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第7話・交渉1

 あれからもうしばらく出方を窺ってみたけれど、タマオやコウマ、チョウゴ以外のメンバーと関わる機会はなかった。僕がいるかどうか確認することはあったとしても、これっぽっちも接触してこない。明らかに警戒されている。


 今日もまたタマオの手伝いで畑仕事だ。野菜を収穫しながらそうこう考えていると、だんだんと腹が立ってきて、ついには優しく抜いていた野菜を乱暴に引っこ抜いてしまった。驚いたタマオが野菜片手に尻をつく。




「ど、どうかなさいましたか?」

「なんだかよくわからんが、外部にいる仲間とは手を切ったんだろう?」

「そのようですね」

「現段階でこの組織は誰が仕切っているんだ。目的があるなら先導者が必要だろう」

「最初は皆さん自由でしたけれど、トウヤ様が中心になってきている事は確かですよ」

「今日は居るのか?」

「ええ、いつもの場所で休まれているはずです」

「ちょっと話してくる」




 いつだってそうだった。一つのことをやり遂げるのに多くの時間を要し、その間に事は深刻さを増しているのだ。


 ナオトや、土地神の器となった子ども達に何か起きれば、僕は思わずラヅキに言ってしまうかもしれない。


 この世界を壊してくれ、と。


 けれど、生まれて初めて〝生きたい〟と思える世界にやって来たんだ。いつものように諦めて死ぬなど簡単に選択することはできない。


 頭の中が、ナオトとイツキと一緒に遊んだ公園でいっぱいになったところで、大将になりつつある男の前に立つ。トウヤは「ようやく来たか」と言って、楽な姿勢のまま包帯越しに僕を見据えた。隣にはヒスイもいる。




「俺のところに来たということは、やはりお前には目的がある。そもそも、チョウゴは皆を仲間だと思っていても、組織のやることには大反対だ。そんな奴が連れてきた子どもだ。ただ居場所を求めてきたわけではないんだろう?」

「話しが早いな。面倒な時間は省けそうだ」




 トウヤが微笑する。




「それで、俺に用とはなんだ」

「確認したい。威支にとって王家は敵か味方か。返答次第では僕は威支を出る。意見が合致するならば、この体質を提供する」

「ほお、この俺に交渉か。その話しをする前に、王家が何であるか、お前は知っているのか?」

「僕にとっては興味がないことだ。だが、交渉のために必要な話しなら教えてくれ」




 すると、トウヤは詩を音読するかのように、あるいは教師が生徒に教えを説くように滑らかに説明した。




「正義か悪か、味方か敵か、あるいは王家に従うか否か……」




 この世界には、四つの大国と三つの小国がある。大国は、北闇の国、東昇の国、南光の国、西猛の国があり、小国は大国と大国の間に位置する形で、光影の国・力道(りきどう)の国・月夜の国がある。


 王家は、南光の国に君臨し、すべての国を統治している。


 この世界には、人間以外の生き物が存在する。見た目は人間なのに姿を変えることができる者と、最初から人間の姿でない者だ。その程度から、王家は前者を〝軽度〟、後者を〝重度〟とした。

 

 王家が軽度に与えた名は、半獣人(はんじゅうじん)半妖人(はんようじん)だ。総称して混血者(こんけつしゃ)と呼ばれている。

 

 王家に逆らう者はおらず、王家が悪だと判断した生き物はすべて、王家あるいは人々によって死に追いやられた。


 ところが、絶対的支配者である王家にもわからないことがあった。


 この世にいるすべての生き物を、獣妖人(じゅうようじん)と呼んだ者の存在だ。この呼び方は、弱肉強食を示すといわれているが、王家はそれを否定するために何百年も前から血眼になって探し続けているらしい。


 そんな王家は、一度だけ世界中を戦場に変えたことがある。多くの兵士が血を流し、人々は空を見上げることを忘れたという。王家の力で葬られた歴史はすべての日常を狂わせ、真実は太陽の光によって隠されてしまったそうだ。


 人々は皆、明るい場所を目指していた。そして、王家が定めた法により、人々は闇を避けるようになった。なかには、王家に存在意義を示そうと必死にもがいた者達もいた。彼らのほとんどが、闇影隊(やみかげたい)に身を寄せた。


 その組織は、決して英雄視されることのない表だった組織だ。


 とはいっても、組織全体というわけではない。二割は確かに英雄として崇められていた。国は戦果に見合った褒美や地位を与え、民衆はお祭り騒ぎとなり、国を明るくしていた。だが、それは残りの八割にとってどうでもいいことだった。

 

 彼らは、二割の英雄達よりも先陣を行き、血を流していた。しかし、誰一人として、その戦果を称賛されることはなかった。


 彼らは、二割を遠ざけ、同じ空気を吸うことすら拒絶していた。けれど、存在を認めさせようと必死になっていた。


 彼らは、二割と対立しながらも、二割の命令に従った。けれど、自己主張をやめることはなかった。


 彼らは、二割よりも寿命のある生き物だった。けれど、二割よりも平均寿命は短かった。


 彼らは、二割を心の底から憎み、嫌っていた。けれど、すべてのために戦っていた。


 闇影隊は、八割が人間ではなかった。


 この組織を結成したのは王家だ。それなのに、王家は混血者を厳しく取り締まり、酷いときには死刑に処していたのが当時の現状で、過去の混血者への対応は無慈悲だった。




「王家とは、この世界のルールだ。国を支配し、歴史を作り変え、情報を操り、命を左右し、法で縛り、正義を(うた)う。人間に都合の良い世界は、次第に善悪の判断がつかなくなり、今の世界が出来上がった」




 洞窟内は決して景色が良い場所ではない。けれど、トウヤは黄昏れるみたいに遠くを眺めている。




「今となっては混血者の存在も重要視されるようになった。だが、それは国民だけであり、王家からすれば実に都合が悪い。奴らがなぜ先代の意思を受け継ごうとするのか、俺にとっては馬鹿らしいことこの上ないが、……そうだな。王家は敵だ」




 奴らは、俺達の居場所を消す――。


 そう言って、トウヤはゆっくりと立ち上がった。

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