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第12話・衰弱した高等封印術士

 一軒一軒、小窓から中を覗いて確認して回るヒスイは、お手本のごとく壁に背中を張りつけて周囲の警戒を怠らずに進んでいる。それに比べて、目的がはっきりしているので、石垣に囲まれた民家を無視して進んでいく僕。


 顔を半分だけ覗かせながら、ヒスイが急に僕を呼び止めた。




「何してんだよ、この馬鹿っ」




 静寂な場に突然吐かれた声。心臓が跳ね上がり、何もないところで躓いて転ける。勢いのままに物入れに使われている樽へ頭をぶつけた。


 樽がぐるんぐるんと回転し、ひっくり返りそうでひっくり返らない状態を繰り返す。おかしなものだ。すぐに押さえればいいものを、こういった時は脳が正常に作動してくれない。手をかざして静まるよう祈るも、不幸にもガラガラと大きな音をたてながら豪快にひっくり返った。


 かざしていた手の平を握り、身が縮まりこむ。僕の動きは完全に静止した。


 背後からそっとヒスイが歩み寄る。




「誰も起きやしない……」

「助かった……」

「ちょっと来てくれ」




 小窓から中を見るように言われる。親子が綺麗な川の字ですやすやと眠っている他に変わったことは何もない。


 他の家も一通り確認した。そうしてヒスイが伝えたいことを悟る。




「みんな寝相が良いだけじゃないのか?」




 なんて言葉で誤魔化してみるも、心境はヒスイと同じだ。どの家も、全員が綺麗な川の字で全く同じ姿勢で眠っているのだ。




「何かがおかしい……。どうする?」

「僕はあの大きな家に行ってみるつもりだ」

「見事に順序をすっ飛ばしているな。まあ、この際なんでもいいか。ここよりはマシな事を願う」




 あの音で誰も起きないのだ。堂々と目的地に向かった。


 天守だけ独立している三階建ての城を見上げる。




「まあ、お決まりはてっぺんの部屋だよな」




 そう言って、軽々と屋根へ飛躍する。高等封印術士がいるにしては見張りは一人もいないし、封印や結界のような物も見当たらない。そうでなければキトが確認することは不可能だけど、これがまた警戒心を抱かせる。あまりにも手薄だ。


 二階へ、三階へと屋根を上がっていく。窓は一つしかない。覗き込むと、男性が一人、布団で眠っている。年齢は30になる手前といったところか。




「本当にいた……」

「だろ。そんなもんだって」




 ここでまた心臓が跳ね上がった。どうやって封印術士であるかを確かめるのか、ヒスイに聞こうとしたその時だ。刹那、男の顔がこちらに向いたではないか。


 隠れる間もなかった。目が合ってしまい、2人して身体が硬直する。


 先に我に返ったのはヒスイだ。窓を突き破って、男が起き上がる前に馬乗りになり、腕で首を抑えつけた。もう片方の手は男の口を封じ込めている。


 男は目を見開いてヒスイを凝視していた。




「騒いだら首を落とす。いいな?」




 小刻みに何度も頷く。ヒスイはゆっくりと口を解放した。その瞬間、男は勢いよく立ち上がった。転げながらヒスイが言霊を唱える。




龍幽獄(りゅうゆうごく)




 遠くから水が跳ねる男が聞こえた。すると、神霊湖の水が龍の形となって窓に向かってきたではないか。咄嗟にしゃがむと、頭上を龍が通り過ぎていった。男の目の前で形状変化し、息を吸う隙間もない正方形の水槽となった。男は中に閉じ込められている。




「大人しくしていればいいのに、ウザいんだよ」




 その状態でヒスイに声を返そうとでもいうのか。壁を叩いて何かを喋り始めた。ゴポゴポとするだけで内容はわからないけれど、必死になって伝えようとしている。


 部屋の中に入り狼尖刀で吸収、そして男を解放した。何度か咳き込んで呼吸を整える。




「邪魔するな」

「殺すなと頼んだはずだぞ」




 男が俯きながら僕の足首を掴んだ。




「すまない、巡回かと思って焦ってしまった。あの煙を突破してくるだなんて、君達は何者なんだ」

「ただの誘拐犯だ」




 僕の返事に男が顔を上げた。怯えていない。むしろ、切願の眼差しだ。




「頼む、ここから出してくれ……」

「まずは何者かを答えてからだ」

「俺は高等封印術士だ」




 よく見ると、立ち上がれたのが不思議なくらいに衰弱しきっていた。よっぽど巡回が怖かったともいえるが、とにかく痩せ細っていて、僕の足を掴む手は尋常じゃないくらいに震えている。


 そして、何よりも――。




「ヒスイ、こいつの目を見てみろ」

「…………――っ、どうなってるんだよ。聞いてないぞ」




 男の目は薄紫色の瞳をしているのだ。




「お前、名前は?」

白草(しらくさ)イッセイ」




 走流野ではない。マヤと同じく、走流野家の血筋ではない者が同じ瞳を持っている。




「急いでここから出よう。何やら様子が変だ」

「この国は最初から変だろ。ったく、頭が痛いぜ」




 イッセイを2人で抱えながらもと来た道を戻る。引きずられている足が痛そうだけど仕方ない。


 井戸の前で立ち止まると、イッセイは力なく笑った。




「はは……。だから井戸は気をつけろと忠告したのに。今となっては救いだな……」




 それだけ言うと意識を手放す。


 こうして、僕達は光影の国を無事に脱出した。初めは何もしていない事に不満を吐露していたヨウヒとシュエンだったけれど、イッセイの瞼をこじ開けてやれば、その瞬間に言葉を失ってしまった。


 獣化したバコクの背中にイッセイを乗せて隠れ家に引き返す。黒い馬を先頭にして後に続きながら、トウヤはイッセイの姿に目を細めていた。

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