第6話・生きた証
待ちに待ったこの日――。
「キト、いいぞ」
僕だけがお留守番の絶好日和。キトが姿を現す。
「記憶を確認してくれ」
「だから、コミュニケーションを取れと言っているだろう……」
初めは呆れた顔でいたキトだけど、記憶を覗いてからはその表情がさらに深さを増した。理由はわかっている。ナオトの事ばかりだからだ。
土地神については解決策は一つしかない。全員を同じ場所に揃え、ラヅキが引き抜きを行う。ラヅキも自由になれるし一石二鳥だ。しかし、ナオトに関してはそうもいかない。
「頼む、手を貸してくれ……」
キトに頭を下げたのは人生初だ。
「ただの友人にどうしてそこまで肩入れする。しかも、お前が嫌悪を抱く種族、人間だぞ」
僕を見下ろすキトを仰ぎ見る。
「他人に思えないんだ。もっと近しい存在に感じる……。友人以上の何か……」
出会った時からそうだった。ナオトも同じ気持ちを抱いていたし、自己紹介より先に出た言葉は互いに重なるものだった。
ナオトの能力や性格にただ惹かれただけじゃない。僕達は見えない紐で繋がっているような気がする。
「それに、僕は今まで、ただ生きて好きなときに死んできた」
言いながらキトの手を自分の手に取る。古傷ばかりのキトの手は人生を物語り、抉られた溝の深さや皮膚の突っ張りは色さえついているように見える。それに比べて僕の手は、あまりにも綺麗だ。
「この世界が僕の生きるべき場所なら、ここで何かを残したいんだ。生きた証を刻みたい……。確かに僕の手が届く範囲は限られているかもしれないけど、友達に届くならそれでいいんだ」
「また土地神に問題が起きたらどうするつもりだ。同時にナオトやイツキが危険に陥ったら、その時、お前はどう選択する」
「僕はヒーローじゃない。どうしようもなくなったら、簡単に友達と死ぬことを選ぶだろう」
「…………世界を捨てるのか?」
「僕が望むのは皆が平和としている日常だ。この世界にそれを望めないなら、必要ない。僕にとってそれは幸せではない」
「自分中心だな」
「当たり前じゃないか。この世界が何の為に残されたと思っているんだ。僕のためだぞ」
キトが口の端を上げてニヤリと笑う。
「その答え、気に入ったぞ。お前のためだと言うのなら喜んで地獄に堕ちてやろう。どのみち、守ってやれるのは、後にも先にも俺しかいないのだからな」
「どういう意味だ?」
「率直に言ったつもりだが……」
まあ、それもお前らしくて良いだろう――。そう言ってキトは僕の髪で遊び始めた。
「それで、何をしてほしい」
「チョウゴの話しの裏付けを取ってきてくれ。あいつの心にはパッセロ家の教えが根強くあると信じたいけど、一応は威支のメンバーだ」
「お前とリンが重なるだけだとは思うが、いいだろう。あれが事実なら、また別の組織を捜すことになるな」
「その必要はない。誘き寄せる」
「ほお……。作戦は?」
「ヘタロウを使う。王家から奪い返すんだ」
「ならば、俺は光影の国を調査する。侵入経路や味方に付きそうな奴がいないか調べてくるとしよう」
「助かる。王家へ潜入する前に結界と封印を解こう。これでお前は自由に暴れられる」
「楽しみだ」
早速チョウゴの所へ行くみたいだ。キトの姿が消えていく。
「……ユズキ、一つだけいいか?」
「なんだ」
「お前が行くべき道は俺が広げてやる。だから、気持ちを強く持て。いいな?」
返事をする前にキトはいなくなった。
そうして次に呼び出したのはラヅキだ。ヒスイと手合わせした時に発見した体質の変化について心当たりがないかを尋ねる。
ラヅキの答えは、僕の推測通りだった。器になって、イツキやライマルのように身体へ影響がでている。
「やっぱりか。おかげで助かった。それにしても、どうしてヒスイの言霊は狼尖刀に吸収されたんだろう」
「その爪は、契約を交わした際に我が与えた武器だ。この世界に生存する生き物の力は全て無効化される」
「……スラスラと説明してくれているが、とんでもない事を言っていると気づいているか?」
「そんなたいした代物ではない。単純なことだ。この世界は我の力で生きている。生き物はそれを食べ、子孫を残してきた。故に、皆が我の子であり力なのだ」
神の使いだとチョウゴに言ったが、あながち間違いではなかったようだ。
しばらくして、メンバーが続々と隠れ家に帰ってきた。タマオの報告によると、変わった様子はなかったそうだ。
流れが止まっている今がチャンスだろう。ヘタロウを救出し、走流野家と重度の繋がりを確かめる。そして、捕らわれた理由を、ヘタロウが何者なのかを突き止めなければ。
その日の夜、1分も立たずに消えたキトはこう言い残していった。
チョウゴの記憶は見られなかった。威支の記憶は俺の力では覗き見られない――、と。
キトはその原因を確かめるために僕から離れることとなった。光影と同時進行だ。しばらくは会えないだろう。




