第9話・貢献
初対面後からマントを着ていないトウヤと、そもそも隠す気がない犬の兄弟は横に置いておこう。まずは馬の重度・バコクだ。年齢は僕よりも少し上くらいに感じるが、重度は人間と成長の仕方がまるっきり違うため定かではない。
素性を見られるのが怖いのか、目はオドオドとし、他所を向いて話す。
「えっと、まず名前はバコク……。馬で、重度で、えっと……。見ての通り、まだ獣化は進んでいません。顔は人間だけど、足とお尻は馬で、メンバーの中では最速です。あとは……」
足を隠すために履いている長ズボンの裾を上げて、傷を見せてくれた。
「俺の足を噛んだ男を捜しています。そいつを殺します。以上です」
弱々しく見えてもやはり威支のメンバーだ。発言が恐ろしい。なによりも、黒い髪と若干俯きがちな姿勢がナオトに似ている。
次に羊の重度・ヨウヒが薄い黄色の髪の毛をいじりながら前に出る。
「ハロー。あたしの名前はヨウヒ。メンバーの中では誰よりも自由人ね。自慢なのは綺麗に巻かれたこの髪と、横から生えている立派な角。あとは爪も綺麗なの」
手を前に出す。蹄に色を塗っているようだ。黄色と桃色のネイルが可愛らしい。
「バコクと同じく獣化は進んでいないわ。よろしくね」
まん丸の目に長いまつげでニコッと笑って、猿の重度・シュエンの背中を押した。
「もっと凄い奴がいると言っていたな。トウヤのことなんだろうけど、そいつにメンバーに認められた。言うことはあるか?」
「だあー!! やっぱお前ムカつく!!」
茶色の髪の毛を掻きむしりながら、顔を真っ赤にしてそう怒鳴る。特徴的なのは身長ほどある細くて長い尻尾だろう。タマオと同じくまったく獣化は進んでいないようで、獣化するとあの大猿になるとは信じられないほど、ほとんど人間に近い姿をしている。
尻尾で僕の頭を軽く叩きながら嫌々そうに自己紹介する。
「名前はシュエン。終わり」
「もっと何かあるだろう」
「めんどくせえな!! 俺を殺人犯に仕立て上げたクソ親父を葬り去る!! これで終わりだ!!」
「酷い奴だな。僕も手伝おう」
「あんな男に女を近づけられるかってんだ。お前みたいながきんちょにあいつの危険さがわかるとは思えないけど、教えてやる。洞窟にあった骨、あれぜーんぶ、親父が殺した女の骨だぜ」
それは僕達がハンターの巣だと予想していた、大猿と一戦を交えた場所にあった骨のことだった。地面を隠すほどに散らばっていた骨を思い出して、背中がぞくりとする。
「わかったら、絶対に首を突っ込むな。お前は女なんだからな」
最後に、猪の重度・イザナ。青島よりも筋骨隆々な大男が、肩から太くて大きな角を見せて仁王立ちでいる。頬から顎まである髭は首まで伸びていて、まるで山賊のような出で立ちだ。彫りが深くて、いくらか切れ上がった目が僕を見つめている。
「わしはイザナだ。トウヤの右腕であり、メンバーで最も戦力を誇る猪だ。シュエンはわしが拾ってきた子どもなんだが、先程の無礼を許してやってくれ。礼儀知らずの野生児のうえに、極度の人間不信、さらには二重人格ときた。わしでも手に負えん暴れん坊だ。そのうち慣れるだろう」
「努力する」
「これで全員の自己紹介を終えたわけだが、お主はわし達にどう貢献するつもりだ。獣化できるわけでもなく、妖化できるわけでもない。あるのは腕から生える爪のみよ……。答えよ」
若干和みムードだった空気ががらりと変わる。今にも丘から突き落とされそうな圧が押し寄せてくる。
「説明だけでは理解できないだろう。証明してやる。誰か獣化してくれないか?」
「なーに? 面白そうじゃない。私がやるわ」
そう言って、唯一の女性、ヨウヒが獣化した。馬鹿でかい羊が鱗粉を撒き散らしながら立っている。
「あまり吸わない方がいいわよ。眠くなっちゃうから」
楽しそうに僕の出方を待つヨウヒへ、獣語で話しかけた。
『厄介な粉だな。そいつで眠ったところを襲うのか?』
「え……。なに? どうして?」
人語で慌てふためくヨウヒ。それもそのはず。身体が小さくなっていき、強制的に獣化が解かれていくのだから。
状況が飲み込めないヨウヒと違って、イザナは目を細めた。
「この声は……。西猛で起きたあの現象はお主の力か」
「そうだ。僕はお前達の獣化を防げる。人に戻れないなどという不安を抱える必要がなくなるぞ」
シュエンがぽんっと手の平に拳を叩いた。
「あの時の!」
「お前のおかげで気づけたんだ。どうして獣化が解かれるのか、原因はわからないが。……ともかく、これが貢献になれば有り難いんだが、どうだ?」
イザナがトウヤに向き、トウヤはこくりと頷いた。判断を仰いでイザナが話す。
「威支にある、たった一つの掟を話しておこう。それは、仲間の誰かが獣になってしまった場合、わし達で殺すというものだ。そうしてまた生まれ変わりを保護する。獣になれば意思疎通は愚か、仲間の顔までも忘れ、手当たり次第に殺戮を繰り返す」
「つまり、貢献できるというわけだな」
「そうだ。お主の力、是非とも威支に生かしてくれ」
こうして無事に話し終えたところで、トウヤは作戦会議を開いた。
いよいよヘタロウ救出への道が開かれる。




