第5話・狙われるナオト
タマオの手伝いをしながら組織の構造を把握する。
威支は重度の集まりというだけで、この中にリーダー的存在はいない。タマオはマヤと行動し、コウマとハクマは2人で遊び、ヒスイは常にトウヤの隣にいる。たまに犬の兄弟と喧嘩しているけどタマオが間に入って止めている。マヤがいなくなっても、この日常は変わらない。
残りのメンバーはというと、敵状視察のため留守にしていることが多い。この場合の敵状視察とは、四大国を指す。けれど、誰かが指示を出したわけではない。意見を交換し、それに賛成した者だけが視察に向かった。月夜を最後に大掛かりな襲撃はしていないようで、今は様子見といったところだ。
そうして今日、仲間が新たな情報を手にして帰ってきた。その内容に、自由に行動している皆の動きが止まる。
「走流野セメルが逮捕されたそうだ」
伝えたのは、猪の重度・イザナ。青島を倍にした体格を持つ重度である。まだフードの姿しか見たことがない。
座っているトウヤがイザナに向いた。
「唯一、信頼性のある情報源を奪われたか……。青空イツキ、奴の言霊は危険だな」
牢鎖境に封じ込められたコウマの記憶、それをイツキは見たはずだ。その時に〝氷のお化け〟を目撃したのだろう。
「セメルと交わした契約はどうする」
「無効だ。もう息子達を守る必要はない。しかし、我々にとっては都合が良い。これで息子が手薄になったわけだ」
「奴にはどう説明する。月夜以来、姿を見せていない。勝手に判断していいのか?」
「心の奥底で何を考えているかわからん奴だ。俺はあいつを信用していない。それに、十分に手は貸してやった」
そう言って、コウマとハクマに歩み寄って髪を撫でる。
「2人はよく堪えてくれた。すまなかったな」
いったい何の話しをしているのだろうか。喜ぶ兄弟と同じ気持ちなのか、あのヒスイですら兄弟のはしゃぐ姿を見て微笑んでいる。
チョウゴと目が合うと、外に出るよう促された。しばらくして彼がやって来る。
「月夜の民を惨殺した犯人の情報がある。着いてきて」
言いながら、洞窟を離れて歩み始める。
「俺なりに頑張ってみたんだ。犯人を知っているのはトウヤとイザナだけだ。2人は裏で取引をしていたみたいで、他のメンバーは別の人物と手を組んでいるだなんて知らされていない。だから、今でも西猛と北闇、そして月夜の襲撃は威支の誰かの作戦だと思っているはずだ」
「盗み聞きは良くないぞ」
人の事を言える立場ではないが。
「それしか方法はなかったんだ。仕方ないだろ」
「冗談だ。それで、2人はいつ犯人と知り合ったんだ?」
「その話しをするには少し遡ることになる」
森を抜けて、海を見渡せる丘を登った。眩しい太陽から視界を守っている僕と、フードを脱ぐチョウゴ。彼は獣化し、人が2人乗れるくらいの大きな鷲に変化した。視界を守る必要なんて無い。チョウゴの影に僕は飲まれている。
「乗って。話しは空でだ」
「本気か?」
「メンバーの中で飛べるのは俺だけだ。空が一番安全なんだよ」
背中に飛び乗ると、丘から海へ落下した。半分ほど落ちたところで、折りたたまれていた翼を広げる。今度は空へ向かって上昇し高く飛んだ。生まれて初めての経験に興奮しているのは内緒だ。
「獣化して人の言葉を話せるのか?」
「話せるけど、本物の獣になってしまったら、もう人には戻れない。だからあまり時間は無いんだ」
「わかった。本題に入ろう」
獣語での会話になるのかと冷や冷やした。獣語は獣化を解いてしまう。スカイダイビングの心配はなさそうだ。
空を旋回しながらチョウゴは話し始めた。
