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第4話・結界

 扉には鍵穴がついている。キトが言うには、鍵で開けたとしても、封印を解かない限りはヘタロウを外へ出せないかもしれないそうだ。


 


「鍵の場所を知っているか?」

「愚かな息子が持っているだろう……」




 聞きたいことは山ほどあるのに、あれから一言も発しなくなったヘタロウ。死んでしまったのかと不安になる。




「戻った方がいいぞ。叫び声が止んだ」

「だけど、この人を放っておくわけには……」

「今は無理だ。封印を解く方法を探してからにしろ。話しはそれからだ」




 僕が全身を使って動かした棚を片手で軽々と元の位置に戻すキト。




「しばらく俺が見張っている。これで満足か?」

「すまない」




 階段を上がって牢屋に戻る。松明の火を消して隣の牢屋に隠した。いつ誰が来てもいいように通路に背中を向けて横になった。それから、書類にあった文字を思い起こす。


 カケハシは気づいただろうか。あれには、走流野家と重度と書かれてあった。ナオトに混血者と同じ能力が備わっているのはわかる。しかし、青島やイツキ、タモンの口から重度を臭わす発言はなかった。それなのになぜ、走流野家と重度を結びつけるような一文が残されていたのだろうか。


 おそらく、それを知っているのはヘタロウだ。フードの男はナオトを狙っているし、王家は何かを隠している。隠蔽するためにヘタロウを幽閉した、というところだろうか。


 それでいて、ヘタロウの言葉。




(鍵を持っているのは息子……。ナオトの父親か……)




 なぜ家族を王家に引き渡したんだ。ヘタロウはナオトとヒロトを守ってくれと頼んできた。何から守ればいい。王家か、重度か、父親か。これに土地神も関係してくるのだろうか。


 というのは、ラヅキの件とナオトの件が同時進行で事件化しているような気がしてならないのだ。だとしたら、動かしているのは誰だ? 最も可能性が高いのは北闇を襲ったフードの男だ。しかし、証拠がない。


 これまでにない深い穴へ落ちていく。底では暗闇がぽっかりと口を広げて待っている。招かれるように落下する。僕を閉じ込めるようにして頭上から降ってくるのは数多くの疑問や謎だ。


 扉が開く音で我に返った。どこかにスイッチがあるらしく、辺りが一気に明るくなる。




「この大馬鹿者!! 鍵を閉め忘れるなど、オウガ様の顔に泥を塗る気か!?」

「も、申し訳ございませんっ!!」

「謝罪など無用!! 貴様を解雇する!! 上着を置いて出て行け!!」




 そりゃ怒られるに決まっている。なにせ、ここにはとんでもない事を隠しているのだ。なんて、他人事に思っていると、怒鳴っていた者が何かを命令した。




「……今日中に奴を始末しろ。ここが知れると困る」

「御意」




 怒るだけでは済まないようだ。


 足音は僕の牢屋の前で止まった。冷水をかけられ、思わず飛び起きる。




「いつまで寝ているつもりだ。侵入者よ」




 振り返ると、僕を見下ろす真っ赤な面と目が合った。素性を隠しているということは、南光の精鋭部隊だろう。獣のニオイもする。




「ん? お前は確か青島班の者では? 思い出したぞ、執務室にいたな」

「あー、爺さんと一緒に北闇に来た奴か。一つ聞きたいんだが、ここが誰に知れるとマズイんだ?」

「……まだ生きたいのなら口を閉じていろ」




 鉄格子を握ると、勢いよく面を叩きつけてくる。そんなに僕と顔を近づけたいのか。




「光の柱の情報を持っているそうじゃないか。話してもらおう。そうすれば罪を見逃し出してやる」

「教えてやってもいいが、水をかけるような礼儀知らずとは何も話すつもりはない。オウガをここに呼べ」

「…………交渉決裂だな」




 (はな)から交渉するつもりなどないくせに、と心で吐く。奴の剥き出しの好奇心がそう教えてくれた。オウガを爺さんと呼んだことを咎めず、南光に侵入した理由も問わない。こいつが興味を示しているのはシュウについてだ。


 まさしく、喉から手が出るほどに欲しい情報なのだろう。鉄格子と離れて出口に向かって歩いていく。




「お前の肉は実験に使えそうだ。世界に役立てられる事を光栄に思うがいい。オウガ様も大変喜ばれるだろう」

「話さなくて済むのならそれで結構だ。楽しみにしているぞ」




 その日の夜――。


 カケハシから受け取った牢屋の鍵でキトに解錠してもらい、人気のない城を堂々と歩く。僕のこの体質、別の世界では気味悪がられたが、この世界では大いに役に立ちそうだ。




「それで、今からリンのもとへ行くのか?」

「ああ。一刻も早くシュウのことを終わらせて、ヘタロウを救出する方法を探したい」

「あの爺さん、そんなに重要だとは思わないが。救う頃には死んでるかもしれんぞ」

「だとしたら、とっくに王家が殺している。しかし、あの状況は人目に付かないように隠している。絶対に何かあるはずだ」




 そうして、やたらと多い監視の目を避けながら扉までやってきた。ここで問題が発生する。開かないのだ。裏から閉めるならまだしも、まさか表から閉めているとは。


 窓から試みてみたが、同様に表から閉められている。しかも、ヘタロウが幽閉されている牢屋と同じで、キトは触れることも出来なかった。


 痛む手を上下に振るキト。




「お前の体質に気づいて出口を塞いだようだ」

「割ればいいだけだろう? これでキトも出られるじゃないか」

「それが狙いだ。見張りの数がやけに多いとは思っていたが、音を聞き逃さないためにだろう。小賢しいことを……。にしても……」




 牢屋へ引き返す道を行きながらキトは言葉を紡ぐ。




「光影と王家が手を組んだとなれば、俺にとっては厄介なことこの上ない。お前に何かあった時、守れなくなる」

「封印か?」

「それもあるが、高等封印術士となれば結界もだ。人間は俺を見ると地獄を想像するらしいが、俺にとっては結界がまさしくそれだ」




 そう言って、僕の目の前に自身の手を見せる。キトの血色の悪い肌が赤くただれていた。




「ヘタロウの扉や城内の窓、あちらこちらが結界だらけってことだ」

「だけど、僕には通用しない」

「ああ、そうだ。この結界はお前を封じ込めるためのものではない。……俺だ」




 キトの存在を王家に知らせた者がいる。


 牢屋に入って、キトが鍵をかける。




「他に出口がないか探してくる。結界が邪魔で少し時間がかかるかもしれん」

「キト……」

「必ず戻る」




 キトが去った場所からしばらく目が離せず、ただ無事を祈ることしかできなかった。

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