第8話・交渉2
威支のメンバー入りを果たしてから、特に警戒が必要な者はいないと思っていた。しかし、トウヤは違う。話しを聞いてから、僕の周りの空気は張り詰めている。それをこの男は感じ取ったようだ。
「急に警戒し始めたな。それとも王家に怖じ気ついたか……。なんにせよ、王家を敵に回すということは、世界中から味方がいなくなるということだ。それでもお前は俺に手を貸すのか? 何を野望とするかも知らぬまま、威支に身を投じる事ができるのか?」
「お前こそ、僕が何者かも知らぬまま脅し続ければ後悔することになるぞ」
「ヒスイの力を無効化したあの爪か? なら問題はない。武器には必ず限界がある。どちらが先に破壊されるか試してやっても構わん」
「そうじゃない、この愚か者め」
黙って話しを聞いていたヒスイが僕達の間に立った。目尻を吊り上げて僕を睨んでいる。
「馬鹿にしたら俺が許さない」
僕が警戒する理由にヒスイは気づいていない。当然ではあるが、王家を語りながらトウヤはある爆弾発言をしたのだ。ラヅキに罪悪感を抱いていたけれど、ここに来てようやく、あの記憶を見て良かったと心の底から思えた。
「戦争……、と言ったな。いつの時代の話しだ」
ヒスイ越しにトウヤが答える。
「お前の中では、王家よりもそこが引っ掛かったのか? 見込みのなさそうな子どもだな」
「そうかな? 僕が知る限りでは、戦争が起きたのはずっと大昔だ。多く見積もって1000年以上も前の話を、なぜお前が当事者のように語ったのか、その訳を説明しろ」
僕が生きた時代は戦争後で、ラヅキが眠っていた木は樹齢を物語っていた。それから大きな戦争が起きたという話しは耳にしていないし、歴史上にも残されていない。
トウヤがヒスイを手で退かし、僕と至近距離で歩みを止めた。
「…………なぜ知っている。これは隠蔽された歴史だぞ」
さあ、ここで餌を撒こう。
「もう一度だけ言っておく。僕が何者かも知らぬまま脅し続ければ後悔することになる。その上で頼んでおく。僕は王家に捕らわれている老人を救いたい。お前達が王家に売った老人は大切な情報を握っている。手を貸してくれ」
こうして、僕はトウヤの元を去った。ああやって冷静に強く言ったものの、心臓が忙しなく動いている。正直、近くまで来たとき、殺されるんじゃないかと肝を冷やした。
洞窟から離れてため込んでいた酸素を盛大に吐き出す。そうして、振り返る。
「まだ怒っているのか」
ヒスイが着いてきたのだ。とても苛立っているようで、地団駄を踏むかのように貧乏揺すりをしている。あまりの激しさに思わず噴き出してしまった。
「何が可笑しい!!」
「お前の足だ」
我に返って揺すりを止める。
「何か言われる前に謝っておく。僕の態度が気に食わなかったんだろう? すまなかった」
「そうだけど!! ……そうじゃない。なんなんだよ、あれ……」
今度は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「父さんは俺に嘘をついたのか?」
「僕に聞かれてもな」
「独り言だ!!」
「す、すまない……」
虫の居所が悪いようだ。その場を去って、新鮮な空気を吸うために海が見渡せる丘の上にやって来た。
チョウゴと来た時は気づかなかったが、丘の一番高い場所に石碑のような物がある。近づいてみるとそれは墓だった。誰か来ているようで花が供えてある。このお墓はかなり古いようだ。名前が彫られてあるけど読めない。
「母さんの墓だ。俺が生まれた時に死んだ」
まだ着いてきていたようで、ヒスイは墓の前で腰を下ろした。
「父さんって、トウヤのことか?」
「義理だけどな。12年前の大地震の時、死にかけの母さんが俺を渡したんだ。人間とは体質が違うから、トウヤが威支に置いてくれた。それからずっと父親代わりになって育ててくれた。だから、馬鹿にしたら許さないからな」
墓に手を合わせるヒスイを、強引にこちらへ向かせた。龍という伝説じみた生き物の力が宿っている理由がわかったからだ。
「お前、重度じゃないな?」
僕の手を払って勢いよくヒスイが立ち上がる。
「俺は重度だ!! まだ皆のように力が発揮できないだけで、いずれ獣化する!!」
「それは……」
そこまで言って口を閉じた。僕から話して良いのだろうか――、と悩んだのだ。トウヤに信頼を寄せているこいつに、他人の僕が真実を話して、親子関係が崩れるようなことになれば――。
「なんでもない。僕の勘違いだ」
トウヤは東昇にいたとチョウゴは話していた。こいつは、おそらく東昇の土地神の器だ。出向く手間は省けたけれど、目的を果たすために邪魔な土地神を排除したのに、どうして威支で保護しているのだろうか。
何はともあれ、提供された居場所に依存しているような様子が垣間見られた。タマオの言う通り、こいつは無害だ。
そこへトウヤがやって来た。墓に手を合わせてから僕に向く。
「賢いガキだ。あれのどこに選択肢がある」
「僕は釣れた魚を逃がさないぞ?」
「鼻から考える余地を与えず、よくそんなことが言えたものだ」
トウヤの言葉を合図に、タマオ以外の戦力メンバーが勢揃いした。
「正式に威支の一員に加える。お前の要請に応えてやろう」
チョウゴが僕にマントを手渡した。背中には赤い糸の刺繍で威支とある。
「さあ、ユズキに素性を見せてやれ。重度がいかなるものか、まずは知ってもらおう」
1人1人、マントを脱いでいく。僕の目の前には様々な顔ぶれが並んでいた。