「始まりは12年前。ナオト君が誕生した日に遡る。その日、メンバーの中で最も共鳴に過敏なトウヤに奇妙な事が身に起こった。本来、重度にしか反応しないはずの共鳴が走流野家の息子に起きたんだ。しかもその日は、君も知っての通り、巨大な獣を封印した実行日でもあった」
トウヤは東昇にいて北闇へ向かうことは出来なかった。けれど、頭に流れてきた映像はしっかりとナオトを映し出していた。
初めはナオトの事を重度だと思っていたそうだ。ヒロトが1歳の時に誘拐されたのにはこれが関係している。2人は双子だが、トウヤはそこまで把握していなかったようで、ナオトが本部で育てられているとは露ほども知らずヒロトに手を出してしまったのだ。
トウヤは誘拐に失敗したものの、重度ではないと知った。しかし確かに共鳴した。しばらくは様子を伺うだけに止まり、そうしてある噂を耳にした。
それは、〝呪われた双子〟だ。
「もう1人の方と共鳴した可能性もある。トウヤはまた作戦を練り直した。その時に接触してきたのが神霊湖でナオト君を襲った犯人だ。月夜の件も奴の案らしい。そいつもトウヤと同じ現象が起こったらしくて、手を組んで謎を解明しようとした。かなり慎重だったみたいで、実行したのは何年も後だ」
確か、8歳の時にまた誘拐犯がやって来たとナオトが話していた。けれど、国内に侵入される前に阻止されたのだから失敗に終わっている。
「運悪く、実行日が精鋭部隊の試験日と被ってしまった。外に大勢いて、その中の1人に邪魔された。手から黒い触手を放つ異様な隊員だったそうだよ」
考えるまでもなく、それはイツキだろう。
「マヤが君達に狙いをつけたのは、ちょうどその頃くらいだ。急に夜な夜なうなされるようになって、次第には日中問わずマヤは頭痛に悩まされた。記憶に苦しめられる、殺されるって喚きながら世界中を捜し回ってたよ」
「これにも犯人は関わっているのか?」
「ああ。情報提供者がいる。セメルじゃない他の誰かだ。そいつと犯人は仲間で、威支とは別に組織があるんだと思う。そいつが犯人に情報を渡して、犯人からマヤへ君達の素性を明かしたんだ」
二度目に北闇へ訪れた時だろう。あの時、マヤは混乱している様子だったが、僕とナオトの名前に対して異常に反応を示していた。ナオトだけを捜しているのかと思っていたが、そもそも頭痛のせいでまともに会話できていなかったようだ。
「おかしな事に、マヤが君達を狙い始めてから、他のメンバーも記憶でナオト君を見るようになったみたいだ。俺はまだ見ていないけど、口々に殺されるって言っている。多分、これがナオト君を狙う理由だよ。俺が記憶でナオト君を見れば何かわかるかもしれないから、もう少し時間が欲しい」
「ありがとう。それにしても、どうしてお前は僕側についたんだ?」
「…………マヤが殺された日、あの攻撃は明らかに俺も範囲内に入っていた。トウヤと犯人が繋がっていたんだ。もう信じられないよ」
地上へ降り立って、チョウゴは獣化を解いた。
隠れ家への帰路を行く。
「まだ聞いてなかった。裏で取引って、なんのことだ?」
「セメルの父親が王家から脱走した場合に始末する、というものだ。危険人物には見えなかったけど……」
「王家に渡した理由をトウヤは知っているのかな」
「いや、あの様子だとわかっていない。だから、簡単に犯人と手を切ろうとしてるんだ。だけど、ヘタロウの捕獲作戦に指定された南光の闇影隊の人数はとても多かった。もしこれが犯人からトウヤへ提案した人数だったとしたら、奴はヘタロウを捕獲する意味を十分に理解していることになる」
チョウゴが振り返る。
「何やら悪い方向へ進んでいるような気がしてならない」
僕も同じ心境だ。




