第3話・最深部の秘密
扉が開くと、叫び声はより鮮明に聞こえてきた。入ってきた者が扉を閉めた。声をかけようとしたが、その口をソッと閉じる。歩き方がおかしいのだ。松明を片手に音を立てないように、泥棒みたいに階段をゆっくりと下りていく。
僕がいる牢屋は地下のようで、階数でいうと1階だろうか。更に下があるらしい。そいつはどんどん下へと行ってしまった。それからしばらくして、今度は慌てたように上がってきた。少しだけ扉を開いたのか、僅かに光が差し込む。そいつは出る前に休憩した。何か恐ろしい物でも見てしまったか、肩で息をしていて顔色が悪い。
何よりも、見た事のある顔だ。
「カケハシ……?」
「――っ!? 誰だっ」
慌てて扉を閉め、着物の内側に書類を隠すと恐る恐るこちらに歩いてくる。
「前に月夜の壁の建設を手伝った、青島班のユズキだ」
「なぜここに……。とにかく、私の松明が消える前に出よう」
階段を曲がったところに引っかけてあったようだ。鍵の束を持って戻ってくる。
「少し時間をくれ」
「すまない」
鍵を一つ一つ確かめながら、カケハシはこの場所について教えてくれた。
ここは王家の城の地下で、普段使用している牢屋とはまた別なんだそうだ。壁ではなく、廊下に扉があり、施錠されていないことを疑問に思いながらも入ってきたという。
「城内は人体実験で慌ただしい。君を閉じ込めたものの、鍵をかけ忘れたのだろう。それよりも、君がここにいる理由だ」
「青島の命令だ。極秘のな。王家と、北闇を襲った重度について調べている」
嘘はついていない。多分だが。
「似たようなものか。私も青島殿の頼みで南光に来た。王家と重度の繋がりについてだ。他の部屋を調べながら進んでいたら、ここへ辿り着いた。王家に見つかったのか?」
なにやら気になる発言だ。少し探ってみよう。
「正門を通らず壁から潜入した時点で発見された。通行証を持っていないんだ。青島からの個人的な任務だから仕方ないが」
「そうか。ならば、ナオト君もこの事は知らないわけだな。彼のことだ、君がいない事を心配しているだろう」
「イツキがいるから大丈夫だ。今は目先の問題に集中したい。やはり、王家と重度は繋がっているのだろうか」
「少なくとも青島殿はそう疑っている。そしてその証拠を見つけた……」
「どこでだ?」
「ここよりも地下にある納屋だ」
「地下に納屋が? 変だな……」
「私も奇妙に思ったよ。どうやら、王家は重度だけでなく、走流野家にも興味を抱いているらしい。汚れていて全文を読むことはできないが、最後に走流野家の文字が書かれていた。青島殿に渡さなくては……」
カケハシの松明が灯火を失いかけ始めた事、ようやく鍵の正解を見つけ出した。
「オウガはナオトに守ると約束した。僕の目の前でな」
「これを見ても、君はその約束を信用できるか?」
着物に隠した書類を僕に見せる。
「以上を、走流野家と重度に関する見解・報告とする……」
「この報告文を書いたのは北闇の者だ。私は王家も、北闇も、信用できん。青島殿が単独で動くのも頷ける」
「青島に会ったら、これをナオトとイツキにも読ませるよう伝えてほしい」
「それだと極秘にならんではないか」
「極秘任務は僕の件だ。だから、僕に会ったことは2人には伏せてくれ。ただ、この書類は2人も知る必要がある。危機感を抱かせないと、殺されるぞ……」
「青島殿と相談してみよう。私はもう行くが、君はどうする?」
「もうしばらくここに残る。納屋も気になるしな……」
カケハシは牢屋の鍵を僕に手渡して、残りは元の場所に戻した。
「これを使いなさい。気をつけるんだぞ」
「ありがとう」
投げ渡されたのは火のついていない松明だった。地下はまた薄暗くなった。
牢屋にある松明から引火させ、悲鳴が聞こえている内に階段に向かった。手で伝いながら下りないと転げ落ちそうだ。そうして辿り着いた納屋。ここには松明があるようで、人気も無いのに照らされている納屋には異様な雰囲気が漂っている。
「カケハシが話していたのはこの板張りか……。あからさまに新品だな」
板の向こう側にある場所を、最近まで使用していたことを示している。慎重に板を剥がして中に足を踏み入れた。ところが、予想以上に中は古びていた。なぜここを封鎖している板張りだけが新しいのか不思議なほどだ。
悲鳴はまだ聞こえているため詳しく調査する。そうして、本棚の前で足を止めた。端ではなく中途半端な場所に置いてある。少し後ろに下がってよく観察してみると、本棚の後ろに扉があることがわかった。
本棚をずらし、扉の前に立つ。板張りと同じく新しい。だが、鍵がかかっている。
「…………誰かいるか?」
そう声を投げて、扉に耳を押しつけた。鍵が擦れる音よりも大きく、鎖が地面を這いずるような金属音が聞こえる。扉が僅かに揺れた。
「聞い……てくれ……」
今にも死にそうな、枯れた声。弱々しい力で扉を叩きながら声を絞り出している。
「北闇に走流野という家族がいる。子ども達を守ってくれ。どうか……、この通りだ……」
「――っ!? お前、名前は!?」
「走流野……ヘタロウと申す……。頼む、あの子達を、私の孫を……」
扉に体当たりした。分厚いのかビクともせず体力だけが消費されていく。狼尖刀で試してみたいところではあるが、傷がつくだけだとしたら、自ら証拠を残すことになる。どうせ証拠を残すなら破壊したい。
「くそっ。キト、見ているんだろう!? 手伝ってくれ!!」
「俺は手を貸さな」「早く!!!!」
キトに声を荒げたのは初めてだ。本人も目を丸くして驚いている。
「ったく、どうなっても知らないぞ。離れていろ」
言いながら、扉に手をかざす。すると、キトの手が千切れんばかりに弾き返されたではないか。
「…………俺の腕はまだ存在しているだろうな?」
「あ、ああ……。なんだ、今の」
弾かれた手を上下に振りながら答える。
「これは結界だ。厄介な国に造らせたらしい」
「どの国だ」
「小国・光影の国。聞いたことはあるだろう?」
「確か、イツキの母親の出身国だ」
封印術士と呼ばれる能力者が住む、光影の国。まさか、行方不明となったナオトの祖父が牢獄されているだけでなく、封印されているなんて。
いったい、何者なのだろうか。




