「少なくとも、俺はそう聞かされて育った。よって、君達が人間に嫌悪を抱き、あるいは恐れていようとも、俺は君達を恐れていないし敵意も抱いていない。むしろ、トアの子孫であるのなら、その力を間違ったことに使わないことを切に願うばかりだ」




 最期の言葉にはカチンとくるものがあった。




「切に願うだと? ならば、お前達はなんだ。王家の依頼だがなんだか知らんが、四大国にいる巨大な生き物を人の子に封印するなど、鬼畜の所業もいいところだ。彼らは人生を奪われたんだぞ。加えて、お年寄りを幽閉するときた。何が恐れていない、だ。どっちが化け物か考えてみろ。人間は恐れられて当然の生き物だ」




 イッセイは何も答えなかった。


 そうして、僕とキトが脱出した地下牢に続く通路の出入り口までやって来た。見事に封鎖されている。




「離れていろ。わしがやる」




 獣化したイザナが突進する。前よりも出入り口が広くなったような気もするが、別にどうってことないだろう。




「よいか、作戦はこうだ。王家への侵入はリスクが大きい。故に小隊ほどの人数で遂行する。コウマとハクマは王家内の偵察を、ヒスイは地下牢の見張り、ユズキとイッセイはヘタロウの解放だ。わしはここで見張りをする。王家とはまだ手を切っておらん。絶対に見つかるんじゃないぞ」




 先頭を行くのは僕だ。互いに服を掴んで、はぐれないようにしながら進んでいく。キトが破壊した隠し通路の入口に辿り着くまで、犬の兄弟は「臭い」「帰りたい」と終始文句を言っていた。


 気持ちはわかる。僕が閉じ込められていたときは、外の出入り口には柵しかなかった。しかし、今では外はより頑丈にも、そしてキトが破壊したはずの壁も元通りに修復されている。


 外に繋がる通路には血がべったりと染みついていたんだ。血の生臭さが充満して長くは居られない。




「ボク達が壊すよ」




 修復された壁を、身体の一部だけ獣化した大きな尻尾で叩き壊す。中には誰もいないようだ。


 それから、イザナの指示通りに全員が動いた。犬の兄弟とヒスイは上へ、僕とイッセイはヘタロウが幽閉されている納屋へ向かった。

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