第2話・威支
「すみません。少し気持ちの整理をしてもいいですか?」
「僕のことは気にするな。この野菜を引っこ抜けばいいんだな」
「はい、助かります。優しくお願いしますね」
蛇の重度に呼ばれたチョウゴと、後に着いていったハクマ。僕はお手伝いさんのお手伝いをする為に洞窟の外にある畑へとやって来た。
「……ややこしいな。名前を教えてもらってもいいか?」
「あ、申し訳ございません。私はタマオと申します」
「僕はユズキだ」
遠くを見つめながら、タマオが僕に声をかけてきた。とても静かな口調であるが、声は僅かに震えているし、まるで詰まっている物を無理矢理に掻きだしているみたいな喋り方だ。知りたくはないけれど、知らずにはいられないのだろう。
目が充血している。時折、タマオは僕から顔を背けた。
「犯人に心当たりがあるだとか、影を見ただとか、なんでもいいのです。何か思い出せませんか?」
「すまないが、チョウゴが説明した通りだ。僕から言えることは何もない」
「そうですか……。なんだか不思議な感覚です。マヤ様が生きている気がするのです。長い間、共に苦難を乗り越えてきましたから」
それからタマオはマヤとの思い出に浸った。とはいっても、苦難と言うだけあって明るい内容ではない。出だしを聞いた瞬間から、僕は野菜の頭を握ったまま肝をつぶすこととなった。
「もうどれほどの年月が過ぎたでしょうか。まだ闇影隊がない時代だったのは確かです。この世は、忌み嫌われる混血者と人間の対立で混沌としておりました。私の一族は、争いから逃げるように細々と暮らしていたのですが、それも時間の問題でした」
人間による混血者狩りが白熱し、ついにタマオの一族も発見されてしまった。
重度の存在がまだ知れ渡っていなかったのは、彼らが半獣化・半妖化しているのだと人間が思い込んでくれていたおかげなんだそうだ。
「重度だと知れればどんな目に遭わされるか……。一族の長は、混血者として死ぬことを徹底しておりました。なにせ、私共は生まれ変わります。次世代の安寧のため、これは曲げてはいけないルールでした」
「戦わない……、か」
「左様でございます」
されるがままに、次々と殺されていく仲間達。生き残ったのはタマオだけだった。彼は死ぬ覚悟を決めた。そこに現れたのがマヤだ。
「瞬く間に人間を一網打尽にしたマヤ様は、私の手を取り、目を見て、こう仰いました。重度として生きろ、と。その言葉にどれだけ救われたことか……。ともかく、こうして私はマヤ様に魂を捧げたのです」
マヤはタマオに人間狩りをさせなかったそうだ。人間に対する優しさが残っている以上、生半可な気持ちで戦場に立たせることは出来ないとの理由だ。
彼の一族は、逃走と死を選んだ。故に、タマオは戦い方を知らない。
「私の託された役目は、マヤ様の生まれ変わりを保護し、その者に役目を与えることにあります。それは生きる糧となり、威支の一員となることで仲間がいるのだと安心させることができます」
「だが、いつ産まれるかはわからんだろう?」
「重度は互いに感じることができるのですよ。共鳴のようなものでしょうか。特に、トウヤ様は過敏でいらっしゃいます」
「トウヤって誰だ?」
「先程、話していたではありませんか。蛇の重度ですよ」
話している間に落ち着いたのか、僕の隣で収穫を始める。
「私としたことが、自分のことばかりですね。威支について教えておきましょう」
「助かる」
「とりあえず、名前を覚えましょう」
蛇の重度・トウヤ。馬の重度・バコク。羊の重度・ヨウヒ。猿の重度・シュエン。鳥の重度・チョウゴ。犬の重度・コウマとハクマ。猪の重度・イザナ。
「後は、私、タマオと、猫の重度・マヤ様。そして、最後にもう1人」
「まだいるのか」
「組織の中で最も貴重な子です。……龍の重度・ヒスイ」
「――っ、龍だと!?」
愛嬌のあるえくぼをみせてタマオは笑った。僕の反応が面白かったようだ。
「予想を裏切りませんね。どこか恐ろしさを感じる生き物ではありますが、彼は無害です。組織で一番気をつけるべき人物はトウヤ様でしょう。絶対に彼を怒らせてはいけませんよ。彼、包帯で目を隠していたでしょう?」
「ああ」
「あれには理由があります。彼は、目が合った者を殺してしまう呪眼の持ち主です。だからああして眼を覆っているのですよ」
威支のメンバーは全員で11名。これが、世界を敵にした組織の実態だ。
彼らが本気で世界統一を目論んでいるのなら、多くの犠牲を払いながら、夢を叶えてしまうだろう。
威支とまともに戦える人間や混血者など存在しない。走流野家の力をもってしても敗北は決定だ。
しかし、やはり気になるのは――。
「威支と王家の関係はどうなってるんだ?」
タマオが僕に向く。
「なぜですか?」
「最近まで王家の地下牢に捕まっていたんだ。もしグルだとしたら、僕にとっては非常にマズイ。念のためにチョウゴにも確認したけど、下っ端だからわからないと言われた。タマオなら知っているんじゃないかと思って」
「手を組んでいたとしたら、ユズキ様はどうなさるのですか?」
「僕を殺すなと頼んでくれ。この体質だ。ここじゃないと、きっと生きていけないだろうから」
カゴを背負って、タマオは「行きましょう」と言って歩く。
「何人かがユズキ様の仲間入りを反対した理由は、それですよ。あなたが王家に捕まっていたことは組織は知っています。ですが、そうですね。王家はグルです」
言い回しに、僕は口を閉じた。
「互いに野望があります。途中までは同じ道を行きますが、最終目的は違う。私共は世界統一。王家は根絶といったところでしょうか」
「何を滅するつもりだ」
「人間以外の生き物ですよ。そして、私共は、組織以外の生き物を神の元へ送ります」
未来が見えたような気がした。
いずれ、戦争が起きる――。




