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第6話・見えない答え

 レンガばかりが目立つ南光とは打って変わり、緑豊かな当時の南光が僕達を出迎える。


 木に登って遊ぶ子どもや虫取りをする子、木陰でシートを広げて弁当を食べる家族。川で釣りをする人もいれば、仕事に励む人々もいる。




「私は大地ではなくの空に身を潜めておりました。この大きな翼で雲を集め、人間の目に映らぬよう、そうして何百年をすごしてきたのです。しかし、この日の夜はいつもと違いました」




 時間が早送りされ、空はグラデーションを描き、夜空に無数の星が散らばった。




「私の姿は目視できません。それなのに、地上から私に視線を、……殺気を送る者が現れた。あの者は空を仰ぎ、雲の隙間から様子を伺う私の瞳を捉えた。そして、脳に直接イメージを送ってきました。この世界が破滅する光景を……」




 シュウはクチバシから大地に向かって飛行した。奴を生かしておいてはいけない、そんな感情が速度をあげていく。しかし、シュウの攻撃範囲に奴が入ると、目の前から急に消えてしまった。




「私はまんまと地上へ誘き寄せられた。待ち構えていたのは、封印術士と闇影隊……。少数ですが、降り立った場所は術式の中。為す術もなく、取り押さえられた。幸運だったのは降り立つ前に身体を収縮できた事くらいでしょうか」




 激突すれば、南光は業火に焼き尽くされる。この言葉にガイスは息を飲んだ。




「封印術士は我が身に私を封印しようと試みました。私が、私達が、どんな生き物であり、何を支えにこれまで生きてきたか考えもせず……。愚かな行為です。だから犠牲者が生まれた」




 そう言って僕を見る。




「西猛を除き、三ヶ国で器となった者は皆が同年代の赤子です。なぜ封印術士の身に封じ込まれなかったかご存じですか?」

「いや、そこまでは聞いていない」

「…………私達の想いが、執着が、希望が、様々な感情が全て一点に集中しているからです。赤子が選ばれたのは、ユズキ様、あなたとの思い出が最も濃く記憶を支配しているからですよ。まだ幼かったあなたが、私達を怨念という呪縛から解放した。ユズキ様がこの世界を去るまでの日々が、この事態を招いたと言っても過言ではありません」

「記憶、か……」




 確かに、僕自身もキトとの記憶に執着している部分がある。付き合いが長いからではあるが、彼以上の友人は現れないと、どこかそんな確信が得られるまでにだ。


 だからこそ、これまではトラガミやラヅキの話しを聞いても他人事のような感覚でいた。記憶を見たとはいえ、実際に経験した感触はない。僕にとってあの記憶は空気と同じだ。しかし、そうも言ってられない。


 シュウの言葉通りなら、記憶のような出来事があったにせよ、イツキやリンに封印されたのは僕のせいだ。密に獣と関わったからこのような事態を招いてしまった。記憶になくとも、それが事実なら、関係がないと背を向けてはいけない。


 この時、僕は初めて危機感を抱いた。




「僕が見せられた記憶に嘘偽りはないんだな」

「ユズキ様との大切な記憶になんの色を加える必要があるでしょうか。私達はあなたのために世界を生かしています。けれど、それを邪魔する者が現れた……。ラヅキ様の怒りは頂点に達しているでしょう。私とて同じです。何の為に過去への憤りを葬り去ったのか……。それを無意味な物にさせるわけにはいかないのです」




 人魂のようになったシュウの身体は、封印術士ではなく、どこかの民家に飛んでいった。そうして、赤子にシュウが吸い込まれる形でいなくなる。すると、南光にある緑が次々に朽ちていった。再び景色が歪み、牢屋へと戻る。




「ラヅキはそこまで話してくれなかった……」




 シュウが目を細めて微笑む。




「当然です。ラヅキ様は意地っ張りなお方です。ご自身の口からは、死ぬまで愛の言葉を言わないはずですから」

「愛……?」

「おわかりになりませんか? ユズキ様、もう一度よく記憶を思い出してください。ヤエがなんだったのか、あなたはもう気づいているはずです」




 シュウの姿がどんどん透明な物になっていく。




「時間ですね。封印が解かれたとき、またお会いしましょう。リン、いつも言い聞かせていますが、死んではいけませんよ。理由はもうわかりましたね?」




 リンが頷く。


 こうしてシュウはリンの中に帰って行った。シュウの言葉の意味がわかって心臓が激しく鼓動している僕と、疑問が胸を渦巻くガイス。




「南光には封印術士がいるのか?」

「依頼がないと自国からほとんど出てこない奴らだよ。思うに、オウガ様はあの件で動いたんじゃないかな……」

「というと?」

「オウガ様には弟がいる。ヘタロウさんと同じく行方不明になったけど、その時、こんな噂があったんだ。重度とはまた別の、二本の足で歩く生き物がいるって。それも各国に一体ずつだ」




 ガイスはその頃の出来事を詳しく教えてくれた。派閥があったことや、その派閥のせいで人々の間に亀裂が入ったこと、片方の派閥の筆頭だった弟をオウガが恐れていたこと。




「トア派は混血者寄りだ。オウガ様は謎の生き物とエイガ様の接触を阻止しようとした事があった。重度が発見されたから、途中で放棄したんだけどね。ここからは推測だけど、どこからか手掛かりを得たんじゃないか? シュウみたいな生き物の存在が明らかになって、光影に依頼した……」

「だとしたら、王家と、王家に情報を渡した者は繋がっていることになるが、その考えでいいのか?」




 王家に忠誠を誓う闇影隊。彼もそうだろう。




「地震の被害でどれだけの人が亡くなったか……。それなのに、この事を黙っているだなんて……。リンも決して良い環境で育ったわけじゃない。彼女を受け入れてくれたのは、王家ではなく、この子達が初めてなんだ」




 荒い口調でクロムが僕に言う。




「なんでこんなっ……。――っ、あんまりじゃねえか!!」

「僕に言われてもな……」

「んなこと、わかってんだよ! 俺はどうすればいいんだ!?」




 クロムの鼻息を感じながら、僕はある違和感を抱いていた。幾度となく挙がった存在、重度に土地神、影の者に王家。この中に一度もナオトやヘタロウの名前が出てきていない。


 世界各国で目撃されたという光の柱。人々に噂される器。ここまで公になっているのにも関わらず、走流野家がかすりもしないなんて変じゃないか。


 そこで、ふとヘタロウの言葉を思い出した。




「息子が鍵を持っている……。鍵……?」




 ヘタロウのは牢屋の鍵という意味だが、そもそも、この一連の事件の鍵が走流野家だとしたら?


 重度が狙ったのはナオトで、尚且つセメルは自分の父親を南光に引き渡している。




「どうすればいいのかと聞いたな。……ナオトって子を守ってくれ。絶対にあの子を死なせてはいけない……」

「そうじゃなくて、俺はリンを守りてえんだ!!」

「リンを守りたいなら、ナオトを守れ」




 ガイスが間に入る。




「例の地下と関係しているのか?」

「ああ。その孫と僕はピンポイントで重度に狙われた。素性はバレていないが、なんだろう……。喉まで出かけているのに、その答えがわからない」

「言いたいことはわかるよ。あの人の家系は特殊だ。王家ときて重度。シュウに光影。情報が足りない。あまりにも間が抜けている」

「確かなのは、2人を死なせてはいけないということだ。特に地下の者はな」




 もやもやする話しにクロムが発狂した。




「あー、もう、わかったよ! ナオトって奴を守ればいいんだな!? それでリンが守られる事になるんだな!?」

「頼めるか? 上級試験でここに来るはずなんだ」

「やってやるよ。んで、どんな奴なんだ?」




 ナオトの容姿を細かく説明すると、しだいにクロムから怒りが引いていくのがわかった。




「ちょっ、ナオトって、走流野ナオトか?」

「なんだ、知り合いか」

「んなわけ! 薄紫色の瞳で混血者と同じ能力だろ? そんな奴、走流野家しかいねえよ。マジかよ、走流野家の奴を守らなきゃいけねえのかよ……。責任が重すぎるっつーの」

「ともかく、黒い前髪が目を隠している奴だから一目見ればわかる」




 そろそろガイス達は城を出なければならない。長居は怪しまれる。




「君はどうするの?」

「キトが戻るまでここにいる」




 そう答えて、リンを呼んだ。




「お前の人生が狂ったのは僕のせいでもある。すまない……」




 暗くてよく見えないが、リンはどんな顔で僕を見ているのだろうか。


 こうして、牢屋はいつもの静寂を取り戻した。

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